Neetel Inside 文芸新都
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高校卒業を期に俺は半ば家出のような形で滋賀の実家を出て東京の大学に入り一人暮らしを始めた。日常的に母親から虐待を受けていたから、まぁ当たり前の行動と言っていい。お袋は多少の支援をするつもりだったらしいが、家に金が無いことはわかってたし何よりそんなやつの金なんてもらっても使うつもりなんてさらさらなかった。俺はお袋を憎んでいた。お袋の方はと聞かれると言葉に詰まるが、正直なところそれは今でもよくわからない。本当に憎まれているのなら俺はとっくの昔に殺されて墓石の下にでも眠っているのだろうし、支援を申し出たりもしないだろう。愛されているのなら虐待に手を染めたりはしないだろう。端的に言うなら複雑な愛と言ったところなのかもしれない。親父に捨てられたお袋の当時の心境は察するに余りあるし、同情もするがそれでも俺はお袋を許せないでいた。俺は奨学金を借りまくり人一倍バイトに励んで経済的に自立した。時折お袋から仕送りが送られたりもしたがそっくりそのまま全て送り返した。添付された手紙も含めて。実家から出るだけではなくて、それは俺からの、お袋とそれまでの過去への明確な決別の証だったんだ。
穂花と出逢ったのは大学三回生の四月の春のことでどこにでもあるような新歓コンパでの事だった。やつはピカピカの大学一年生で俺の入っていたこれもまたどこにでもあるようなボランティアサークルのコンパに参加し、そこでたまたま隣に座っていた俺と知り合ったのだ。俺は自慢じゃないけど女にモテたためしはないし自分でも良い容姿だと考えたことは一度もなく、性格だって捻くれた方だと思うが、それからというものやつは俺のどこを気に入ったのか頻繁に俺に遊びの誘いをかけてくるようになった。俺も悪い気はしなかったからほいほい遊びに付き合っているといつの間にかよくわからない内に俺たちは書いて字の如く付き合ってしまっていた。本当になぜ付き合うことになったのか今でもよくわからない。穂花は変わったやつで見た目は俗に言うギャルに近いものなのに対してギャルを毛嫌いしていて、以前原宿を歩いていたときに道を塞いでいたコギャル達を厚底のブーツで蹴り散らして通ったし家にあるCDは浜崎あゆみや湘南の風ではなくゴダイゴやビリーバンバンだし、ゴツいヘッドフォンで何を聴いているのかと聞いたとき毒蝮三太夫の落語全集を聴いていた。俺のどこを好きになったのか一度質問したときもまつ毛が長いからとか理由になってないような理由を平然と口に出して答えるようなやつだった。
卒業したあともずっと俺たちは別れることなく関係を続けていたし、今日だって俺はバイトを早めにあがれたからあいつを驚かすつもりで前約束もなく訪問したのだ。俺は穂花のことを確かに愛していて、それまで上手くやれていると思っていた。あいつがいつから浮気していたのかは知らないしもう今となってはもうどうでもいいが、今まで築いてきたものが崩れ去るということが一瞬なんだって誰かのポエムみたいな言葉が延々とまどろむ頭の中をぐるぐる巡って離れなかった。もう元には戻らないし戻れない。口を開けば怨嗟の言葉が漏れる。俺は一体どうしたいんだ?

       

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