皇居グデーリアン城内は、大量発生したローパーの分泌する淫靡な粘液が空気に溶け込み、薄いピンク色の霧がたちこめ、息をするだけでむせ返りそうになる。その霧のために、ローパーに犯される女達のおぞましい痴態がぼやけて見えなかったが、それは彼女達にとってはせめてもの幸いだったかもしれない。
 エレオノーラが心配だ。皇居までこんな状態では無事では済まないかもしれない。ゲオルクは半ば覚悟をしながら、后や女官が暮らしているという後宮を目指した。
「エレオノーラ!」
「ア…アアアァッ……アーーーッ」
 返ってきたのは耳をつんざくような喘ぎ声。
 遅かったか…!
 ゲオルクは絶望しつつ、薄ピンク色の霧を掻き分け、長剣でローパーを退治しようとする。
 だが様子がおかしい。魔物の気配はするが、どうも他のローパーとは形状が異なるようで…。
「キシャアア!」
 霧を掻き分け、現れたのは裸の女のような人影だった。
 だがそれは、人間の皮を被った魔物という印象をゲオルクに与えた。異様に長い舌を伸ばし、口腔内も人のそれとはどこか違った形状をしている。たゆんたゆんで豊満な胸や尻をしており、ゲオルク好みではある。だが不思議と劣情は感じないというか、むしろその豊満な体は男を誘い出すためだけの疑似餌のような──そんなおぞましさだけが先立つ。外見だけなら人間の女に見えなくもないが、中身はまったく違う何かだろう。禍々しい舌つきは、捕食者が獲物を前にしているような、何か動物的というか魔物的というか──ともかく、ゲオルクはこれは敵だと本能的に感じた。
「退け!」
 長剣を振るうが、そいつは思ったより俊敏な動きで、あっさりとかわされてしまう。
「………」
 ゲオルクの相手をするのは得策ではないと判断したのか、戦いは不得手だったのか、そいつは怯えたように走って逃げていった。
「何だったんだあいつは」
 それは当然ゲオルクも初めて見る魔物だったが、ローパーの亜種でローペリアというもので…。
「無事か、エレオノーラ!?」
「あ、はい」
 ゲオルクが部屋の中に駆け寄ると、思ったより元気そうなエレオノーラが呆気に取られながらも返事をした。衣服も溶かされてはいないようだ。
 その代わり、部屋の床で伸びていたのが…。
「私より、皇帝陛下が大変なことに……」
「…!?」
 エレオノーラの傍らに、でっぷりと太った醜い裸体を晒しながら、全身を粘液まみれにしつつ、恍惚の表情を浮かべているその老人こそが…。甲皇国の頂点に立つ男、皇帝クノッヘンその人であった。
 ローパーの亜種ローペリアは、女ではなく男を狙って犯そうとしてくるローパーなのであった。
 皇帝クノッヘンは、ローペリアの口腔によってフェラチオを繰り返され精液を搾り取られた後、触手舌で尻穴を犯されつくされていたのであった。60も過ぎた老人に、ローペリアの“搾取的な”淫撃は余りにきつかったのだろう。皇帝の全身は粘液だらけだが、同時に汗やら涙やら小便やら、あらゆる体液が漏れ出てぐっしょりと床に滴っていた。
「むぅ……」
 にっくき皇帝だったが、こうも無残な姿を晒しているとなると少し哀れに感じてしまう。そうか、あの喘ぎ声は皇帝のものだったのか…。そういえば、どこか野太かったな。
「もう、おっかしいのよー」
 元気そうに、朗らかにエレオノーラは笑った。夫である皇帝が憎いのは彼女も同じだった。痴態を晒す夫を前に、呆気に取られながらもいい気味だと嘲る。皇帝の痴態は、泣き叫ぶだけで気弱だった彼女に少しの変化を与えていた。
「男なんて、実はたいしたことないのね」
 夫は60も過ぎた老人ということもあり、何回も続けてすることはできないし、1回だけするのでも異様に全身汗だらけとなって苦悶の表情を浮かべているのだ。勃起するのも一苦労という。“わしを満足させてみよ”なんて偉そうに言っていたが、逆に妻を満足させることはできないのだ。
「それにあの人…どうも他の男の人に比べると小さいらしいのよ! 女官の皆さんに聞いたから、これは確かだわ!」
 鼻息荒く憤るように言うエレオノーラに、ゲオルクは興味をそそられ、裸体で気絶する皇帝を検分した。
「うむ。猿のように子供を多く作っているというからどの程度の一物かと思えば……これでは10歳の子供程度だな」
「やっぱり!? それにこの人、成人女性より小さな男の子の方が好きっていうんだから、救いがたい変態よね!」
「ああ、たぶんそれは、こいつが短小だから、他の男と比べられるのが嫌なんだろうな。自分と同じぐらいのモノしか持たない小さな男の子しか愛せないんだろう」
 と、冷静に分析しながら、ゲオルクは嘆息した。
 俺はこんな哀れな男を相手に、何をむきになっていたんだろう。
 一時は殺してやろうとも思っていたが、すっかりそんな気も失せてしまっていた。





 ローパーの出す淫靡な空気にあてられたという訳では無いが…。
 ゲオルクは思いの丈をエレオノーラに告白し、彼女もそれを受け入れた。無様な夫が気絶しているその横で、エレオノーラはゲオルクに抱かれることを、夫への復讐と考えたのだった。
 処女ではなくなっていたが、それでもエレオノーラは清楚な美しさを持つ娘だった。肩に栗毛を遊ばせながら、上等な薄絹の肌着をまとったその姿は、ほっそりと頼りなくて、痩せぎすな少女さえ連想させる。ただ、なるべきところは女として十二分に実っていた。菱形に群生する恥毛の様子や、すっと縦に走ったへその線や、ツンと尖ったピンク色の乳頭からなだらかな稜線を描く豊かな乳房、その根元から白鳥の首のような腕につながる優美な腋の造形まで。余すところなく、ゲオルクは隅々まで観察しながら、それらが全て己の物になったことに信じがたい思いを抱いていた。
 俺の女だ。俺の女なんだ。甘い体臭を吸いながら、こんな思いはゲオルクも初めてのことだった。
 初めての女という訳ではない。帝都の娼婦をしょっちゅう買っては有り余る精力を解放していた。地獄のような戦場から生き延びた後、生存本能からだろうか、女を抱かずにはいられなかった。
 一人の女に捕まるなんて。家庭を守り、妻だけを愛する一穴主義なんて、とんだ間抜け野郎さ。そううそぶく傭兵連中は多い。ゲオルクとて感化され、そう思っていた。
 結婚は女のためのものだ。やるだけなら買うか奪うかすればいい話だ。だがそれは、つまるところ“愛”なんて感情が芽生えたことがない身勝手な男の理屈だったのだ。
「結婚しよう、エレオノーラ」
 何度もまぐわった後に、感極まったゲオルクはそう告白する。
 かつてジーン伯爵の屋敷で、庭から窓ごしに彼女に告白した時とは違う。己の腕の中に、今、彼女は満足げに横たわっている。
 よもや断られることはない。そう思っていたが。
「お断りします」
 そう、にっこりとエレオノーラは微笑みの爆弾を投げかけた。