Neetel Inside 文芸新都
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お絹が棚の上を指差す。

「人形師に頼んで拵えた、首だけの大きな人形があります。私はこの人形を髪結いの練習に使っています。」

ざんばら髪の首人形があった。どこか顔つきがお絹に似ている。

「夜分に私はこの首人形の前に蝋をたて、練習をしていました。すると窓からぎゃーっという声が。夜這いにでも来ていたのでしょうか。若旦那が腰を抜かしていました。」

それからろくろ首の噂が広まったのだという。
お絹が弁解をしようにも、みなお絹を見ると逃げてしまう。
外を歩くと、ろくろ首が歩いていると子供たちがお絹に指をさす。
そして、誰も髪結いにも来なくなってしまった。

「このままでは私は生きてゆけません。私はろくろ首の身、親もなく、親類もなく、誰にも頼ることができません。ここに遺書をしたため、木で吊ろうかと。」
「そんなことをやったら、本当にろくろ首になっちまう。お絹さん、こんな俺だが、どうだい。俺と所帯をもってはくれまいか。」


さすがは博打打の源兵衛。算段においては右に出るものはなく、すぐにお絹と祝言をあげ、事の顛末を話してまわる、まわる。噂は瞬く間に広がり、お絹の髪結いどころも再び繁盛した。


・・・・
「よい話ではないか。」
鬼が言った。
「ここまではよい話なのじゃ。これには続きがあってな。」


面白くないのは、帯屋の若旦那である。
最近は出歩くと、こそこそ噂されるようになった。
しまいには子供に「腰抜けの若旦那」と指差された。
確かに見たのだ。ぼうっと照らされた、溶けた蝋を舐める顔を。


妖怪め、今に見ていろよ、と蔵の奥にあった薙刀を取り出した。

       

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