Neetel Inside 文芸新都
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軽くため息をつきながら手を振り上げるのを見ると、ウルフィーは途端に尻尾を縮めてクンクン鳴き始めた。
「や、先生、冗談なんだよ。ハープがこんな真に受けるなんてね。…あ、いや、反省してるんだ。だから、ね?ゲンコツはね?」
「もう遅いわね!ウルフィー。先生に地面にめり込むまで殴ってもらうといいわ!」
 バジーが高飛車な調子で言い放つ。
「ひええ。」
 ウルフィーがいよいよ尻尾を丸めて脳天に訪れる衝撃に備えようとした時、一人のケンタウロスが入ってきた。機会を逸した拳は振り下ろされることなく静かに定位置に戻り、残念そうにポケットに潜り込んだ。
「どうしたんです?」
 薄茶色の尻尾をピシリと振って問いただす。彼の方が教師に向いているかもしれない。落ち着いた態度を見るたびにそう思う。すぐに手を出してしまうのは悪い癖だな。
「それがだね…。」
「またウルフィーがさあ!」
 バジーが後を引き取っていきさつを説明する。
「…それで先生に一発お仕置きしてもらおうってとこでケンが来たの。」
 最後まで黙って聞いていたケンは最後にフムッとうなずいた。
「先生、頭を叩いたらウルフィーがさらに馬鹿になっちゃいますよ。」
「なんだとう?」
 ウルフィーが鼻息荒く牙をむき出したが誰も相手にしていない。
「でもテーマとしては面白いかな。先生、今日はエントロピーについて話してくれませんか。僕も理解が浅いので誰かに教えて欲しかったんです。」
 ケンは考え深げに尻尾を振っている。賢い少年なのだ。さすがにケンタウロス族ということはある。
「ふむ、エントロピー、熱的死についてか。君達には少し難しい気もするが、ハープをこのまま放っとくわけにもいかんしな。」
 ハープは相変わらずプルプルしていた。結局のところ、この鳥の娘を落ち着かせるにはそれが一番だろうか。
「ぼ、ぼくもエントロピーについて知りたい、な。」
 珍しくフランクも積極的だ。もしかしたらエントロピーは彼の射影概念に多少なりとも影響を与えているのかもしれない。なれば彼の魂にとっても悪くない話だ。この際に話しておくのもいいだろう。
「よし。今日はエントロピーと、人間どもが空想する宇宙終末についてやろうか。」



 

       

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