ろくろ首


噂は言霊。真となり妖の気を伴う。

髪結いをしている、お絹という生娘がいた。
気立てのよい子で、小町だと噂になり、髪結いどころは繁盛した。
だがおかしなことに、お絹の縁談はすぐに立ち消えとなる。

どうやらその娘はろくろ首だという。
井戸端では若い男衆が噂する。

「おい、聞いたか。お絹。あれはろくろ首だってよ。」
「くわばらくわばら。へぇー、お絹さんが。ろくろ首はどいつもきれいな女らしいな。そりゃ納得だな。」

噛みついたのが博打打の源兵衛。

「誰が見た。誰が見たってんだよ。おれぁ信じねえぜそんな。あの人が化け物ん類なわけぁない。あんなきれいなお人が。お絹さんと所帯もつのが夢なんだ。」
「なにびりついてんだい。よしときな。おめぇがお絹さんを嫁にはでけねえから」

よし、今にみていろよ、と源兵衛はお絹のいる長屋に走った。
長屋に入ると、おいおいおいと、くの字に俯き泣いているお絹の姿が。
源兵衛は指ですっとお絹の涙を拭い取る。

「源さんや。あんた私の涙を拭いとくれるんかい。あんただけです。こんな私に優しくしてくれるのは。」
「お絹さんや。どうした。こんな俺にでも話してはくれまいか。」

ひくっ、ひくっと体を上下させていたが、やがてお絹は源兵衛に向き直った。

「帯屋の若旦那。」
「若旦那がどうした。」
「帯屋の旦さんが縁談を持ってきました。息子と所帯を持つ気はないかって。私は両親もなく一人だから、早く所帯を持つのが良いだろって。」
「受けたのか」
「いえ、断りました。若旦那は粋なお方です。若旦那のような酸いも甘いも噛み分けたようなお方は、私にはもったいないと。旦さんは、髪結いだけで暮らすのはきつかろう、といいました。私は、髪結いは女一人食べて行ける額は十分に手に入ります、旦さんのご心配には及びません、と。そしたら旦さんがもういい、と大きな声を上げて出てゆきました。それからは、何の音沙汰もなく。」