Neetel Inside 文芸新都
表紙

LOWSOUND 十字路の虹
50 Demon Slayers

見開き   最大化      

 非常に空気が乾燥して埃っぽい日があった。なんかの休日で、店は軒並み閉まり、大学も休みだった。太陽が不気味に鈍く光り、なんだか嫌な感じがした。
 飲料水を買おうと外の自販機に行くとすべて売り切れ。
 咳き込んでいるマリアの前に二人組みの男女が現れた。両者とも埃っぽいスーツで、公的機関の人間のような雰囲気がした。波状機構の構成員に似たそれだ。
「水買いたいんだけど売り切れ? ああ、売り切れだね」女のほうは赤髪で、背が高く、マリアを上から覗き込む感じで睨んだ。「こんな日に、外にいると、危ないと思うんだよねー」
 男のほうは小柄で痩せていた。陰鬱そうで、溜め息を何度か吐いた。クロスマンが性転換したようだとマリアは思った。
「あなた方は誰ですか?」
「かつて〈灯し主の短剣〉が魔女を悪霊化させてしまったことがあったそうだよ、それはどうにか倒したそうだけど今また新しい脅威が迫っていてそれは悪魔なんだよ」
「あー、悪魔だよね。悪魔は危険だと思う、うん」男が相槌を打った。
「そう危険だよね」
「悪魔狩りの方々ですか?」マリアは彼らのイントネーションから、外国人らしいと推察した。どうやらコリムの人間のようだ。かつて同僚だったマリア・ロッシにもわずかにあった訛りが彼らの口をついて出る。両者ともぼそぼそと囁くように、目の前のマリアや相棒とでなく、脳内のなにかと語らうように喋る。
「そうなんだよねー悪魔狩り。追ってきたターゲット、この辺りに出るっていう情報があってさー。あんまり一般の、人は知らないと思うけど悪魔に取り付かれると死ぬ確率非常に高くて危ないよねー」女性のほうがのんびりした感じに言った。「運がかなり良くないと魔女になんないで、多臓器不全、ショック症状とか、まあ死ぬよねー」
「避難勧告とか出したほうがいいんじゃないですか?」
「いやーこういうのんびりした休日にそんなことしたら怒られるでしょーそれにうちの国から逃げた悪魔だし、そのせいで避難勧告とか出すのもね、この街じゃ危険な化け物が日々闊歩してんのに誰も避難なんてしやしないでしょ」
「そうまずしないよね」
「お二人は生身っぽいけどなんとかなるんですか?」
「いやー生身じゃないんだよね改造してあるよー見た目は普段こういうふうにしないと住民に不安を与えるとか怒られるからこういう格好してるだけでさー」
「大変なんだよね」
「配慮しないといけないんだよね」
「悪魔に対してこっちの人間は意識がちょっと低すぎるんだよねー」
「今の発言は個人的なもので抗魔連の総意じゃないから国際問題にしないでね」
 その後も二人は自販機でコーヒーを買って飲むなど、のんびりしていたが、しばらくしてあらぬ方向を見ると、いきなり項の辺りから鉄線のような黒い金属製の触手を出してそれで全身を覆い、鎧のような外骨格を形成した。両目が凶悪な感じで赤く光っており、刃状の複翼と、武器のように肥大化した人差し指の爪が、マリアにこれは確かに住民に不安を与えるな、と思わせた。実際近くを通っていたお婆さんが、両名を見てたまげて気絶した。二人は屋根の上にまで跳躍してどこかへ行った。その後なんの続報もなかったが、恐らくうまいこと悪魔を倒して国に帰ったのだろう。
 家に戻ると入り口のところにいたコルヴォが、悪魔狩りの残滓を感じたのか、ものすごく嫌そうな顔をして、無言でどこかへ去った。

       

表紙

先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha