Neetel Inside 文芸新都
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ミシュガルド戦記
10話 ミシュガルド計画

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10話 ミシュガルド計画







 甲皇国帝都マンシュタイン。
 皇居グデーリアン城にて観兵式が行われていた。
 内庭に、最新式の大砲、飛行船などの兵器が陳列され、威勢を放つ。
 そして幾千、幾万もの整列した将兵らが整列している。
 装甲を施された騎馬に跨り、突撃槍を掲げる重装騎兵。
 軽装の騎馬と胸甲とサーベルと小銃のみの軽騎兵。
 鉄鎧と鉄剣や鉄槍の歩兵。
 一部の身体を機械化された兵士もいる。
 何かと誤解されやすいが、甲皇国に徴兵制度は無い。彼らは全て志願兵である。
 徴兵などせずとも、食べるために職業軍人になろうとする男子はとても多い。
 破壊された自然環境の甲皇国だが、その代償としての工業力には目を見張るものがある。
 農地など無くとも、工場で生産された加工食品(原材料はお察し)で食を満たすことができる。
 甲皇国に生まれた者は、男は兵士、女は工員になるのが一般的と言われている。
 軍は勿論のこと、工場も国営である。
 殆どの平民は、国に頼らなければ生きていけない統制経済。
 厳しすぎる自然環境と日々の苦しい生活が、豊かな敵国アルフヘイムに対する羨望と嫉妬と敵愾心を煽り…。
 ゆえに国民国家としての意識も高く、恐らく世界でもっとも「愛国心」をもった人々の国となる。
 皇居のバルコニーに、陸軍大将ホロヴィズが姿を見せる。
 眼下の将兵らを睥睨し、サッと右手を掲げ…。
 と同時に、将兵らも一斉に右手を掲げる。
「ボーン・ダヴ!(万歳、甲皇国!)」
「ボーン・クノッヘン!」
「ボーン・ホロヴィズ!」
 地鳴りのように鳴り響く歓声。
 骨統一真国家とも呼ばれる甲皇国は、骨を意匠としたデザインの装束を好んでいる。
 将軍、兵士らの装備は、骨をあしらった兜や鎧や軍服に統一されており、実に壮麗だ。しかし黒色と白い骨をあしらった軍服や鎧の人々は、地獄の悪鬼か死神かと思わせる。
 それはまるで盛大な葬式のようであった。
 ずり、ずり、ずり。
 重たそうで豪奢な法衣を引きずり、皇帝クノッヘンがバルコニーに現れる。
 クノッヘンもまた右手を掲げる。
 と同時に、ピタッと兵士達は歓呼の雄たけびを止め、一糸乱れぬ動きで直立不動で静止する。
 まるで、幾千、幾万もの彫像が立ち並んでいるようである。
「……開戦から40年……」
 クノッヘンは、しわがれた低い声で、演説を始める。
 その声は拡声器により、皇居中に、いや帝都各所に設置された音管を伝い、帝都中に鳴り響く。
「……数多の将兵の命が失われ、だが尚、戦いは半ばである……」
「……嘆き、怒り、絶望が諸君らを襲っているであろう……」
「……だが、皇民達よ。膝を屈してはならぬ……」
「……今一度、思い出して欲しい。何故、皇国がアルフヘイムと戦端を開くに至ったのかを……」
「……栄光ある甲皇国軍将兵諸君! ミシュガルド計画は最終段階に差し掛かっている!……」
「……この世界ニーテリアは、急速に滅びを迎えようとしている。大地は腐り、生きるために体を機械に換えなければならず、人心は乱れ、安寧とは程遠い……」
「……だがすべては、古代ミシュガルド文明の謎を解き明かすことで、滅びは避けられるのだ!……」
「……悪辣にも、アルフヘイムの亜人どもは……」
「……精霊国家などと自称し、古代ミシュガルド文明と敵対していた黒歴史を隠蔽しておるが……」
「……古代ミシュガルドは、野蛮なるアルフヘイムによって滅ぼされたのだ!……」
「……このニーテリアで、唯一豊かな土壌を誇るアルフヘイム……」
「……だがそれは、古代ミシュガルド文明からの遺産を不法に独占しているからに他ならない!……」
「……亜人どもは、この世に害悪を撒き散らし、文明の歩みを止める癌なのだ!……」
「……我々、ダヴの民は、古代ミシュガルド文明の正統なる後継者である!……」
「……文明に目覚めた我ら先進人類こそが、野蛮に自然のままに生きる亜人どもを駆逐し、世界を導く責務がある!……」
「……そう、アルフヘイムの闇を払い、失われたミシュガルド大陸を復活させ、この世界ニーテリアを救うには……」
「……今一度、今一度、諸君ら将兵の力を貸して欲しい!……」
「……行け、甲皇軍の忠節にして勇猛なる将兵たちよ! 亜人どもを根絶やしにするのだ!……」
「……それこそが、失われたミシュガルド聖典に記された、我らがダヴの神の教えである!……」
「……皇国を、世界を救え!……」
「ボーン・ダヴ!」
「ボーン・クノッヘン!」
 熱狂的な歓呼の嵐が、グデーリアン城に、帝都マンシュタインに鳴り響く。
 真実はどうであれ、その熱気だけは本物であった。

       

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