Neetel Inside 文芸新都
表紙

黒兎物語
93 サウスエルフ族

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シャロフスキーは甥のフェデリコ・ゴールドウィンを引き連れ、
西方戦線の中間地点にある村々を宿営のために駐留しながら、行軍を開始することになった。
シャロフスキーと、フェデリコの率いるエルフ軍はそのほとんどがサウスエルフ人で構成されていた。
戦時中のサウスエルフは、獣人たちの村を中継地点に利用することが多く
その評判はかなり酷いものだった。デマだという学者もいるが、本書がその評判を事実だと証明する書になれば幸いだ。
アルフヘイムにはこんな諺がある。
サウスエルフ軍に駐留されるか、甲皇国軍に占領されるか選ぶようなものだ。意味は、究極の選択である。
その諺の出来た背景に、このシャロフスキーたちの軍が大きく貢献したことは言わずもがな。
彼らは獣人族の村の貯蔵庫の食料と水を防衛費としてせしめ、毎晩酒盛りをしていた。
わかりやすく言えば、みかじめ料というやつである。

「この村の駐留にあたり、貯蔵している食料と水の80%を我々に提供せよ、
西方戦線への行軍に必要なのだ。」

シャロフスキーは、獣人族とエルフの暮らすある村の村長アルフレッド・チャールスターに対し、
上記のような要求をした。これに対し、チャールスターはこう反論した。

「冗談じゃない……そんなに奪われたらどうやってわしらは生きていけばいいんじゃ……」

その数秒後、シャロフスキーが放った言葉が以下の言葉である。

「食料の提供を断るのならば、村の女どもを差し出せ……
我が軍は大変疲弊しており、士気も低下している。」

食料を差し出すか、女を差し出すか……
シャロフスキーは爬虫類のような瞳をギロリと光らせ、選択をせまったとされている。

「そんな……余りにも殺生じゃ‥…」

嘆くチャールスターに対してシャロフスキーはこう迫る。

「きさまら民間人のために戦う軍人に対して
何の奉仕もせずに、守ってくれなど虫が良すぎるではないか。
食料はよこさぬ、女もよこさぬ……善意だけで軍人が動くとでも思ったら大間違いだ。
軍人もおまえたちと同じで、労働者である。労働者に対し、報酬を用意せずに
働けなどと抜かすのは筋が通らぬではなかろう?」

こう言われ、チャールスターは泣く泣く女たちを差し出したという。
しかも、差し出された女たちは獣人族の出身の者たちが比較的多かった。
差し出された女たちがまともな姿で帰ってくる筈など無かった。
殺されはせずとも、ひどい陵辱を受け自殺を図る者たちも居た。
かといって、食料を差し出せば餓死は免れない。
シャロフスキー軍は、西方戦線までの道中で駐留先の女たちを犯し、レイプ行軍をしたとされる。


シャロフスキー軍が何故これほどまでに凶暴化したのかには悲しい歴史的背景が存在する。
同軍に従軍していたエルフはサウスエルフ族が9割を占めており、
そのサウスエルフ族は元々竜人族との内戦に明け暮れていたサウスシュタイン地方を故郷とする者たちだった。
内戦は150年前に終結を迎えたものの、いまだ竜人族に家族を奪われた世代は生き残り、
子や孫の代にその憎しみの連鎖を引き継いできた。そのため、サウスエルフ族は獣人もとい亜人を
嫌悪する傾向にあった。ノースエルフ族・イーストエルフ族・ウエストエルフ族は
兎人族やドワーフ、魚人族などの獣人・非エルフ族が身近に暮らしている環境で生まれ育ったため、
親密な関係を築いていた。当然、これらの3つの種族が多く集まる各地方の軍では、
サウスエルフ族の思想は危険視された。故に、シャロフスキー軍に集まったのはあまりの嫌悪思想のあまりに、
他の軍からつまはじきにされた者たちである。

それだけに、シャロフスキー軍の獣人族・非エルフ族に対する仕打ちは情け容赦などなかった。

そして、その情け容赦の無い軍は、ローやアンジェたちの暮らす村にも
駐留することになったのである。

       

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