Neetel Inside ニートノベル
表紙

ロイヤルガーデン
宮廷庭師

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私は昔からそうだった。

考えるより先に何故行動してしまうのか?後悔するぐらいなら何故きちんと考えてから行動しなかったのか?そんな事を考えてももう遅い、樹木も生物なのだ。切り過ぎた髪の毛が元には戻らないように、彼等の枝は一度切ってしまうとそれはもう元には戻せない。また伸びてくるまでにいくつの月日を費やすのだろう。
「ホント、ごめんね…」
謝って済む問題ではないのだけど、彼は優しく笑ってくれた。まるで『いつもの事じゃないか』と言わんばかりの様子で。まぁ確かにいつもの事なんだけど、それはそれで傷付くなぁ…
「よくその腕で宮廷庭師なんぞになれたモンだ。ちっとも切り揃えてられてねぇ、デコボコじゃねぇか。」
相棒の枝切りバサミにまで馬鹿にされた。これは悔しい。
「レニア、今度枝切りバサミって言ったら殺すぞ。」
「言ってない!声に出してないし!またそうやって勝手に人の心を読んだりして、コッチこそ怒るよ!」
もうこのハサミ、じゃなかった。フランジールとも長い付き合い。おじいちゃんの形見なんだけど…実はただのハサミじゃなくってすごい機能がいろいろついてるの。なんせ喋るし。でもフランジールは庭師の仕事は嫌いみたい。そもそも枝切りバサミにされてる事が嫌いなんだろうけど。
「ほれ、コイツ等のカットは終わったんだろ?とっとと帰ろうぜ。」
「相変わらずだなぁ。報告がまだだからちょっと待ってて、国王様の所に行かないと。」
「ついでに別件の仕事もくれりゃあ元気になるんだがな。」
フランジールが好きな仕事か、私は嫌いなんだけどなぁ。そもそも何で庭師があんな事やらなきゃいけないワケ?まぁフランジールを使えるのは私だけだし、仕方ないのかもしれないけど…
そんな事を考えながら歩いていると国王様の部屋に辿りついたので、私はスゥっと一呼吸整えてからノックをした。
「宮廷庭師レニア、入ります。」
『どうぞ』という声に安堵しドアを開ける。中へ入ると椅子から私を出迎える為に立ち上がった国王様の姿があった。
「庭の手入れは済んだのかい?」
優しい口調で国王様がそう聞いてきた。もう嫌な予感しかしない。
「はい。今日の分は終わりました。…ちょっと切り過ぎた所もありましたが。」
「はっはっは。まだ亡き祖父のようには上手くならんか。まぁ構わんよ、庭の事はすべて君に任せると言ったのは私だからね。」
笑って許して下さる優しい国王様だったけど、目が笑ってない。それは怒っているのではなく、別の意味がある事を私は悟ってしまった。
「庭の事はわかった、今日の分は終わりでいい。後はもう一つの仕事をお願いしようかな?」
「待ってたぜ!というか俺は毎日でもいいんだぜ?」
フランジールが嬉々とした声で喋り出した。もうこうなると私の手に負えない。
私に拒否権はないし、その仕事がある事も知っていて私はおじいちゃんに憧れて宮廷庭師になったのだから、嫌だとは言えなかった。
「おやおや、フランジールは血気盛んなようだ。でも毎晩だとご主人様のレニアの方が倒れてしまうかもしれないからね。だからお仕事は瘴気の濃い夜だけだ。レニア、頼めるかい?」
「…はい。仰せの通りに。」
「嫌なら嫌と言っても構わない。君にすべてを押し付けているのは百も承知だ。君が拒否をする権利は十分にある。私はそれを咎めないよ。」
「…いえ、大丈夫です。フランジールを扱えるのは私だけですし、私にしか出来ない仕事ですから。今日の出現位置はどの辺りになりますか?」
「場所は船着場周辺、と宮廷祈禱師のリアが言っている。多分、4年前の海戦の亡霊共だろう。」
「じゃあ船着場一帯のラインは私とフランジールが受け持ちます。ロイヤルガードの皆さんには万が一の事態に備えて宮廷、王室の護衛を頼んで下さい。」
「リアもいるから少数の討ち洩らしは気にせず自分の安全を優先して戦ってくれ。それじゃあ頼んだよ。」
「はい。では夜までお休みを頂きます。失礼しました。」

…そう。私は宮廷庭師であり、ワイトウェポン『フランジール』の使い手。戦争などで志半ばにして死んだ人間の恨みや憎しみから生まれる亡霊や怨霊と戦う『ロイヤルガーデン』なのです。ロイヤルガーデンは私のおじいちゃんがつけた名前で
「剣と盾で王を守る物がロイヤルガードなら、枝切りバサミで王を守る庭師のワシはロイヤルガーデン。ってのはどうじゃろう?」
なんて国王様に言ったんだそうな。国王様は笑って『それは良いな。期待してるぞ、ロイヤルガーデン。』なんて返したんだって。その時からロイヤルガーデンは王室の中でも一部しか知らない機密部隊として戦ってきた。部隊なんて言ってるけど今も昔も隊員は一人だけど。
「思い出に浸ってないでさっさと帰って休めよ。お前がキビキビ動かないと俺は飯にありつけなくなるんだからな。」
「はいはい、怨霊の食べ過ぎでお腹壊したりしないでね。まぁフランジールはお腹っていう概念がないから大丈夫だろうけど。」
「抜かせ。とにかく今日は久しぶりの仕事だからな。確り頼むぞ、相棒。」
「任されたよ、相棒。まだまだおじいちゃんみたいに上手く戦えないけど頑張るよ。」

私はフランジールを抱えて歩き出した。時折この枝切りバサミが怖くなる。大切なおじいちゃんの形見。ロイヤルガーデンとして戦ってきた大事なおじいちゃんの相棒。だけど…人のように意思を持ち話す事さえも出来てしまう擬人武装、ワイトウェポン。怨霊や魍魎、亡霊を喰らうその力。私はまだ彼の事を何も知らない。
唯一知っているのは、彼を使う事で自分やその周りの大切な人を守れる力を与えてくれる事。そしておじいちゃんが最期まで彼と共に戦う事を選んだ程に、おじいちゃんから信頼されていた事。
考えてもわからない事は考えない。私はいつもそう、目の前にある事を片付ければいい。後悔なんていつもしてるんだ。今は大切な人を守れる力なんだからそれでいい。今はわからなくても、いつかきっと答えに辿り着けるから。

今はただ帰りの道を真っ直ぐ帰ろう。

     

「あぁ!フランジールが起こしてくれないから遅刻寸前じゃない!どうして起こしてくれなかったの!?」
船着場までの道のりを走りながら枝切りバサミに愚痴を飛ばす。
「自分の管理は自分でしろ。俺もスリープに入ってたんだ。そもそも起こしてくれなんて頼まれてねぇ。それよりさっさとフォームシフトしろ。いつまでハサミのままにしておくんだ。お前はハサミで怨霊と戦う気か?」
「うるさいなー!だからそれもあるから早く起きなきゃいけなかったのに、フランジールのせいだからね!」
「全く…子供の世話は俺の仕事ではないんだがな。」
「子供で悪かったわね。まだ17歳の女の子なんてみんなこんなもんよ。我侭だって言うし、面倒がかかるものなの!」
口喧嘩をしながらフランジールの要螺子を外していく。フォームシフトなんて格好つけた名前してるけど、単に両サイドの刃をバラバラにするだけ。それを両手剣として扱うのがフランジールと私の戦闘スタイル。
「…フォームシフト完了。あまり走りながらやるなよ、コアを失くしたらどうするんだ。」
「はいはい、シフト出来たんだからいいでしょ?文句ばっかり言ってると要螺子を海の中に投げ捨てるわよ。」
「…とんでもない主様だな、お前は。」
要螺子の中心には硝子細工のような物が入っていて、フランジールのコアはここに入っているらしい。ワイトウェポンにはコアがあって、コアは人間で言う『魂みたいなもの』だってフランジールが昔言ってた。だから私は必ずフォームシフトをした際には要螺子を左胸のポケットに入れる。私の心臓が貫かれるような事があった時、この口煩い相棒と一緒に逝けるように。

「さぁ、お喋りはそろそろ終わり。リアさんの指定ポイントに着くよ!」
私は二刀になったフランジールを構え、船着場の桟橋から海を睨む。予定の時間にはギリギリだけど間に合ったし、これなら海から這い上がる怨霊を先に叩ける。
「レニア。リアの予測では今日はどれくらいの数が出るんだ?」
「20ぐらい。リアさんの祈祷術があれば細かい数字までわかるはずなんだけど、今日は少し霧も瘴気も強いからビジョンが少しぼやけてるって言ってた。」
「まぁ影が20程見えた、という事か。十分だな。」
「何が?」
「俺の空腹が満たせるか、って事だよ。」
フランジールはそういいながら自身の刃を振るわせた。そうやってまた勝手に動き出す。もう慣れたけど最初の頃は急に動くもんだから肩が外れそうになった事が何度かあった。
「いいかレニア、いつも通り攻撃は俺がやる。お前は回避優先で足を動かす事だけ考えろ。」
フランジールにはわかるのだろう。何もないところに私の左腕を振らせたかと思うと、そこからは黒く澱んだ空気が溢れ出し怨霊の叫び声が聞こえた。それと同時に風もないのに海の水面がゆらゆらと揺れだし、大きな波を作り出す。
「上陸してきやがったか。上がってきた所でお前達の行き先は地獄だがな!」
今度は右腕を豪快に振り回す。辺りは切り裂かれた怨霊の瘴気が血飛沫のように
飛散し、どす黒い渦を描いた。
「ちょっと、フランジール。飛ばし過ぎ!数多いんだから考えて動かないと!そんなペースじゃこっちの腕が持たないよ!」
切り裂いた感触は嫌でも伝わってくる、それがまだ4回。一撃で仕留めたとしてもまだ5分の1程度しか片付いていない。それなのに最初から腕が千切れるような速度で刃を飛ばす。支えているのがやっとだっていうのに。
「レニア、数がいるからこそだ。長期戦になればヤツらの方が有利になる。お前と俺やヤツらには大きな違いがあるのはわかってるだろう?」
「…肉体を持つ者には必ず体力の限界がある、でしょ?何度も聞いたよ。」
「その通りだ。尽きてしまえばヤツらに取り込まれる事もある。そうなる前にカタをつける。」
「それはわかるけど、フランジールの速度に合わせて動いてたんじゃどっちみち持たないって!だから攻守交替!」
フランジールの返事を待つ前に左胸のポケットにそっと手を当てる。ワイトウェポンの制御はコアに対して強く意思の力で語りかければいい。私は身体の制御を私自身に返すよう、強く念じた。
『身体リンクレベル低下しました。これよりウェポンの制御による身体行動が不可能となります。』
フランジールからシステム用の音声が流れる。こういうのを見たり聞いたりする度、やっぱりワイトウェポンって良くわからなくて怖いなって思っちゃうな…。
「ちっ、勝手にしろ。ただし討ち洩らしたりしたら俺の飯が減るからな、許さんぞ。」
「任せて!フランジールはナビゲートお願いね!」
「当たり前だ!当点より12時、5時、9時!距離は20!両刃で薙ぎ払え!」
私には怨霊がはっきりとは見えていない。だからフランジールが目になってくれる。最初の頃は身体制御振り切ってよくフランジールに怒られてた。『戦いの動きも出来ていない、相手も見えていないのに死ぬ気か』って。でも今は怒られない。フランジールのナビがあれば戦えるようになった。それも死ぬ気で特訓したって言うのもあるけどね。
「たぁぁぁぁ!!」
フランジールのナビの通り。感触は3つ。まだ半分も倒してないけどかなりいい感じ、今日もやれる。大丈夫。
「・・・なんだ?どうなってやがる?」
ちょっと安心した瞬間、フランジールの不安そうな声が響いた。
「どうしたの!?何かあった!?」
「どういうつもりだヤツら、海に帰って行きやがる!」
「被害が出ないまま撤退してくれるのなら、それはそれでいいんじゃないの?あっ!フランジール、食べたりないから不満なの?もぅ、食いしん坊だなぁフランジールは。」
「…お、おぅ。そうだな。せっかく出っ張ってきたのにこの程度しか喰えないなんてのは不満だ。」
(確かにそれもある。が、そんな事は大した問題じゃねぇ。怨霊ってのは死んだ人間が生きているうちに達成出来なかった復讐の心や強い恨みの意思が瘴気に当てられて生まれてくる実態のないバケモンだ。そいつらには意思がないし、統率力もない。ただ恨みを晴らすだけに行動している。今回のヤツラも先の戦争で殺された海兵のモンだろう。だったら戦争を起こした国のトップである国王の命を狙うとか、殺した相手の家族を呪い殺すまで退いたり止まったりはしないはずだ。撤退なんてする事自体がおかしい。俺自身、数々の怨霊と戦って来たが今までこんな事は一度もなかった。…一体何が起こっていやがる。)

フランジールの考えている事はわからない。でも私は相棒だからわかるよ、フランジールが今何か悩んでいる事。きっと怨霊が撤退した事で何か考えているんだと思う。でもそれが私には何かわからない。こういう事に関しては私はまだまだ素人で、フランジールはこういう世界でずっと生きてきたからフランジールの方が詳しいのはわかってる。…でも、ちょっとそういう時頼って欲しいなって思うのも私の我侭なのかな。
「ふっふっふ…悩める少年よ、お姉さんが話を聞いてやろうか?」
「誰が少年で、誰がお姉さんだ。俺はお前の4倍は生きている。それに大した事じゃない。心配をかけたのなら悪かった、気にするな。」
素直じゃないなぁ。でもまだフランジールが話さないって決めてるんなら私が無理に聞く事じゃない。おじいちゃんがそうしてきたように、私もフランジールを信じなきゃ。
「はいはい。じゃ、帰ろっか?一応怨霊は追い払ったし、もうすぐ朝になるしね。」
「そうだな。帰って一休みするか。」
私はフランジールの要螺子を再度嵌め込み、ちょっと生意気な相棒を担いで日が昇り出した朝焼けの港を後にした。

―――

「…へぇ、これがフランジール。レインディアと違ってなんかゴツゴツしたフォルムで不恰好ね。」
「放った怨霊から得たデータですが、私よりもスピードはありそうです。ですがマスターの能力が足を引っ張っているのでしょう。後半のデータでは威力、スピード共にダウンしています。」
「両手剣なんてそう扱える人間の方が少ないよ。それに手数に頼る戦いは好きに
になれないね。一撃でも当たれば確実に倒せる、そういう戦いの方が私は好きだな。」
「このフランジールも破壊対象に入れるのですか?」
「そうね。ワイトウェポンである以上、破壊するわ。」
「私も…ですか?」
「レインディアも、ね。でもそれは最後。この世のすべてのワイトウェポンを破壊して、それが終わったら貴方の望みを叶えてあげるわ。それまでは私、セリナ=ディスティールに忠誠を誓いなさい。」
「はい。このレインディア、すべてを捧げセリナ様と共に戦う事を誓います。」
「…悪魔の契約と呼ばれたワイトウェポン技術…この手ですべて終わらせるわ。」

       

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