弱った。宇宙人にさらわれてしまった。
酔っ払って、ラーメン食べて、終電なくして。
ラーメンのカロリー分だけでも歩いて帰ろうと思った、その帰り道だった。
嘘みたいに古典的なUFOが俺の真上に来て、嘘みたいに古典的な光を俺に浴びせて。
気がつけば俺は宇宙船(笑)の中にいた。
いわゆるこれはアレだ、サトル☆ミューティレーションってやつだ。いや、俺の名前がサトルだからってわけではなく。
銀色の空間の中で、俺は一人だった。
少なくとも人間は一人だった。
他に宇宙人らしき奴らが二体いた。
宇宙人の見た目は案外古典的では無かった。どちらかと言うと人類サイズのエヴァンゲリオンという感じだった。
宇宙人のルックスとしてはかっこいい部類に入るだろう。
少なくともエイリアンとかプレデターよりは人間的だ。
「お前に人類のことを伝えるためにさらった」
宇宙人は唐突に言った。声質的にはえなりかずきに似ていて、俺は少し笑った。
人類のこと、か。さらわれた時点で人体実験のサンプルにされることを覚悟していたので、まだマシかもしれない。
色々気になることはあったが、質問しようにも声が出なかった。俺の美声を銀河の果てまで届けることはできなかったのだ。
俺の美声を銀河の果てまで届けることはできなかったのだ。二回言うが。
「ちょうど1000000000000000000人目に誕生した人類であるお前を選んだ」
うせやん。絶対うせやん。1000000000000000000人目の部分を自分でもどう聞き取ったのかわからない。
てかめっちゃ日本語話してますやん。そのルックスでずるいわほんま。暴走してカオルくんとホモッてたら良いのに。
「何か聞きたいことがあれば先に教えよう」
そんなこと言うても声が出えへんねん。
「心で考えてみろ。お前の思考は我々に筒抜けだ」
それはそれで困るな。さっきからトイレが限界なことも伝わってるってことか。
「おしっこをしたいのか? それなら、ほら……」
おいおいおいおい。いや、おいおいおい。
気がつけばエヴァンゲリオンが僕のおしっこが出る部分に食らいついていた。
『おしっこがしたいのか?』だけでも十分笑うところなのに。展開について行けていない俺、ギザカナシス。
咥えられた瞬間に我慢ができなくなって、気がつけば俺は放尿していた。
無意識の放尿は意外に気持ちがいい。機会があれば試してみるといいと思う。
機械音とともに、エヴァンゲリオンは俺のおしっこを嚥下した。嚥下なんてフランス書院文庫以外で初めて使ったんじゃない、俺。
肉棒、クレバス、秘所、蜜壺。
フランス書院文庫以外で初めて使ったんじゃない、俺。
とりあえずスッキリした俺は宇宙人()の話を聞いてみることにした。
初対面で他人のおしっこを飲み下す奴に、そうそう悪い奴はいないだろうという読みもある。
「落ち着いたようだな。では本題に入ろう」
よろしくお願いします。
「地球は2047年に滅びる。それをお前がどうにかして回避しろ」
その言葉を聞いた時、俺は酔った頭も、ラーメンで重い胃も全て忘れた。
それはどういう意味ンゴ? 俺は心のなかで宇宙人に尋ねた。
「そのままの意味ンゴ。人類は本年2015年から数年で、破滅的な戦争を起こす」
意味ンゴと言われてしまっては信じざるを得ない。あまりにもありがちなシナリオにも納得しようというものだ。
「人類を長い間監視し、育んできた我々火星人としても大変遺憾なことだ」
ここでようやく判明した。エヴァンゲリオンは火星人だったんだよ!
「なんだってー!?」
ノリの良い宇宙人である。
……しかし、困ったことになった。非常に弱った。
まさか火星人が、この「1000000000000000000人目に誕生した人類」に目をつけていたとはな……。
2352年から来ていて、この男の身体を借りている俺としても大変困惑している。
2015年の文化レベルの会話に宇宙人が十分ついてきていることにも驚嘆している。
これは、2352年の科学力、情報力を凌駕する宇宙人かもしれない。
大変弱った。
未来人に頭を乗っ取られ。
宇宙人に身体を支配されている。
この俺、田中サトルは、今後どうしたらいいのか。
みなさんも一緒に考えて欲しい。