Neetel Inside ニートノベル
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 ――もう、長くない。

 ――どれだけ頑張っても、人間の体は耐えられないのね。残念。せっかく――様も心を許してくれたのに。

 ――我は多少の興味を持っただけだ。人間に心を許すなどあり得ぬ。

 ――ふふ、そうですか。……結果として利用してしまっただけだった。ごめんね、ケーゴ。

――――

 その気配に気づいたのはシンチーだった。
 獣とは違う。足音をできるだけ立てないように動く、人のものだ。
 それと、荷馬車の車輪が軋む音も。
 「シンチー?」
 様子に気付いたロビンが腰を上げる。
 警戒しろと、目で訴える。
 ちょうど戻ってきたケーゴとアンネリエも身を固くする。
 少し離れてはいる。半亜人の聴覚だからこそ捉えられるものだ。だが、この夜更けになぜ移動をする。
 試案したのと同時に、背筋を視線が指した。
 「背後!」
 叫ぶと同時に剣を振り上げた男が躍り出た。
 視線は感じたが、狙いはこちらではない。注意が別のところに向けられていたのを確かめていたのだ。
 現れた男が剣を振り上げた先にいたのは。
 「アンネリエ!」
 ケーゴがアンネリエと男の間に割り込む。短剣で男の剣を防ぐ。
 「ちぃ、小僧。なかなかいい反応しやがるな。そこの亜人女がボディーガードかと思って警戒していたが…お前、本当にあの交易所の騒動を解決しただけの力があるようだな」
 隻腕に義足の男。ベルトランドだ。
 「アンネリエを狙ったな…!」
 ケーゴが唸る。黒曜石の瞳に緋色が走った。
 まためまいがした。体幹が崩れそうになるが、今はそれどころではない。
 「一体何なんだよお前!」
 ベルトランドはせせら笑った。月光が作る顔の印影が彼の邪悪さを増している。
 「別に誰でもいいだろ、そんなもの。俺はそこのエルフ女の持ってる杖が欲しいんだよ」
 「そのために仲間を?」
 シンチーも剣を抜き尋ねた。
 ベルトランドはケーゴから間合いを取り肩をすくめた。
 「仲間というほどではないが…少し状況を利用させてもらったのさ」
 「状況だと?」
 ベルウッドを背後に避難させつつロビンも口を開いた。襲撃を受けるのはこの大陸で初めてではない。以前軍人に囲まれた時よりはるかにマシな状況だが、楽観視はしない。
 「そうだ。今俺はお仕事の途中でね。できればさくっとそこのエルフ女を殺して杖だけ奪ってばれないうちにまた合流したかったんだが…」
 どうやらそうもいかないようだな、と口元を歪める。
 「お前…!」
 内心で暴れる炎がケーゴの顔に紅蓮の文様として表れ始める。
 すぐにでも目の前の男を殺してしまいそうなケーゴの剣幕にベルウッドが肝を冷やしたその時だ。
 
「…やはり信用には足りなかった」
 低く、唸る声がした。口調は断定の言い切り。
 「ベルトランド、これはどういうことだ?金の分は働いてもらわないと困るのだがな」
 もう1つ、ベルトランドとは別の、しかし彼に似て下卑た男の声。

 シンチーは瞠目した。
 目の前の男に気を取られて近づいてくる気配に気づけなかった失態にではない。
 声の持ち主を知っていたからだ・
 「へへ、ばれちまった。だが旦那、あんたにも得な話じゃねえか。大好きな亜人の女がここには3人もいるぜ?」
 「よく言う。もともと俺の仕事ではなくこっちが目的だったのだろう」
 「まぁな。あの交易所の騒動を解決したガキ共を新聞で見て、そこの女の杖に気づいた。どうにか手に入れたいと考えていた時にあんたらからの依頼が入ってな。大いに利用させてもらうことにしたんだ。今日に合わせてガキ共もクエスト発注所の依頼でここまできてもらった。ここまでは完璧だったんだがな」
 「ふん、抜け目のない奴だ」
 まんまと嘘の依頼でこもまで釣りだされてしまったことを知ったが、今はそれどころではない。
 衝撃で固まってしまったシンチーや、散々警戒しろと言われ続けた人物に出会ってしまい呆然とするケーゴ達に代わり、ロビンが重々しく口を開いた。
 「奴隷商ボルトリックに…その付き人のガモか…」
 それが正解であるとばかりにボルトリックはにんまりと笑った。
 その特徴である金歯が月光に怪しく反射した。

       

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