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檻の中からはすすり泣く声が聞こえる。
目を覚ました女たちが自分の状況を知り絶望しているのだ。
捕まえたエルフは甲皇国に売られ人体実験に使われるか、スーパーハローワークの富豪に買われるかのどちらかだろう。
そのどちらがいいかなど誰にも知る由もない。
ただガモに与えられた任務はいつも通り女たちが逃げ出さないか見張ることだ。
一件無造作に切り株に腰掛けているが、しかし、女たちが逃げ出さないか、そして誰かが接近しないか、臨戦態勢で構えている。
慰みの声をかけるでも、女たちの嘆きを聞いて愉悦に浸るでもない。
ただ従者としてガモはボルトリックの命に従っている。
と、そこで檻の中のエルフが一人、こちらを睨んでいることに気づいた。
無感動な目でそれを見つめていると、怒りに震えた声で尋ねられた。
「どうしてこんなことするの…!」
泣いたせいで目は腫れているがなかなかの上玉だとガモは思った。きっとこの女は高く売れるだろう。
応える義理はないがガモはそっけなく返した。
「……貴様たちとて動物は狩る」
断定の言いきりがガモの口癖だ。女はくってかかる。
「だからといって!こんなこと許されるわけがない!それに――」
動こうとして手にまかれた鎖がそれを邪魔する。魔力を封じるための特別な拘束具だ。
「――あなたも亜人なのにどうして人間なんかに従うの!?」
身体能力や感じられる魔力の波長から人間でないことは明らかなだ。
だがその刹那、ガモの眼孔が鋭く光った。
目に見えぬ動作で剣を抜き、檻に斬りかかる。金属のぶつかる鋭い音が響く。
女はひっ、と声をあげた。他のエルフたちも恐怖に涙する。
「俺は亜人ではない」
あくまでも声を荒げることなくガモは続けた。
「そう決めつけたのは貴様たちだ」
断定の口調は変わらない。
檻に刺さった剣をむりやり引き抜き、これ以上ガモは何も話そうとはしなかった。
しかし、その眼光は先ほどよりも激しい。女のエルフはそれ以上何も言えなかった。