Neetel Inside ニートノベル
表紙

ミシュガルド冒険譚
森深く、獣は嘯く:3

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 突然何かに抱きかかえられた。
 固いもの同士がぶつかるような音がして、そこでようやくケーゴが自分の喉が三つ目の獣に食いちぎられていないことに気づいた。
 恐る恐る目を開ける。まず目に飛び込んできたのは防具をつけた誰かの腕だ。それに先ほどの獣が牙を立てている。しかし、文字通り歯が立たないらしく飛び掛かったままのかっこうでぎりぎりと腕の主を押し倒そうとしている。
 ケーゴは腕の主を見た。そこにいたのは、
 「おねーさん…?」
 シンチーだった。門番に追い返された彼女は交易所を囲む石壁を無理やり乗り越えてケーゴを探していたのだ。
 ケーゴはシンチーの左腕に抱えられていた。彼女の右手は狼型の怪物の口に噛まれている。獣とシンチーの力比べは拮抗しているようで、小刻みに震えながら両者は睨み合っている。
 どうして、と疑問を投げかける前に、獣が動いた。俊敏な動きでシンチーから間合いを取る。
 シンチーが剣を抜き、獣に向ける。
 「亜人…いや、半亜人か。飯の邪魔をするでないわ。このヌルヌット、食事の時間を何よりも大切にしておるのだぞ。ワシの知略によって屠られた人間どもの味はこの上なく極上…」
 じりじりと様子をうかがいながら動くヌルヌットと名乗る獣。言葉には怒気がはらむ。
 ケーゴはシンチーから離れようとしたが、シンチーは決して離そうとしない。
 「…」
 無言で対峙する。
 シンチーは獣が飛び掛かってくることを予想していた。それ故に相手の一挙一動に細心の注意を払った。最優先にするべきは左手に抱えたこの子供だ。不本意ながらそれがロビンの命なのだから。
 どのタイミングでとびかかって来ても、相手を貫けるように右手に神経を手中させた。
 刹那、眼前で電気がはじけた。
 「…!」
 瞬時に状況を推測、把握した。恐らくあの獣は放電を行うのだ。この行動の次、相手がひるんだ隙に敵は逃げるか、襲い掛かるか。どちらにせよ剣を構えるのが最良、と判断してシンチーは来るであろう第二撃に備えようとした。
 が、
 「うわぁああっ!?」
 放電に驚いたケーゴが腕の中で必要以上にもがいた。
 内なる敵にバランスを崩される。その一瞬が命取りだった。
 「…っ」
 殺気で獣が接近していることが分かった。
 もはや体勢は立て直せない。
 シンチーはケーゴを突き飛ばし、
 「ぬっ!」
 「えっ…」
 ヌルヌットの鉤爪を顔面で受けた。
 あのままケーゴが暴れていたら、こちらの攻撃もヌルヌットの攻撃もどちらもケーゴ自身にあたりかねない。そう判断した故に突き飛ばした。
 獣の爪はずしゃりとシンチーの顔の左半分を切り裂いた。額から頬にかけて血があふれる。左目もつぶれた。
 しかし、それを意に介さずシンチーは顔面で受け止めた前脚を掴む。動けなくなったヌルヌットの腹めがけてシンチーは剣を突き刺そうとした。
 「そうはいかぬわっ」
 ヌルヌットの全身から電気がほとばしる。思わずヌルヌットの前脚を離してしまった。ヌルヌットは器用に後脚のみで後方へとジャンプし、そのまま森の奥へと駆けて行った。

 逃がしたか。
 裂かれた目が今更のように痛みだす。シンチーは剣を鞘に収めた。
 そしてへたりと座り込んでいるケーゴに冷たい視線を向けた。
 「…あなたが動かなければ」
 上手くいった、とまでは言わずに近くに腰を下ろした。
 ケーゴはおびえながらシンチーの顔を凝視している。
 それを無視してケーゴの足首に触れた。ケーゴは顔を歪ませた。
 足を痛めていることを確認したシンチーはケーゴに問う。
 「鞄の中に応急手当てができるものは」
 その言葉でようやくはっとして、ケーゴは慌てて鞄をまさぐる。
 「俺より先におねーさんを…」
 「いらない」
 即座に否定されてしまった。だがケーゴは必死に言う。
 「いらない訳ないだろ!?おねーさん、そんなひどい怪我…」
 「…誰のせいだと思ってるの」
 だがシンチーの言葉で打ちのめされた。
 黙り込んでしまったケーゴの脚に応急処置を施す。冷やすものがあればいいのだが、そんなものはないため固定だけだ。 
 
 日が落ち始めていた。ただでさえ薄暗い森がさらに不気味になっていく。
 さて、どうしたものか、とシンチーは考える。
 先ほどの獣、ヌルヌットといったか、はただ逃げたわけではない。確実にこちらの消耗を狙っている。だからこそ最初の電撃の際にこちらに攻撃してきた。
 一対一の勝負で負ける気はしない。それは相手も同じだろう。だからこそ、怪我をさせて、動きを封じ、機会をうかがう。恐らく、このまま夜になって、動けなくなったところを狙うつもりなのだ。あるいはほかの動物に襲われたところをおこぼれにあずかる気かもしれない。
 どちらにせよ、早くこの森を脱出した方がいい。しかし、このお荷物が邪魔だ。
 なら、ここで一晩過ごすか。それも本当は避けたいところだ。なにせ来たばかりのまったく知らない森。そもそも夜行生物がどれだけいるかも、その危険性もわからない。
 そんなことを考えている間に顔がほてるのを感じた。
 シンチーは顔の左半分のほてりが冷めるのを待ち、血をぬぐった。
 うつむいていたケーゴはのろのろと顔を上げ、驚いた。
 「おねーさん、怪我が…」
 顔の傷はすっかりなくなり、眼球も元に戻っていた。
 「いらないって、言ったでしょ」
 半亜人たるシンチーは異常な回復能力を持っている。故に肉を切らせて骨を断つ先ほどのような戦術をためらいなく行う。
 消沈していたケーゴはのろのろと笑顔を作った。
 「そっか…、ほっとした。俺のせいでおねーさんが大怪我してたらどうしようかと思ったんだ」
 「…そういうこと言うのだけは達者ね。何もできないくせに」
 にべもない。
 「…ごめん」
 ケーゴはぽつりとそう呟いた。
 すでに気づいていた。自分がつまらぬ意地を張って森に来たことが原因だということに。唯一の護身である剣も持たずに、歩き回った結果がこれだ。自分はボロボロになってしまったし、おねーさんまで巻き込んでしまった。
 トレジャーハンターなんて強がりもいいところだ。なんの力もないくせに余計に動き回ってばかりで、昼間言われた通り、口だけはでかい。
 何が富だ。
 何が名声だ。
 ……全くの無力じゃないか…!
 
 じっと足の痛みに集中した。
 そうしないと、心の痛みにばかり気がいってしまいそうで。
 足の痛みは耐えられるけど、こっちの痛みは泣いてしまいそうで。
 無言のまま、ケーゴは空を見上げた。
 だが、鬱蒼とした黒い森の中から、空を見ることはできなかった。

     

 「…少し移動しましょう」
 「少し?」
 「…少なくとももっと開けた場所に…」
 現在2人の周囲は木々に囲まれており、背後はケーゴが転げ落ちてきた崖。もし、原生生物が襲ってきたら逃げ道が一方向奪われているうえに、非常に戦いづらい。
 と、そこでシンチーは思い出したかのように腰の防具に装着していたナイフをケーゴに渡した。
 「ロビンから。護身用です」
 そう渡されたナイフはケーゴの目に非常に頼りなく映った。シンチーの剣のようにうまく戦える代物ではないし、あの宝剣のように魔法が使えるわけでもないだろう。
 ただ、そんなどこにでもあるようなただのナイフが、自分と重なった。身の丈に合った武器。何となくそういわれた気がした。
 
 しばらく足元をごそごそさせていたが、ようやく立ち上がったケーゴに向かってシンチーは肩を貸すそぶりを見せた。
 一人で大丈夫だ、と喉まで出かかったが、ケーゴは素直に助けを借りた。
 完全に森が闇に包まれるまでにはまだ少しだけ余裕がある。二人はできるだけ急いで歩いた。
 「…おねーさんはさ、なんであのおっさんと一緒にいるの?」
 「…」
 答えはない。それでもケーゴは寂しさや痛みを紛らわそうと話し続けた。
 「だってさ、おねーさんめちゃくちゃつえーじゃん。あのおっさんの従者なんてやってなくたって」
 「…おっさんというほどの年齢ではない」
 今度はまったく核心とずれた答えが返ってきた。
 「…」
 このまま会話を続けようと試みても、余計わびしいだけではなかろうか。そう思って黙ってしまった時である。
 「…身の丈に合わないものは持つべきじゃない」
 ぽつりとシンチーが呟いた。
 「夢とか、目標とか…誓いとか」
 ケーゴはぱちくりと目を開いてシンチーを見る。これはさっきの自分の問いかけに対する答えなのだろうか。
 「…私が剣に、盾になれば…可能なの」
 「…」
 重要な部分はかなり省略されているような気がする。結局シンチーが何を言いたいのか掴みあぐねてしまった。
 あるいはわざとわからないように言ったのだろうか。ケーゴにその真実はわからない。
 一応もう少し掘り下げてみようかと、口を開いた時である。
 「…っ」
 シンチーが突然立ち止った。
 ケーゴはその意味をすばやく理解し、不安げに辺りを見回した。
 静寂。辺りは闇に飲まれ始めている。
 シンチーが剣を抜いた。ケーゴは邪魔にならないように少し離れようとした。
 「…あまり離れないで」
 そうシンチーは警告する。
 彼女が察知した気配、先ほどのヌルヌットとは違うものだ。もっと小さいが、無数にいる。しかも、四方八方に。
 神経を研ぎ澄ませる。いつ飛び掛かってくるかわからない。
 こんな木が密集する中で剣を振り回すのはかなり不利だがいたしかたないだろう。
 静寂。しかし、殺気は体中に感じている。
 「………伏せて!!」
 「ひぃっ!?」
 言うが早いかシンチーは体ごと剣を回転させた。
 四方八方から飛び出してきたのは、蜘蛛のような足を6本持つ緑色の甲殻虫。牙をがちがち鳴らしながら飛び掛かってきた。
 それらを全て切り終え、シンチーは第二波に備える。
 一方、危うく首が飛んでいたケーゴであったが、シンチーの言葉に反応して伏せたというよりも彼女の怒声に腰を抜かしたという方が正しい。
 文句の1つも言いたいところだが、ばさばさと虫を切り捨てるシンチーに何も言えない。おとなしく縮こまっていることにした。
 やがて、あたりが完全に闇に飲まれる。
 半亜人のシンチーは夜目がきく。そのためどこから何が来ようが対応が可能だ。
 しかし、きりがない。巣にでも紛れ込んでしまったのかというほどに大量の虫が襲い掛かってくる。
 だが、ここで倒れるわけにはいかない。ケーゴを守り、ロビンのもとに帰るのだ。それだけは果たさなければならない。まだ足元にケーゴはいる。この場から一瞬でも離れればケーゴが危ない。
 前からも後ろからも虫が来る。幸い虫自体はまったく強くはない。だが疲労がたまっていく。
 その時である。
 「危ない!!高くジャンプだ!」
 ケーゴの声に聞こえた。
 反射的にシンチーはそれに従ってジャンプをする。
 だが、脊髄よりもある程度冷静な脳がそこで気づいた。
 シンチーは夜目がきく。だからこそ虫が襲ってくることがわかるのだし、戦えるのだ。それに対してケーゴはただの人間のはずだ。ただの人間がこの真っ暗な森の中、何をもって危ないと判断したというのだ。何をもって跳べという決定を下したのだ。
 「しまっ…」
 一度高く飛び上がり、それから重力に従って落下するはずのシンチーの体はしかし、そのまま宙に浮かんだままであった。違う、何か粘着質の物に体が囚われている。
 動けど動けどそれは振り払えず、逆に体にまとわりつく。
 知っている。こういう性質のものを知っている。だがシンチーの知っているそれは人間をとらえるほどの大きさはなかった。
 森の中、頭上に周到に張られた蜘蛛の巣で、宝石のような眼が怪しく揺らめいた。


 「…!?おねーさん!?」
 突然自分に似た声がしたと思ったら、突然自分の傍で剣をふるってくれていたものが消えた。
 同時に眼前に光る生き物が現れた。
 違う。光っているわけではない。放電しているのだ。バチバチと体毛を逆立たせ、現れた獣。
 「半亜人といえどもたいしたことはないの」
 ヌルヌットだ。

     


     

 「貴様っ…!!」
 糸に絡められながらもシンチーはもがき続けた。ケーゴもなんとか立ち上がろうとする。だが、逃げたくとも足の痛みがそれを邪魔する。
 その様子を見てヌルヌットは口元を歪める。
 あれだけいた虫たちはヌルヌットの放つ電気に驚いて物陰から様子をうかがっているようだ。だが全く事態は好転していない。
 ヌルヌットはシンチーの方を振り返って言う。
 「アヘグニーの糸は強力じゃろう。いかに半亜人といえども脱出はできまいて。…まったく、ワシの知略にはまる者共を見るのは楽しいのぅ」
 クツクツと下卑た笑いを見せる。
 「…っ!!」
 やはり先ほどの声はこの獣のものか。シンチーは唇をかんだ。
 そして、なおももがこうとする彼女の視界に巨大な蜘蛛が映りこんだ。
横並びになった8つの目がギラリと光っている。巨大な体を体毛が覆っている。頭部の凹凸が人間の顔のように苦悶の表情を浮かべる。あるいはこの本当に蜘蛛の犠牲者なのかもしれない。
 その大蜘蛛が、巣にかかった餌に向かって糸を吐きだした。
「やっ…!離せっ…!!」
しゅるしゅると予想外の速さで糸はシンチーの体を拘束していく。腕が、脚が、腰が、みるみるうちに白く縛られていく。シンチーは苦しげに顔を歪めた。
 「おねーさ…っ!?」
 シンチーの身を案じるケーゴにヌルヌットが一歩近づいた。
 「よもやシェルギルたちに襲われているとは思わなんだが、これもまた僥倖。おかげで頭上のアヘグニーの巣にうまくあの娘をおいやれたわ」
 もはやもがくことすら難しくなっていく。それでもシンチーは体を丸ごとゆすって抵抗を試みる。
 「娘、貴様はそこで蜘蛛に食われておれ。ワシはこっちをいただくぞ」
 ヌルヌットはケーゴへと顔を戻した。3つの目が獲物を捉える。
 ケーゴは後ずさりをしつつ、近くの小石をヌルヌットに投げつけた。しかし、いともたやすく放電に弾かれてしまう。意に介した様子もなく、一歩また一歩と楽しむように獣は少年に迫ってくる。
 息遣いも荒くケーゴは敵を見た。ヌルヌットも睨み返す。そこで気づいた。この目はまだ光を失っていない。それをもヌルヌットは見下した。
 「なんじゃ、その目は。よもやまだ諦めておらぬのか。なら今すぐに息の根を止めてくれる」
 「逃げて…!!」
 息もできないほどに蜘蛛の糸はきつくシンチーの体を拘束する。しかし、なんとか頭だけは拘束を逃れ、守るべき少年に向かって叫んだ。
 そのシンチーに向かって大蜘蛛はぐわりと大口を開けた。牙という牙が粘液で覆われ、あたりにどろりとした液体が飛び散った。この大蜘蛛は、この粘液で獲物を溶かして食すのだ。
 どうしようもなく、シンチーは大蜘蛛をにらんだ。
 同時にヌルヌットが、ついにケーゴに向かって飛び掛かった。
 獣は牙をむき、飛び掛かってくる。ケーゴは目を見開いた。
 
 
 一閃。
 

 獲物の喉元を食いちぎろうと飛び掛かったヌルヌットの耳を何かが掠めて行った。
 「…!?」
 ピリ、と痛みが走る。ヌルヌットは警戒して、身体を回転させケーゴの傍らに着地した。
 見るとケーゴが投擲のごとく右手を前に突き出している。
 まさか、この子供が刃物でも投げたのか。
 左耳の痛みを感じながらヌルヌットはケーゴをにらんだ。小癪なことをする。どこかに隠していたのだろう。
 …だが詰めが甘い。あれだけ真正面から向かっていったのに、この子供はそれをはずしたのだ。
 所詮児戯か。ヌルヌットは今度こそとどめをさそうと牙をむいた。そこで気づいた。
 ケーゴはこちらを見ていない。今しがた自分が飛び掛かっていったななめ上空をずっと睨んでいる。こちらのことなど忘れているかのようだ。
 その目はいまだに光が消えていない。何かを確信したかのように、燃えてさえいるかにみえた。最後の一撃が外れたというのに。自分を屠らんとする獣が真横で牙を見せているというのに。
 その時、ヌルヌットの背後で何かが落下する音が響いた。
 「なんだ!?」
 巨大蜘蛛が巣から落ちてきていた。八本の脚がびくびくと動いている。まだ死んではいない。痙攣しながらも起き上がろうとしている。
 ヌルヌットは思わず目を見張った。辛くも下敷きは逃れた。この蜘蛛がまだ小さくて助かった。
 「あの娘か!?」
 頭上を見やる。しかし、シンチーはいまだ蜘蛛の糸に絡められたままだ。驚いたようで眼下を見下ろしている。
 もう一度大蜘蛛に目をやる。よく見ると蜘蛛の頭部に何か刺さっている。
 ヌルヌットは三つの目を細めた。
 ナイフだ。大ぶりのナイフが蜘蛛の頭に刺さっているのだ。
 「…まさか、貴様!!」
 ヌルヌットが振り返ると、果たしてケーゴは大蜘蛛をじっと見据えていた。口元は薄く笑っている。
 狙っていたのは大蜘蛛だったのだ。だからこそ投擲後も見据えていたのはヌルヌットではなかった。
 ようやくケーゴはヌルヌットを睨み付けた。
 「俺の靴は特別でさ…。大事なものを隠せるようになってるんだ」
 もしまたヌルヌットが襲ってきた場合、ナイフでまともにやりあえるとは思わなかった。だからこそ、あえてケーゴはナイフを靴に隠していたのだ。
 シンチーの脳裏に浮かんだのは、崖の近くのあの場所を発つ際に足元をごそごそさせていたケーゴの姿だった。そうか、あの時に。
 そしてヌルヌットが飛び掛かるまさにその瞬間、忍ばせていたナイフを取り出したのか。…いや、そうだとしても。
 「だからといって、なぜあの娘を助けた!?」
 ヌルヌットが唸る。
 シンチーも同意するかのようにケーゴのもとへともがいた。
 ぎりぎりまでナイフを使わず、相手をひきつけて、そして一撃必殺を狙う。その作戦は良い。
 実際ヌルヌットもケーゴが隠し持っていたナイフには気づくことができなかった。あのまま狙われていれば確実にとどめをさされていたはずだ。それが何故。
 絞りだすように、ケーゴは荒い息の中言った。
 「だって、さ…。俺、あのおねーさんに助けられたんだよ」
 それこそ、体を張って。敵の攻撃から自分を守ってくれた。
 「だから、今度は…俺の番だ…!」
 助ける。おねーさんを。絶望的な状況の中、それだけは決意した。
 「俺だって…俺だって、何かできる。…何かしないといけないんだ!」
 唖然とするヌルヌットを前にケーゴは無理やり立ち上がった。そして力の限り叫んだ。
 「来いよ犬野郎!こっからが本番だ!!」

       

表紙

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Neetsha