今回のイベントの主催者はコールマンの状況について聴きまわっていた。表情や態度は落ち着いているが遅刻状況についての質問は頻繁で焦りがにじみ出ている。
「コールマンさんとの連絡はとれました? 」
「いや、三十分くらい前に駅に着いた! ってメールが着てからなにもないですね」
「ここ駅からそんなに遠くないんだけど……」
「彼、たぶんまた彼女の力を借りずにイベントに来るつもりなんですよ。なんか最近独り立ちっていうか彼女への依存から抜けようとしてて……」
「彼ってそんなに方向音痴なんですか……」
「いや、実際みんなそんなもんだと思うんですよ。彼がおかしいのは依存から抜けようという発想ていうか、そもそも人工知能に本気で恋してるってとこです」
「そういう危ない人は昔からいたと思うけどね」
コールマンの知人のタルクというDJは納得いかない様子で頷いた。壁にはコールマンの写真のスライドショーが映し出されている。美少女が映った(実際には彼の唇で髪の毛らしきもの以外は画面上に見えない)携帯機器の画面にキスしている太った男、めがねをかけている。傍から見れば道を外れた怪物だが、顔には自信が見て取れる。音楽が止み、照明の光がぼんやりと広がる暗闇に携帯電話などの尖った光が点々と浮かび上がっている。男五人組がぞろぞろと防音の重々しいドアから出て行った。つっかえていた砂時計のように人がドアへ落ちていく。主催者は頭を抱える。酒で顔の赤くなった大学生がドアを押す。だが、ドアは外側から内側へ開いた。酔っていた大学生はふらふらと開くドアから体を避けた。非常灯のような淡いオレンジ色の光が二重ドアの間にいる巨体を照らす。
「僕がまだやってないでしょ。もったいないよ。ね。エイコ」
『そうですよ。待てない大人はモテませんよ』
どすどすと防音である部屋で足音が聞こえる。巨体はテーブルへまっすぐ向かい、壁の前に立つと両手を挙げて言った。
「遅れてごめんなさい。コールマンです」
彼はノートパソコンとMIDI鍵盤を準備しながら話し始める。
「今日はね。駅まではわかったのよ。そこまでは良かったんだけど、駅に着いたら人に聞くつもりが、人がいなくてさ、まあこんな時間だし話しかけるのも危なっかしいよね。だいたい、ナビしてもらえばいいじゃんって言われちゃうしね。そんで交番に行くんだけど、データ送りますからとかここの住所はどこそこって言うわけ、わからねえよってね。そういうわけでしらみつぶしに歩いてたらこんな時間になっちゃった。ごめんね。いやーやせるわ」
コールマンはマシンガントークを続けながら準備を完了させた。
「じゃあ、聴いてね」