Neetel Inside 文芸新都
表紙

鬼面
ろくろ首

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噂は言霊。真となり妖の気を伴う。

髪結いをしている、お絹という生娘がいた。
気立てのよい子で、小町だと噂になり、髪結いどころは繁盛した。
だがおかしなことに、お絹の縁談はすぐに立ち消えとなる。

どうやらその娘はろくろ首だという。
井戸端では若い男衆が噂する。

「おい、聞いたか。お絹。あれはろくろ首だってよ。」
「くわばらくわばら。へぇー、お絹さんが。ろくろ首はどいつもきれいな女らしいな。そりゃ納得だな。」

噛みついたのが博打打の源兵衛。

「誰が見た。誰が見たってんだよ。おれぁ信じねえぜそんな。あの人が化け物ん類なわけぁない。あんなきれいなお人が。お絹さんと所帯もつのが夢なんだ。」
「なにびりついてんだい。よしときな。おめぇがお絹さんを嫁にはでけねえから」

よし、今にみていろよ、と源兵衛はお絹のいる長屋に走った。
長屋に入ると、おいおいおいと、くの字に俯き泣いているお絹の姿が。
源兵衛は指ですっとお絹の涙を拭い取る。

「源さんや。あんた私の涙を拭いとくれるんかい。あんただけです。こんな私に優しくしてくれるのは。」
「お絹さんや。どうした。こんな俺にでも話してはくれまいか。」

ひくっ、ひくっと体を上下させていたが、やがてお絹は源兵衛に向き直った。

「帯屋の若旦那。」
「若旦那がどうした。」
「帯屋の旦さんが縁談を持ってきました。息子と所帯を持つ気はないかって。私は両親もなく一人だから、早く所帯を持つのが良いだろって。」
「受けたのか」
「いえ、断りました。若旦那は粋なお方です。若旦那のような酸いも甘いも噛み分けたようなお方は、私にはもったいないと。旦さんは、髪結いだけで暮らすのはきつかろう、といいました。私は、髪結いは女一人食べて行ける額は十分に手に入ります、旦さんのご心配には及びません、と。そしたら旦さんがもういい、と大きな声を上げて出てゆきました。それからは、何の音沙汰もなく。」

     

お絹が棚の上を指差す。

「人形師に頼んで拵えた、首だけの大きな人形があります。私はこの人形を髪結いの練習に使っています。」

ざんばら髪の首人形があった。どこか顔つきがお絹に似ている。

「夜分に私はこの首人形の前に蝋をたて、練習をしていました。すると窓からぎゃーっという声が。夜這いにでも来ていたのでしょうか。若旦那が腰を抜かしていました。」

それからろくろ首の噂が広まったのだという。
お絹が弁解をしようにも、みなお絹を見ると逃げてしまう。
外を歩くと、ろくろ首が歩いていると子供たちがお絹に指をさす。
そして、誰も髪結いにも来なくなってしまった。

「このままでは私は生きてゆけません。私はろくろ首の身、親もなく、親類もなく、誰にも頼ることができません。ここに遺書をしたため、木で吊ろうかと。」
「そんなことをやったら、本当にろくろ首になっちまう。お絹さん、こんな俺だが、どうだい。俺と所帯をもってはくれまいか。」


さすがは博打打の源兵衛。算段においては右に出るものはなく、すぐにお絹と祝言をあげ、事の顛末を話してまわる、まわる。噂は瞬く間に広がり、お絹の髪結いどころも再び繁盛した。


・・・・
「よい話ではないか。」
鬼が言った。
「ここまではよい話なのじゃ。これには続きがあってな。」


面白くないのは、帯屋の若旦那である。
最近は出歩くと、こそこそ噂されるようになった。
しまいには子供に「腰抜けの若旦那」と指差された。
確かに見たのだ。ぼうっと照らされた、溶けた蝋を舐める顔を。


妖怪め、今に見ていろよ、と蔵の奥にあった薙刀を取り出した。

       

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