Neetel Inside ニートノベル
表紙

必殺☆賭博
第一話 代理戦争

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『【代理戦争】。これはトランプを使った至極簡単なゲームです』
 そう発した声の主は相変わらず姿を見せず、部屋の中には私とキルトの二
人だけ。すでに拘束は外されているが部屋の空気はさっきにもまして重く
感じる。それもそのはず。今から命を取り合う相手が目の前にいるのだから。

 私は仕方なく声へと注意を向ける。その単調な声色が場の雰囲気を一層
殺伐とした物にしている。

『使用カードは各実験対象者に9枚ずつ、計18枚。各々の札には1~9ま
で1つずつ数字がふられています。皆様にはカードを一枚ずつ場に出して
もらい数字の大小を競ってもらいます』
 始まったルール説明。声は至極簡単な競技だと言っていたが確かに今の
ところこれと言って複雑なルールはない。思考実験と言うものだからもっと
仰々しいものを想像していたが、要するに窮地に追いやられた人間がどう
いう思考を取るのか見たいだけなのであろう。
 私はテーブルの中からせり出してきたカードの束を見つめる。

『数字の大きい方が勝利、互いにカードを出し合い、勝利数の多い方がこ
の【代理戦争】の勝者となります』
「……」
 配られたカードをめくると確かにハートの1~9の9枚が。私はちらりと
キルトの方を見やりカードを再び机に伏せる。キルトは声のしてくる方を
見上げ固まっている。何を考えているのかその表情からは読み取ることは
できない。

 頭上から淡々と説明を続ける声。ああ、早く解放されてしまいたい。こん
な状況で集中できるものなどいるのだろうか。思考実験と言うからにはもっ
と落ち着いた空間でやった方がいいのではないか?
 そんな実施者側の事情にまで及ぶ意味のない思考を続けながら私は必死に
聞こえてくるルールに意識を向けていた。

『さあ、ここまで説明したのは一般的なトランプゲームである【戦争】に
模したゲームのルール部分。ですがこの【代理戦争】、追加ルールが存在
します。

 追加のルールは3点。
 一点目、カードを場にプレイできる回数。これは一勝負に付き5回。そ
して出せるカードがない場合は0という数字のカードを出したのと同じ扱
いと見なします。

 二点目、カードを場に出すにはそのカードに書かれた数字以上となるよ
うに手札からカードを捨てなければならず、場に出したカードが手札にあ
るカードの合計より大きい場合、それは反則、つまりはそれを行った対象
者様の敗北とみなします。

 三点目、これは二点目のルールと関連した物となりますが、1のカードに
限り、手札を捨てることなく場に出すことができます。

 以上でルール説明を終了します。何か質問はありますでしょうか?』

 ……ええ!? ちょっと待って、いきなりルール詰め込みすぎよ。そんなに
一気に覚えられるわけないじゃない。私の混乱を見透かしたかのように声は
こう続けた。

『ルールは台に備え付けの端末にて確認可能です』
 ああ、そうですか。最初に言えよ、と毒づきながら私は台を見る。確か
にそこには青く光るモニターが。私が触れるとそれはヴーーンと言う起動
音とともに文章を表示する。

     


     

 文字の羅列。見ただけでくらくらしてくる。
 私は実戦でルールを覚えていくタイプだからこうやって文章で説明され
ても分かるわけないじゃない。この説明作った人、きっと頭悪いわ。

 でもとりあえず基本的なルールはつかめた。とにかく相手より大きいカー
ドを出して勝つ……って認識でいいのかしら? 私はちらっとキルトの方を
見る。

 思いつめた表情は覚悟の表れか。下を向き手に持つカードをながめてい
るキルト。

「レンゲさん」
 突如顔を起こした彼と目が合う。彼の目、その目にはなぜか微笑みが浮
かんでいる。

「こんな勝負、やるべきではありませんよ」
「……はぁあ?」
 ここに来ての詭弁。そんな見え透いた虚勢を張ってどうするというのか。
確かに人の命を奪うのは悪いことだ。でも今日あったばかりの他人より自
分の命の方が大事。どちらかしか助からないのなら自分の命を選ぶのは人
として当然の選択だろう。
 ならばキルトの発言の意図は私を混乱させること。そんな手喰うわけが
ない。

「この状況、戦いが避けられると思う? 確かに実験が終了するまで生き残っ
ることができたって無事帰れる保証わないわ。それどころかもっと痛めつ
けられる事になるかもしれない。でも、あがいてみなければわからない。
生きれる可能性があるのなら必死にしがみつく。それが生きるってことじゃ
ないの。何もしないうちに諦めるなんて私にはできないわ」
「レンゲさん、落ち着いてください。そうじゃないんです。ボクは二人で
助かりたい。そういっているんです」
「そんなことできるわけないじゃないの。あなたルール説明聞いてた? 勝
者は一人。二人で勝ち上がれるわけがない」
 キルトの言葉に怒りがわく。ただでさえこっちは精神的に摩耗している
のだ。二人助かる方法、本当にそんなものがあるのなら言ってみろよ! 私
の中で何かがはじけだす。

「ボクも可能だと断言はできません。でも探してみないうちに諦めるのは
もったいないことだとは思いませんか?」
「ああ、もう。何が言いたいのよ」
「その前に一つ、まだ質問タイムは終わっていませんよね。験者さん」
『質問ですかね? なんです?』

 キルトは上を向き姿なき宇宙人に話しかける。

「カードを出すまでに制限時間はありますか?」
『1ゲーム最大2分。2分経過時に場のカードを参照、勝敗が決定します。
つまりカードを出せる状態で場にカードを出さず2分が経過した場合反則
負けとなります』
「では、カードを捨てる際に制限はありますか?」
『制限時間内に処理を終了させている必要はありますが、枚数、タイミン
グにその他の制限はありません』
「ありがとうございます」

 こちらを向くキルト。質問を終えたようだが……いまいちよくわからない。
今の質問、何か勝敗に関係あるのだろうか?

「レンゲさん。あなたは言いました。可能性にしがみつくのが生きること
だと。ならなおさらいろいろ試してみるべきではないですか。競争ではな
く共存の道を」
「……わからないわ。どうしてあなたはありもしない可能性を探そうとい
うのかしら。だってそうでしょう、こんなシンプルなルール、抜け穴があ
るとは思えないわ。それとも、キルト。あんたは見つけたっていうの? こ
のルールの抜け穴を」
「いいえ、それを今から考えるんです。だって時間はいくらでもあるんで
すから」
「?」
 いよいよ何を言っているのか理解が追い付いていない。いや、キルトの
言っている言葉、これは意味を成しているのか? だってさっき宇宙人は言っ
ていた。制限時間は1ゲーム2分。5ゲームで勝敗が決まるのだから10分経っ
た後には決着しているはず。

「引き分けになれば再試合。つまり引き分け続ければ時間はできます。そ
の間にいろいろ試してみましょう。それでも活路が見いだせなければ、そ
の時こそあきらめればいい」
「あなたの言いたいことはわかったわ。あるかもわからない希望を探すた
め時間を引き延ばすというのね。でも、それだって前提条件がある。私と
あなたで確実に引き分けにならなければならない。それがどれだけ難しい
ことか分かる?」
 
 引き分けになるということ。つまりは勝ち数を同じにしなければならな
い。口で言うのは簡単だが実際に行うとなると話は別だ。何せ私たちは他
人同士、信頼関係なんてない。つまり引き分けにしてくれと頼まれて従う
義務もないのだ。どちらが裏切るとわからないこの状況下、協力して引き
分けを目指すなど無理なのだ。

「レンゲさんの気持ちもわかります。だからまず、ボクが誠意を見せます
よ」
 動くキルト。その手にはカードが握られている。

「これでボクは裏切れない」
 台に開いた穴。そこには【カード捨て場】と書かれている。その上でキ
ルトは手を離す。カードは穴に吸い込まれていく。

「あんた、何してるの?」
「何って、ボクの手札すべて捨てたんですよ」
 平然と言うキルト。私は彼のその行動を前にただただあきれるしかなかっ
たのだった。

       

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