Neetel Inside ニートノベル
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ミシュガルド冒険譚
永久に輝け誓いの炎:4

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 ひんやりとした風が洞窟の中を抜け、上から落ちた水滴が肩を濡らす。
 気にした風でもなくニッツェは静かに笑った。
 それは喜びではなく期待に満ちた笑みである。
 洞窟内は暗く、魔法による仄明かりだけが彼女を照らしている。
 浮き上がる陰影は彼女の笑みの怪しさを強めている。
 「麗貌の同胞ニツェシーア。……その笑みはどういうこと?」
 それを見逃さず、幼い少女の風貌をしたエルフはニッツェの名を呼んだ。
 容姿に似合わずその眼光は鋭く、声色も硬い。
 テロ組織エルカイダの中心に坐する魂依の同胞にして漆黒の英雄、ダピカだ。
 ニッツェは恭しく自らの水晶をかかげ、ささやくように告げた。
 「明日、時代に1つの区切りが訪れます。神の意思。神の遺志。すべては混ざり合い、我ら亜神の悲願は一人の少年のもとに集うこととなるでしょう」
 エンジェルエルフであるニツェシーアの予言が外れることはない。ここまで言い切るのならば確実に明日、何かが起きるのだ。
 しかし、とばかりにダピカは眉をひそめた。
 「少年、とは…前に話していたケーゴという少年のこと?」
 「おそらくはそうでしょうね。」
 目に険が宿る。
 少女の纏う魔力が激しさを増す。
もともと探査避けとして洞窟中に満たされていたダピカの魔力がざわめく。ニッツェは肌が痛むのを感じた。
「亜神は人を許さない」
確かめるかのようにダピカはゆっくりと唱えた。
神代の時代に亜神がその身に刻んだ誓い。ヒトの世では神話と呼ばれる空想物語のような事実。
「どうして人の子供に我らの命運が握られることになるの…?」
ニッツェは応えない。予言以上の未来は彼女には読むことはできない故に答えることができないというのが正しい。
あるいは別の、自分よりも力を持つエンジェルエルフならばこの水晶が見せる未来をさらに正確に読み取ることができるのかもしれない。
 しかし、それほどの力を持つエンジェルエルフをニッツェは一人しか知らない。そしてその同胞がエルカイダのために力を貸すとは到底思えなかった。
 彼女、ソフィアはエルフ至上主義であり、亜神であれば誰でも受け入れるエルカイダをよしとしていないのである。
 「この魔力はどうしたことだ」
 不意に低く唸るような声が響いた。
 ゆらりと現れた影はダピカよりもはるかに大きく、影が彼女を飲み込む。
 「雑兵たちが怯えている。お前の魔力はそこに在るだけで影響が強いのだぞ」
 熊の姿をした亜神、ロー・ブラッドは諫めるような口調でそう述べる。
 このままヒートアップしていけば力の弱い構成員たちが無事ではない。それは彼女も不本意なので、ダピカはゆっくりと呼吸をし、心を鎮める。
 「見極めるしかあるまいよ。ケーゴというその少年が我らにふさわしき未来か否か」
 唸るようなローの声。ダピカは彼とて予言は不快なのだと感じた。
 無理もなかろう。エルカイダの構成員は多かれ少なかれ人間に恨みを持っているのだ。
 しかし、古の教義をその胸に宿すのはその中でも一握りだ。

 亜神は、神は、人を決して許さない。

 「見極める、か」
 ダピカは顎に手を当てた。
 神の力をその手の内に持つ少年。そして彼と共にいるというエルフの少女。
 果たして予言の真意は。精霊樹に宿るはずの神意は。
 思案の後に彼女はゆっくりと宣言した。
 「ならば、私が見極めよう。この世界の行方を。我らの進むべき道を」
 

 ダピカの言葉をエミリー・マンネルは岩陰に隠れ、何かを憂うように聞いていた。

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