Neetel Inside 文芸新都
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黒兎物語
7 セキーネの苦渋の進言

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戦時中の混乱に乗じてディオゴ達の黒兎軍は甲骨国軍の仕業に見せかけて白兎人の村々を襲撃するなど悪事を働いていたが、そんな企みも無くなっていった。

白兎軍の担当するアルフヘイム北方戦線に
侵攻してきた甲骨国軍の1個軍団の進撃が予想以上に激しく、もはや白兎軍だけでは抑えきれなくなったのだ。その軍団を率いているのがよりによってあの丙武大佐だったのだ。 彼が侵攻した跡には達磨にされたエルフや亜人の亡骸が転がっている狂気の男だ。詳細は、後述するがこれは噂ではない。
 
甲骨国軍はエルフの次に勢力の大きい兎人族の攻略に苦戦していた。そこで、彼等の戦意を喪失させる程の残虐な行為を見せつけ、弱体化させる必要があった。
丙武軍団は捕らえた兎軍兵士を見せしめにジビエの活け作り料理にし、その遺体を街中のいたる所に配置した。その蛮行はエスカレートし、軍団は兵士だけでなく、非戦闘員である筈の女子供にまで手を出した。彼女達の生首の傍に刺身状にした彼女達の肉と五臓六腑が開いたトランプカードのように陳列され、切断された手足が四つ角に置かれたその様は最早蛮行を通り越して、一種の芸術品の様であった。
「ウゥ~シ☆ 鯛の刺身に見習って兎を刺身にしてみたぞぉ~~☆テヘ 丙武」
「鯛の刺身もいいけど、兎の剌身も悪くないかも~wwwww 丙武」
陽気で軽いメッセージの書かれたカードが蛮虐な丙武芸術に添えられている光景は創作者のこの芸術品に対する軽薄振りをより一層、強調していた。
最早、兎人族などただ喰われるだけの無力な存在に過ぎないというメッセージだ。

敵の死体の尊厳を陵辱し、敵を挑発する方法は古今東西存在するが、
この丙武芸術はその中でも類を見ない常軌を逸っしたものだった。
味方の遺体を侮辱されるという屈辱的仕打ちを前に、果たして極限状態に置かれた兵士達の心が素直に怒りへと向かうものだろうか

大多数ではないだろう
圧倒的強者による殺戮は、戦意や怒りなど跡形もなく消し去ってしまう。もしてや、日々の戦いで精神的に追い詰められ、魂を蝕まれている兵士達である。死に免疫こそあれど、克服した訳ではない。同胞の活け作りにされた遺体を目の当たりにした彼等の心は怒りよりも錯乱を選んだ。

「いっ 嫌だ!!こんな剌身にされて殺されるのは嫌だぁ~~~」

あまりにも外道すぎるその残虐な殺戮方法は白兎軍の戦意を奪うには充分だった。 錯乱を選んだ兵士達の中には、逃亡者と自殺者が相次いだ。

「・・・おのれェェ 丙武!!」
怒るは白兎軍を率いるセキーネ王子である。紳士的な口調で知られる彼も目の前の蛮行を前に我を忘れていた。彼が選んだのは、錯乱よりも怒りであった。圧倒的強者による殺戮を前に、怒りしか湧かぬ彼の魂はまさに強靭と言わざるを得ない。王子という立場に甘ずることなく、武芸に秀でた彼は兎人族特殊部隊十六夜の隊長であった。セキーネ王子を筆頭として、強靭な魂を持つ兵士達のエリート集団は丙武芸術を前に誇り高き怒りを募らせていた。甲骨国軍が兎人族に苦しめられたのも、彼等の活躍が大きいが、
少数の精鋭の十六夜部隊と
精鋭ではないが大軍の白兎軍の
互いの長所を生かし、短所をカバーし合う連携こそ甲骨国軍に対抗する唯一の方法だった。だが、先の丙武軍団による殺戮芸術による兵士達の減少で、大軍という長所を失なった白兎軍は十六夜をカバーできなくなっていった。故にセキーネ王子率いる北方戦線軍は、後退を余儀無くされていったのである。
大軍という長所を生かす軍が欲しい状況に立たされたセキーネ王子は、
伯父であるピアース3世に苦渋の進言をする
「伯父上、もはや黒兎軍と手を組むしかありませぬ」

当然、その進言はピアースの逆鱗に触れた
「あの悪魔共と手を組めというのか断じて認めん! 貴様は勝利の為に白兎人としての魂まで悪魔に売り渡すつもりか!」
「恐れながら、伯父上 兵士達の士気の低下は絶望的です。迫り来る丙武率いる蛮軍による常軌を逸っした殺戮を前に、逃亡及び自殺を計った兵士の数は五分に達っしております!更にそれらに触発され、潜在的に逃亡及び自殺を計ろうとしている者達も含めるとその数 七分! 
戦意があり、戦える兵士は三分に届くかどうかという状況です。」
「・・・貴様の部隊でどうにかならんのか」
「十六夜は少数部隊です、敵地における指揮官・将校の暗殺や、重要拠点の破壊といった工作活動には秀いでておりますが、迫り来る軍団と衝突することには不向きです。軍団には軍団で対抗するしかありません
伯父上、何卒黒兎軍との和平交渉を!」

       

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