Neetel Inside 文芸新都
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老婆は黙って俺の顔を見つめていた。俺の余計な感情の波はざばんざばんとうるさいくらいに俺の頭を揺さぶって俺は泣くまいとするけれど涙腺は無視して緩まって熱くなってくる。視界が水中みたいにぼやけて見えにくくなる。呼吸をしようとしてもいつものようにはならなくて震えて声を出そうとすればするほど泣き声みたいになって格好が悪い。あぁこれは泣いてしまう。中学生にもなって。えええなんで俺はこんな知らない婆さんの前で泣くんだろう。情けないけど涙はアホみたいに垂れてくる。俺はトカゲを見つけたときから、体液を舐めた時から何かちょっとおかしくなっているのだ。
「ううっ」変な声が出て息が苦しくなる。ついでに咳も出た。ぼたぼた床の畳に涙が落ちて鼻水も落ちるからますます格好悪い。なんでだよなんで泣くんだよ。「離婚してからお袋おかしくなったんや」
そうやって俺が泣いていると老婆は俺の横にきて背中を撫でてくれた。そんなことをしてくれるから俺がまたなんか泣いてしまって止まらない。またしばらくして俺が落ち着きかけたら老婆が言う。
「もう大丈夫か?」
俺がボロボロの顔で首を縦に振ると老婆は俺の頭にポンと手をやった。
「苦しかったんやねぇ」
「うん」
「ほうかほうか」
俺はもう一度泣いた。声をあげて泣いて泣いてまるで自分が赤ん坊にでもなったみたいだ。今は泣くしかないから遠慮なく泣こう。老婆が優しく見守ってくれているその間はそうしようと俺は決めたのだ。
大方の涙を出し尽くして一息つくと、やけに顔が熱くてまるでぼうっとつむじから湯気でも出ているようだ。触らなくとも目がパンパンに腫れているのがわかる。背中をさすってくれる老婆を片手で制すると老婆は離れてよっこらせと段差に陣取った。
「俺どうすればええんかなぁ」
「どうするって何をや?」
「やからさぁ俺まだ中学生やしさ、自立なんて無理やし、これからもお袋といなあかんやん」
「うん」
「なんていうかさ、こう、お袋とどう接すればええんやろう」

       

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