Neetel Inside 文芸新都
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彼女
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「突然いなくなってしまった人」が、またいつものように元気な顔で自分の前へひょっこり現れるのではないか、という錯覚を覚えてしまうことは誰しも経験があるのではないだろうか。
自分もそれをよく経験していた。
どれだけ時間が経とうとも変わりなく、今でもよく起こる現象。
彼女がいなくなってから、季節は何度も移り変わった筈だった。
私は今年で20歳になり、少し遠いところにある大学へ通っている。
それなりの充実感は得ていた。ただ、長い通学時間と、うまくいかない人間関係に、心も身体も疲弊しきっていた。
そんな時は、屡々彼女の幻覚を見ることがあった。
今でも当時のことを思い返すことがある。
彼女と出会ったのはちょうど今から6年ほど前のことだった。



誰もが新学期への期待に胸を膨らませる季節のことだった。
新入生は、やや大きめな新品の制服に嬉しそうに身を包んでいた。
二年生は初めて「先輩」と呼ばれることへの期待に胸を震わせ、
三年生は高校へ進学するための受験を意識し始める季節。
それぞれの学年の生徒たちが、それぞれ異なる心情を胸に抱いていた。
そんな半分浮かれたような雰囲気の中、私だけは不安と期待の間で揺れていた。
その年、私は生まれ育ち慣れ親しんだ土地を離れ、中学二年生への進級と同時に転校していた。
辺りを見回しても、自分の知らない顔しかない状況。
表情に出すことはできないが、友達が一人もいない、何も知らない土地へ一人になってしまった恐怖感に酷く苛まれていた。
孤独から抜け出すため早く誰かと仲良くなりたい願望と、恐怖感から来るネガティブな思考が交互に頭の中を駆け巡る。
どうしようもない虚無感と、これが夢なのではないのかと思わせるような錯覚、前の土地に帰りたい、友達に会いたい気持ち。
きっと私が、新しい土地への期待よりも逃げ出したいほどの不安を抱えていることは、新しいクラスメイトもわかっていたのだろう。
だからこそ、気構えている私に誰も声をかけることができずにいた。
私は転校初日から孤立してしまっていた。

そんな中で、誰よりも先に話しかけてきたのが「彼女」だった。
彼女は屈託ない笑顔をこちらに向けていた。
それは興味本位なのか、心の底からなのかよくわからない笑顔だったが、不思議と嫌な感じはしなかった。
彼女は一言「仲良くしよう」とだけ、私に言った。
自分がそれを口にすればきっと照れ臭くてうまく伝えられなかっただろうに、彼女はごく自然にそう言った。
その時私は、友達が出来ないのではないかと思っていたので心の中でとにかく喜んだ。
顔が緩んで一瞬で紅潮した。
嬉しいです。どうかお願いします。
すぐにでもそう返事をしたかったが、いざ言葉にしようとしても緊張してうまく声が出せない。
けれど、精いっぱいの感謝と、仲良くしたいという気持ちを素直に伝えなくてはいけない。
ここで友達を作るチャンスを逃すわけにはいかなかったからだ。
私は震える手を握りしめ、声を振り絞った。
その時自分が彼女に何と返したか、細かくは覚えていない。
ただ、ひたすら不自由な日本語で思ったことを正直に伝えると、彼女は少し安堵したような顔で小さく笑っていた。

       

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