Neetel Inside 文芸新都
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LOWSOUND 十字路の虹
40 Holiday

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 結論から言うとこの年は全体的にひどい出来事が多かった。通常、都市を防護する結界が複数の塔によって維持されており、強力な魔物が発生したり侵入したりできないようになっているのだが、九本あるうち二つの塔が四月に停止し、巨獣が市内に発生し、外郭部を破壊した。多数の死傷者が出て、多くが悪霊と化した。あまりに呪術的にひどい損傷が発生するとその区画は破棄されてしまうが、今回も数ブロックがそうなってしまった。立ち入り禁止に指定された区域には地下鉄の線路が通っており、それに代わるバイバス路線工事の最中に竜の遺骸が発掘され、そこから魔物が湧いた。これまでの、アスファルトに亀裂が生まれ、気色の悪い肉塊が形成される現象の原因はこれのようだった。
 災厄の後、すべての竜は力尽き死に絶えたが、その死骸から湧いた多数の魔物は大陸を埋め尽くし、百年後にアンゼリカ一世とその騎士たちが侵入するまで人々を虐げ、生態系を破壊し、大いなる呪いで世界を汚した。未だに都市の中においてもその影響は残り続けているということが改めて明らかになった。魔物は討伐され、その死体と竜骸はまとめて荼毘に付されたが、死体が変質していたからか、教会の埋葬部がぶっ掛けた薬液や香のせいか分からないが、やたらと甘ったるい臭い――腐りかけの果物のような――が都市に蔓延した。この結果、頭痛、吐き気、倦怠感、食欲不振、便秘、苛立ち、昏倒、希死念慮などの症状を訴える住民が多発、しかし教会側は「皆さんの我慢が足りない」と言い、これに不満を持った住民が暴動を起こし、鎮圧された。
 マリアはこの四月期騒乱において、波状機構をやめていてよかったと心底思った。バルクホルンやジャックはかなりあわただしく動いていた。リンドブルム陰謀団は緊急に何らかの儀式を行わなければならなくなったようで、路上駐車してある車や電柱、そこらの民家の壁にクレヨンで奇怪な文様を描いたり、どこからか壊れた洗濯機を大量にトラックで運び込んで、歩道を塞いだりした。その最中、もともとちょっと異様だった団員、キャシディがいきなり「へっへっへ」と笑いながら通行人を殴打し始め、誰も止めないので見ていたマリアは、あれも儀式の一環だと思っていたら違ったらしく、警察に連れて行かれた。
 ある日テレビを見ていると、正統魔女会の中で変異を伴う急性黒晶病が流行し、何人か死んだというニュースが流れ、スピネル大姉が巻き込まれて帰らぬ人となっていた。
 五人位の魔女が、昼時の喫茶店で異形化し、巨大な黒い狼となって人々を襲った。スピネルは片腕を食われたが、最後まで呪詛銃弾を化け物に撃ち込み続け、しかし出血で死に、狼と相打ちの形になった。店内は黒い血が飛び散り、そのまま閉店となった。
 警察署長とか、魔物狩り組織の支社長とか、市長も記者会見で「問題はないです」と言うばかりで、市民へのインタビューでも、あの人が大丈夫だって言うんだからそうなんじゃないですか、という声がほとんどで、しかしその後ろで触手のある怪物が通行人を捕食していたりしていた。
 こんなときこそ音楽の力で市民を勇気付けようと路上ライブをしていたバンドが、暴徒化した群集に射殺されたり、魔女会の変異に対して魔女狩りの人間たちが決起し、街に火を放ったり、帝都から来たアイドルが飛び降り自殺をして後追いでファン五十人が死んだり、四月は本当に大変だった。
 こんだけの騒動が起こったんだから、年号が変わるのではないかとマリアは思っていたが、政府の発表では、大陸全土に騒乱が広がってるわけでもないんで、今回は変わらないです、ということだった。この時期マリアは仕事もしていなかったし、学校も臨時休校だったので、ほとんど家から出なかった。

       

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