Neetel Inside ニートノベル
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 「あっ、こんなところにいたのねハナバッ!」
 フロストの声にハナバはおっかなびっくり飛び上がった。
 「うわっ!わっ!?……自分、何してたんだっけ?」
 辺りを見回すハナバに対してフロストは大仰にため息をついて見せた。
 「あんたねぇ…」
 どうやらここは調査報告所の2階らしい。はて、本当にどうしてここにいるのだろうか。そう首をかしげるハナバにフロストは説明をする。
 「ずっと姿が見えなかったから探してたのよ?せっかくニフィルさんと禁断魔法や海の怪物について話をしてたのにどこにもいないんですもの。それで、色々一段落して、ようやくこの部屋でぼーっとしてるあんたを見つけたってわけ」
 「へぇー…」
 そう言われても、何故こんな場所にいるのか思い出せない。
 もしかしたらこれは美少女不足症候群ではないだろうか。
 大真面目にそう考えたハナバに対してフロストは硬い声音で言った。
 「それで、また伝心の術が必要なの。ハナバ、手伝って」



 廊下を歩きながらかいつまんだ話を聞く。
 「へぇー…じゃあ、生焔礼賛の影響であの怪物が生まれたってこと」
 「ニフィルさんの予想ではね」
 ふむふむと頷きながらもハナバの脳裏に浮かぶのは禁断魔法によって豹変した妖仲間だ。
 そうか、妖故に死なない彼女はしかし、“死”に染まってしまったのか。
 「…で、この状況を解決するためにケーゴって人間の子が大役を背負ったわけね」
 フロストの言を整理して口にする。件の少年の名に聞き覚えがあるのは何故だろう。
 フロストは首を縦に振りながら続けた。
 「そうよ。それともう1つ、五色の束ね盾をこの交易所に施すことになったわ」
 「五色の束ね盾!」
 思わず声を上げる。難易度の高い霊術だったはずだ。まさかそれをここで聞くことになるとは。
 「よくそんな術知ってたねぇ」
 「えぇ、詳しい方がいたのよ。それで…」
 「あ、わかった。束ね盾発動のために5人の術師が必要なんでしょ?」
 ハナバも束ね盾の特性はよく心得ているのだ。
 フロストは頷いた。そして苦々しげに続ける。
 「水の性を持つ術師は見つかっているわ。だから、後は木と火と土と金の術師。その術師たちを伝心の術も使って集めたいの」
 ハナバは決然とした顔で頷いた。これは責任重大だ。
 と、ついでに聞いてみる。
 「水の性を持つ術師って誰なん?イーノちゃん?」
 「俺だよ」
 会話に男の声が割り込んだ。
 見れば廊下の壁に男が寄りかかっている。 
 その男の隣に控えるもう1人の男を見て、思わずハナバは目を見開いた。
 そんなハナバの様子には気づかずフロストはウルフバードに向かって冷たく言い放つ。
 「…いくら協力者とはいえふらふらそこらじゅうを歩き回らないでいただきたいわね。丙家の水魔道士」
 「だったらせめて特別歓待室でも用意しておくんだな。…おっと、お前に用意できるのは冷凍室くらいか」
 カラカラと笑うウルフバードに対してフロストは青筋を立てる。
 「……全てが終わったら覚えてらっしゃい…ッ!」
 「そりゃあ嫌でも覚えていることになるだろうよ。アルフヘイムの三特様が丙家の力を借りて事態の収束をした歴史的大事件だからな」
 「それもこれもあんたのか弱い身体にかかってると思うと涙が出てくるわッ!大体あんた、そんな毛皮背負ってるからすぐに体力なくなるのよッ!何よこの白いモフモフ!あんたウルフバードじゃなくてサモエドバードなんじゃないの!?」
 「涙が出るなら凍りつかせとけ。…体ならもう大丈夫だ。相応の魔法に応え得る」
 「はん。魔力を取り戻した丙家の人間なんてなおさら信用できないわ。やっぱり全部終わったら氷漬けにしてやるんだから」
 「クハハ、そうかもな。ま、この際俺は信頼せずともいいさ。だが、俺の力は信じられるだろう?行くぞ、ビャクグン」
 ため息の出るような言い合いの後にウルフバードとフロストは互いに別方向へと歩き出した。ビャクグンとハナバはさも初対面かのように軽く会釈をする。
 だが、伝心の術によって話したいことは全て話し終わっている。
 そんなビャクグンの安堵が彼の目に映る。それをウルフバードは見逃さなかった。

       

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