Neetel Inside 文芸新都
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黒兎物語
85 ソクウ・ラギルゥの死亡…そして、ラギルゥ一族の滅亡

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アルフヘイムの中枢に根を張っていた愚かな権力者の2人が黄泉の国へと
旅立っていくのをクローブは感じていた。そんなクローブを朽ちた大天使像が見下ろす。
その大天使像を見上げると、クローブは目を背けるように俯くと
目を閉じ、次に葬り去られるラギルゥ一族最後の男の名前を口にする。

「ラギルゥ一族の終焉を飾るのは……おまえだ。ソクウ・ラギルゥ……」



「オーレー オレオレ オーレェェー!!
ミハイルゥゥー……エル ファァァルディ!!」

「オーレー オレ オレオレオレェェー!!
ラギルゥゥー……エル ファアアアルディ!!」


「オーレー オレ オレオレオレェェー!!
シャロフスキィィ……エル ファアアアルディ!!」

民衆は口々に歌う……ミハイルは終わりだと。
続けて歌う……ラギルゥは終わりだと。
そして、最後に歌う……シャロフスキーは終わりだと。

革命が起こってから5日目……
民衆を味方に付けたレジスタンスは遂に国会議事堂となっているセントヴェリア宮殿を制圧した。
ミハイル4世の篭城するセントヴェリア城は未だ下ろされてはいなかったが、
セントヴェリア宮殿はミハイル派の首領であるシャロフスキー将軍が指揮していた
セキュリターテが将軍一派の親衛隊として死守していた場所である。

「民衆の皆さん!!私はスクウ・ラギルゥは総理大臣の座を辞っし、
ここにラギルゥ内閣の総辞職を宣言致します!!」

ラギルゥ一族の末弟ソクウ・ラギルゥは、自身が率いる内閣の大臣たちを人質にとった
クローブ派のレジスタンスと、民衆に取り囲まれていた。
銃やナイフ、剣を突きつけられ、ラギルゥ内閣の退陣が認められない場合は
この場で処刑すると脅迫されたのだ。もはや、ラギルゥは降伏を余儀なくされたかのように見えた。

「……待ちたまえ!!諸君!!私を用済みとして始末するのはまだ早い!
軍部の司令官であるスグウ・ラギルゥ将軍と、シャロフスキー将軍が逃亡を図った今……
軍部の最高司令官は私だ!! まだ私を生かしておく価値はあるぞ!!」

クローブ派はこの革命を抑える鍵は軍部と治安警察セキュリターテの掌握であると理解していた。
ミハイル派の指揮下にある軍部は、司令官のラギルゥ将軍と、シャロフスキー将軍という
2つの頭を失い、今や手がつけられない暴れ牛と化していた。
軍部は未だにクローブ派に投降する者と、ミハイル派につく者がまだ交戦状態となっており、
未だ事態の収拾がつかず、大混乱に陥っていた。
そんな状態で、軍部を指揮できる者といえば、軍の最高司令官であるソクウ・ラギルゥ首相と、
治安警察セキュリターテの副長官であるマックス・シュナイゼル内務大臣しかいない。
悔しいことではあるが、ミハイル派の敗北を認められず意地になって戦っている兵士たちも居るだろう。
軍の最高司令官ソクウ・ラギルゥ、内務大臣であるマルクス・シュナイゼルが降伏を呼びかければ、
ミハイル派の軍部を掌握することは可能だ。

だが、現時点ではマルクス・シュナイゼルは何処かに幽閉されており、
ここに残っているのはソクウ・ラギルゥしかいない。今や、
この男の生存こそが軍部と治安警察の金玉を握っていた。


(……クックックッ……馬鹿めが。この私と軍部・治安警察の間にはシークレットコードがあるのだ。
無能な自警団上がりのクズのレジスタンス共にそれが分かるはずもない。)

ソクウ・ラギルゥは声明文の中にシークレットコードを忍ばせ、
軍部と治安警察に対して治安警察副長官のマルクス・シュナイゼルの
幽閉場所を暗号化して送り、彼を指揮官として戦闘を継続するように暗号を送ろうとしていた。
これが送られれば、シュナイゼルが生き残ったミハイル派の軍部と治安警察を取りまとめてくれるだろう。

だが、そんな企みがあろうとなかろうとクローブ派の首脳部は
最初からソクウ・ラギルゥを生かしておくつもりなど恥垢の一粒ほどもなかった。
ラギルゥの名を冠する一族の者はたとえ一人たりとも生かしてはおけない。
このアルフヘイムからラギルゥの名を抹殺することこそが、
アルフヘイムの団結と平和につながると思っていたからだ。

「首相、この度は我々の投降に応じていただき誠にありがとうございます。」

ゼルドラ・モノケイロスはレジスタンスを率いる部隊の一人として潜伏すべく、
クローブ派のエルフ人兵士になりすましていた。
彼は擬態したユニコーンを父には持っていたが、母親はエルフ人族であり、
状況によってエルフにもユニコーンにもなることが出来た。
故に彼は獣人族でありながら、一番要人に近づきやすい人間としてソクウの暗殺を任された。

「ああ、構わん。私もこれ以上の流血は望まない。
私もこれからはクローブ派の一人として自らが犯してきた罪を償いたいのだ。」
ソクウ・ラギルゥは万が一の時のための保険をかけていた。
もしも、マルクス・シュナイゼルが捕らえられた場合、政治犯の解放を条件にミハイル派を裏切り、
クローブ派に加わろうとしていたのだ。

「……その贖罪の想い、さぞや民衆の心を掴むことでしょう。
降伏宣言の前にどうぞお飲みください。」

ゼルドラはお茶にディオゴから貰った彼岸花の毒の粉を混ぜ、
ソクウに飲ませることに成功した。
お茶を飲み干そうとする前に、ゼルドラはソクウに話しかける。

「ソクウ・ラギルゥ首相、我が指揮官クローブ・プリムラより
伝言を預かっております、ただ大切な案件ですので誰にも聞こえぬよう
耳元でお伝えしたいのですが……」

「ああ、構わないよ。」
ソクウは耳に手をやり、ゼルドラの言葉に耳を傾けた。
それが己の聞く最期の言葉になるとも知らずに。

「……裏切り者は何処まで行っても裏切り者だ。
また 誰かを裏切る前にさっさとくたばりやがれだとよ……!」

ゼルドラの死刑宣告であった。
その言葉がソクウの脳みそを槍のように貫くのと同時に、ソクウの身体が
彼岸花の毒によって麻痺していく。

「ぐわか………っ……かはっ……はぁっ……うごぁ……」

彼岸花の毒でソクウが悶え苦しむ中、事態を知っていたレジスタンスの面々は慌てる民衆たちを抑え、
ソクウの遺体を運び出す準備を整える。ソクウは泡を吹き、水辺に打ち上げられた
魚のようにピクピクと痙攣し、そのまま息を引き取った。


「マックス・シュナイゼルを見つけたぞー!!」
レジスタンスが幽閉されていたマックス・シュナイゼルを引き連れ、
ゼルドラたちの居る部屋へと駆け込んできた。

「ゼルドラさん!!危ないところだった……ラギルゥの野郎、降伏宣言と同時に暗号を飛ばして
ミハイル派の奴らにシュナイゼルを渡そうとしてやがった!!」

それを聞いたゼルドラはソクウ・ラギルゥの遺体とともに
民衆が見上げる宮殿のバルコニーへと移動し、民衆に呼びかける。

「聞け!! ミハイル派のソクウ・ラギルゥは死んだ!!!死んだんだー!!」
そう叫びながら、ソクウ・ラギルゥの遺体を運んでいたクローブ派のレジスタンスは
バルコニーから民衆へ向け、彼岸花の毒によって死亡した
ラギルゥ一族最後の男ソクウ・ラギルゥの遺体を投げ捨てた。
遺体は民衆の中へと吸い込まれていき、その衣装は剥ぎ取られ、丸裸にされていった。

「ミハイル派のテロリスト共!!お前たちの指揮官は我々の手の中に居る!!!」

民衆が拍手喝采をする中、ゼルドラはシュナイゼルに剣を突きつけ、
軍部と治安警察セキュリターテに呼びかける。

「……いいか、よく聞け。おまえの生きてる価値は軍部とセキュリターテを
降伏させる……ただこれだけだ……ソクウのクズのように妙な真似をしてみろ……
どうなるか……分かってるだろう。」

革命5日目の午後16時45分……ゼルドラ・モノケイロスの言葉に、
シュナイゼルは降伏。ここに軍部とセキュリターテに対し、
クローブ派への降伏を呼びかけたのである。

こうして長きに渡ってアルフヘイム中枢に根を張っていた
ラギルゥ一族の血筋はここに途絶えたのである。


       

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