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俺の親友ディオ・ファルコーネ

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~俺の親友ディオ・ファルコーネ~



シチリア系マフィア、サルヴァトーレ・フランク・ファルコーネの次男として
生まれた俺の親友ディオ・フランク・ファルコーネは息苦しい生活を強いられていた。
父はシチリアの選民思想にとりつかれていた。

結局のところ、全ての話の結論を
シチリア人がどれほど優れた人種であるかを自慢することに持って行きたがる人物だったのだ
彼にかかればシチリアの晩鐘事件だって、明るい話題に変わる。

なんせ「フランス野郎を一番多く血祭りに挙げたイタリア人はシチリア人だ」という話から始まり、
最後には「シチリア人こそがイタリアの誇りを護る優れた人種だ」という強引な結論へと流れ着くのだ。
もし、彼がドイツ系だったのならナチスドイツの歴史すら明るい話題に変えてしまっただろう

そして、更にはアメリカに根を張るイタリアンマフィアのほぼ全てが
シチリア系であることを話し、シチリア系マフィアこそマフィアの本流であり、
自分たちはその本流に生まれた優秀な一族なのだと声高々に話すのだ。

まるで恋人の話を延々とし続ける彼氏のように
嬉しそうに話すもんだから聞かされる方としてはたまったもんじゃなかったろう。

そんなディオがグレて、イタリア系の俺とつるむ様になったのも
仕方がないことだっただろう。
それは、亡くなった兄貴ダニエルの影響が否定できない。
あの事件は悲劇だった。
彼の兄さんのダニエル・フランク・ファルコーネは父の選民思想を理解はしていたものの、
それを次男のディオに押し付けようとする父のサルヴァトーレに対して
「お父さん、まだディオは小さいんですから
 もう少し大人になってから その話をすべきでは?」と優しい口調で上手くなだめていた。
そう言うとサルヴァトーレも
「おぉ……そうだったな スマンスマン」と言い、それに対して
ダニエルが
「シチリア人が優秀な民族であることぐらい
 言わずもがな いずれディオも身をもって知っていくでしょう……そうだよね?
 ディオ。」
と問いかける。これで父のご機嫌は完全に良くなり、ディオへの洗脳教育も
直ぐに終わるというわけだ。


ディオにとってダニエルは憧れの存在だった。
こなせるスポーツは殆ど優秀にこなしていたし、勉強もこなしていた。
父親もそんな優秀な息子ダニエルを後継者にしたがっていた。



そんなダニエルを不幸が襲ったのだ……
ダニエルとディオがパレルモおじさんのイタリアンレストランに
食事に行っていた時のことだった。マクベスファミリーの下っ端の
ブロス率いる殺し屋集団がレストランを襲撃した。トンプソンマシンガンによる銃弾の嵐が
降り注ぎ、パレルモを含む従業員8名と、15名の客が死傷した大惨事だった。
ダニエルとディオを護っていたボディーガード達によって
ブロスを除く殺し屋5名を返り討ちにすることが出来たが、その代償はあまりにも大き過ぎた。
ダニエルはディオを庇って背中に4発の銃弾を浴びて死亡したのだ


サルヴァトーレの嘆きぶりは凄まじかった。
優秀な息子を、後継者に考えようとしていた息子を失ったのだから……
ディオも優しかった兄ダニエルの死に絶望していた。
葬式の時もひたすら泣きじゃくっていた。ただ、彼はそこに明確な殺意を感じることになった。
その殺意の先にあったのは 父であるはずのサルヴァトーレの姿だった。

ディオを見つめるサルヴァトーレの目には息子が助かったことへの助命の喜びは一切感じられず、
むしろ何故おまえが生き残っているんだという叱責の眼差しが感じられたのだ

嘘だ嘘であってほしいとディオは幼いながらに思った
愛する兄を失った弟として、その失われた心のパーツを埋められる肉親は
父親以外にはいない筈なのだ。普通ならば……
そう……彼の場合はそれが普通じゃあなかったのだ

心の支えを必要としていた彼ディオに異常な現実が襲いかかった
ある日のこと、書斎で相談役のサンティーノに悩みを打ち明けていたのだ

「あいつを見ていると……時々首を絞めあげてやりたくなる……
 何故……何故おまえなんだと……」

「お気を確かに 旦那。ディオ坊ちゃんは貴方の唯一の肉親じゃないですか
 そんな非情なことを言ってはシチリアの名に傷が付きます……」

「分かってる……だが、どうしても憎いんだ
 何故ディオではなく ダニエルを奪っていったのだと
 神を責めたくなるのだ……何故ダニエルではなく おまえが生きているのだと……」

ディオのこれまで築き上げてきた心の支えが砕かれていく氷のように粉々になっていった
ディオの大きく見開いた空虚な目からは大粒の涙が一筋に流れていった
同時にディオはその扉を大きく蹴り上げ、外へと駆け抜けていた

「否定して欲しかった……
どうして……どうして兄さんじゃなく 自分が生きているんだと
何度も何度も 思った……でも、父さんだけには否定して欲しかった……そうなんじゃないよって」

涙で顔をグシャグシャに濡らしながらディオは思った。
人生は取り返しのつかないものだ 間違った行動が救いのない結果を生み、
人生が進んでいくことだってある……だからこそ、そうなってしまった時に
「それでも頑張ろう」と言ってくれる誰かが必要なのだ。
今のディオには、その誰かが父親だったんだ。
だが、その父親はその誰かではなかった。

流れゆくマンハッタンの水の流れを見つめながらディオは悟った。
人生は取り返しのつかないものだし、「それでも頑張ろう」などという台詞は
ただの理想論なのだと。世の中はそんな理想を実現してくれるほど優しくなんてないのだと。

連れ戻されたディオの瞳には、【哀しい光】が差し込んでいた。
その光とは、世の中に対して冷たく絶望しきったものだった。

父親のサルヴァトーレとはそれ以来、口も聞いていないし目も合わしてはいない。
サルヴァトーレもそれ以来、後継者の話題になると「その話はするな」と
険悪な雰囲気を作り出すようになってしまった。

ディオもあまりこの話をしたがらない。
しても辛い過去になるだけだし、
俺も親友の哀しむ面は見ていて気持ちの良いもんじゃねェからな。

まあ、それでも出会った頃に比べると少しは丸くなったんだけどな
出会ったきっかけも殴り合うファイトクラブみてぇな溜まり場で
殴り合ったのが始まりだ。

俺もこのいけすかねえファルコーネの甘ったれた坊ちゃんに
クソ食わせてやりてぇ気分だったから、思いっきりぶっ飛ばしてやったら
意外と 爆発力のある反撃を食らっちまってな……

そっから仲良くなって今の過去話をちょろっと聞いて
そっから仲良くなったってわけよ。

今思えばその爆発力のある反撃も、父親との確執への募りに募った不満が原因だったのか





















       

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