Neetel Inside 文芸新都
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LOWSOUND 十字路の虹
54話 ニュー・ニューウェーブ

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 それから数ヶ月間、音楽活動はなく、ガブリエルやアーシャと会うこともなかった。マリアはコンビニと工場の仕事をかけもちしていたが、工場はすぐやめて、ポスティングの仕事を始めた。コンビニのほうは夕勤だったが、あまりに客が少ない店で、ラクでいい、というのを通り越して、これは潰れるのではないか、という不安を色濃く覚えた。
 あるとき、仕事が休みで久々に気分が良かったので、アーシャとガブリエルに電話をして、スタジオに入った。
 ガブリエルはベースをたぶん入手していないだろうな、と当たりをつけていたマリアは自分で二束三文のボロいベースを買っていたが、これは弾いているそばからチューニングがどんどん狂って行くという代物だった。おまけに接触不良がひどいようで、あまり急に動くとノイズが入るので、ガブリエルにそれを渡しながら、直立不動で指だけを動かすように言った。やはり彼女はベースを持って来なかったし、指板を押さえるのすら初めてらしく、指が痛いとぼやいていた。
 前にやってた曲をやってもいいけど、新メンバーなんだから一から作り直そうか、という話になって、アーシャに一定のリズムを刻み続けてもらい、いろいろと持ってきたおもちゃを試した。拡声器で、録音していたシンジケートの音源を流したり、天気予報の「ところによりにわか雨が」「ところによりにわか雨が」というところだけ延々繰り返したり、今やってるラジオを流したり、ガブリエルと二人で雑談したりした。
「ガブリエルは仕事なにやってるの?」
「やってないわ」
「え? パラサイト? すねかじり? 家事手伝い?」
「そうとも言うわね」
「ああそう。毎日安い給料で働いている私にそれを言うの、どう思う?」
「いえ、別にどうも……」
「だよね」
 特筆すべきこととして、この日の練習でガブリエルは一度もベースを弾かなかった。

       

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