Neetel Inside 文芸新都
表紙

黒兎物語
96 酒呑童子の涙

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フェデリコと不愉快な仲間たちは、何処かの酒場を探して街を歩き回っていた。
だが、どこもかしこも家を締切っておりフェデリコの期待するような展開は訪れそうにもなかった。
フェデリコの目的は、エルフの女を見つけてあわよくば酔った勢いでレイプすることである。

「ちきしょォォオオ~~~……エルフの女どもめェ~…‥獣人族の女どもばッッッかりに
接待の仕事押し付けやがってぇええ~~~……お高くとまりやがってぇええ……
エルフの腐れ女(マンコ)どもがぁぁあああ~~~……
そんなにエルフの男のチンポしゃぶるのが嫌だってのかぁぁああ~~~?」

先ほど、フェデリコを招待していた女たちはそのほとんどが獣人族だった。
それもこれも、シャロフスキーがそう命じたからである。だが、フェデリコとしてはその命令にはかなり不満だった。

「違いますよぉ……大佐ァ。あなたの伯父さん……失礼。将軍閣下がエルフ族の女は丁重に扱えと
指示したからですよ。」

「ちきしょうがぁあ……あの糞ジジイ。俺がろくにエルフ族の女を扱えないヘタレちんぽ野郎とでもぉお……
言いてぇのかよぉお~~~?????」

フェデリコはさながら麻薬中毒患者のように瞳孔を拡大させた……そう、まるで爬虫類のような目で
不愉快な仲間たちの一人の……ジャン=カルロッテを睨みつける。
その目を見ると、彼がシャロフスキー家の血を引く者であることに気付かされる。
シャロフスキーの日頃から見せるあの爬虫類のように見開いた瞳…‥…
酔っ払いその本性を 乳を曝け出す女のように曝け出した フェデリコの瞳……
その瞳の放つ禍々しいオーラに思わずジャン=カルロッテは金玉が縮み上がった。
日頃のヘタレ街道まっしぐらのフェデリコ・ゴールドウィンはそこにはいない。
いるのはただ、シャロフスキー……いや、ラギルゥの血を引く甥フェデリコ・ゴールドウィンの姿である。
シャロフスキー家は元はといえば、ラギルゥ一族の初代創設者の末弟がサウスシュタインに居を構えたことに
端を発した分家である。ラギルゥ家の中でも序列は最下位に近いほどだったシャロフスキー家は、
ニコラエ・シャロフスキーがその家長の座についてから、急激に発展を遂げた。中でも、ニコラエの妹エレナが
名家ゴールドウィン家に嫁いだ業績は大きい。そのエレナの子として生まれたフェデリコは
文明社会であるこの世界ではヘタレであるが、もし法も秩序もない世界に生まれて
日頃からこのような性格であれば少なくともそこそこのギャング団ぐらいは率いることは出来そうな凶暴性を秘めていた。

「いいえ……大佐。それは将軍の誇り高いエルフ至上主義精神に基づくものでし」
ジャン=カルロッテが言い切ろうとする前に、フェデリコは肩に手を回し、絡んできた。

(ぅぐ……臭ェ……!!)
フェデリコはジャン=カルロッテの肩に手を回した途端に、すさまじいゲップを口から放った。
彼の胃の中は放り込んだつまみと、麺類とサラダと酒が入り混じり、まるで土石流のごとく混沌と化している。
そのことは、彼のすさまじい口臭から明らかであった。
思わず、ジャン=カルロッテも思わずフェデリコの顔面に頭突きを食らわしてカウンターしてやりたいほどの
殺意の衝動に駆られたが、それが実行にうつらなかったのは先ほどの禍々しいオーラを思い出したからである。
酒に酔ったフェデリコが何をしでかすか分かったものではない。
ここで迂闊にフェデリコを刺激したくはない……ジャン=カルロッテたち不愉快な仲間たちは
そのことを察していた。

「……いいか!!男はってのは!! マンコしゃぶって!!手メコして!!そっからチンポぶち込んで
マンコをグシャミソに掻き回す生き物だぁぁ……分かるなァ? それが本来の男の仕事だ。
だからなぁぁあ~~ 犯りてェ時に 犯らねぇ男なんざ 男じゃあねぇ!!分かる?!」

「……ええ、分かりますとも……大佐。」
フェデリコは得意げに語りだしているが、もはやその主張は
反道徳反社会思想、無政府主義全肯定の危険思想が露出狂の女の乳首のように、顕となっており
とてもとてもシャロフスキーに聞かせられるものではない。

「いいか!! あのクソジジイがなんとほざこうが、女にエルフも亜人も糞もあるかっつーの……!!
女ってのは!!チンポしごいて!! フェラァチィオして!! チンポぶち込まれながら腰振って 
ガキこさえるだけの生き物だ!!ただそれだけしてりゃあいい……分かるなァ? それが女の仕事だ!!
だからなぁあ 股を開かねぇ女は!!
去勢された男と同じだ!!自分の仕事を放棄してる……分かるな?ジャン~~~???」

酔えば酔うほど身の毛のよだつ台詞を爆音のように放つフェデリコに、
不愉快な仲間たちも悪寒と戦慄を超えて、もはや畏怖と尊敬さえ感じつつあった。

「大佐ァ、今日はもう休みましょうぜ……疲れてるんスよ。大佐。
ホラ 手がむくんでるじゃないっスか……あんまり酔っ払うと将軍にブチ怒られますぜ。」

もう就寝予定時間を大幅に過ぎている。幸い、この時シャロフスキーは姉のことを思い出して一人酒の真っ只中におり、
一人憂鬱な気分で酒を嗜む正しい一人酔いどれ大会の真っ最中であったが、
そんなことはフェデリコと不愉快な仲間たちの知るところではない。


「だからぁぁ~~~ 俺は信念をもってぇぇえええ~~~~~エルフの女にぃぃい……中出しファック!!
するッッ!!もう一度言う!! エルフのぉぉ~~ 女(マンコ)にぃいい……ザァーメン中出しファックする!!」

フェデリコは地面にうずくまりながら、そう言った。
もはや酒のせいで、抑圧されたフェデリコの抱える闇が暴れ狂っている。
無理も無いだろう。大佐という大隊長というポジションにありながら実質はシャロフスキーの傀儡的司令官である。
腐ってはフェデリコは軍人なのだ、軍人として伯父のように部隊を立派に動かしたい野心はあった。
だが、哀しいことにフェデリコには適性が無かった。彼は元はと言えば、画家になりたかった。
母エレナが生きていた頃は、好きなように絵を描くことを許されていた。
それもこれも、シャロフスキーが母エレナに対して
「フェデリコは軍人には不向きだから、さっさと2人目を作れ」と指示をしたという事情もあったのだが……
母エレナは慌てて弟を身籠った。生まれてきた弟は兄と違い、出来がよく運動能力も優れていた。
シャロフスキーもその弟を軍人として育てようと計画していた。
情けない話だが、もしその弟が軍人として大成していたのなら今ここに彼は居なかっただろう。
当主の座を引き継ぎ、画家として自由気ままで心優しいエルフになっていたに違いない。
だが、そうはならなかった。母と弟は不慮の事故死を遂げ、止むなくシャロフスキーはフェデリコを
軍人として育てることになった。出来が悪いなりにフェデリコは今まで描いてきた絵をもやし、筆をへし折り、
画家の道を絶ち、軍人として生きる決意をした。彼なりにけじめをつけて、この修羅の道に足を踏み入れた筈だった。
その代償がこれか……誰も彼を尊敬などせず、七光り、御曹司のカスと陰口を叩く。
そのくせ、農民でたまたま軍人になったようなクラウスとかいう貧民のイーストエルフなんかを周りは尊敬する。
やってなどいられなかった。


「……すまない……暫く一人にしてくれないか?」

先ほどまで猛牛のように暴れ狂い怒り狂っていたフェデリコが
顔を右手で覆い、近くの箱に腰掛ける姿を見てジャン=カルロッテも
いたたまれない気持ちになったのだろう。
彼らもフェデリコが精神的に疲れていることに同情はしていた。

「あんまり無理しねぇでくだせぇよ……大佐ァ」
そう言うと、ジャン=カルロッテたちはその場を後にする。


情けなくて無様すぎてフェデリコは涙を流した。やってられなかった。

「ぅぇえ……っ ひぐっ………ぅぁああ……っ」

酒の勢いも相まってか涙が鼻水がとめどなく溢れてくる。
俺の人生はいったい何だったんだと……
誰にも尊敬されず、あろうことか見下していた獣人族の女たちにまでゴミを見るような目で蔑まれ……
伯父のシャロフスキーには使えない甥だと毎日叱責され……小便が真っ白だったことなど一度も無い。
常に小便は赤に近い、オレンジジュースのように黄色く……チンコからは腐敗臭が漂うほどの
激しいストレスに襲われていた。

「……大丈夫ですか?」
そんな彼に声をかける一人の女性が居た。

目を開け、顔をあげるフェデリコの目に飛び込んできたのは
美しいイーストエルフ族の女性だった。
フェデリコは知る由も無かったが、その女性こそローの妻アンジェだったのである。
アンジェは酒場でキャロラインが傷ついたという話を聞き、慌てて自宅から駆けつけた帰り道だったのだ。
巫女医者は、西方戦線に駆り出されていていないため、
裁縫芸術が趣味のアンジェが急遽、応急処置としてキャロラインのヒゲを縫い付ける仕事を
請け負ったからである。

「何があったか知りませんが……軍人さんは大変でしょう。
泣きたくなる時もあるでしょうから……どうかこれで。」

そう言ってアンジェはハンカチを差し出す。
この時、アンジェは目の前の男がキャロラインを傷つけた男だと気付かなかった。
キャロラインからも調子に乗ったいけすかないサウスエルフ軍の兵隊にやられたとだけしか
聞いておらず、目の前で泣きじゃくる男があまりにも、虐待された子犬のように哀れな表情をしていたので
アンジェはてっきり上官にどやされ、落ち込んでいた場末のサウスエルフ軍の兵隊だと思っていたからだろう。

フェデリコはアンジェの差し出したハンカチで顔を拭き取る。
そのハンカチを受け取ろうとするアンジェに対し、フェデリコは

「すまない……ハンカチ汚してしまったから これで新しいのを買ってくれ」

と言い、小銭を差し出した。


「涙が汚いはずなんてありません……辛くて悔しくて出てしまうんだから、この世の何より純粋な感情の結晶です。」
そう言うと、アンジェはフェデリコのお金を優しく彼の手のひらへと返した。

「このお金で故郷の親御さんに、何かお土産でも送ってあげてください……」
そう言うと、アンジェは家の方向へと歩き出そうとする。

「……ありがとう。きみ……名前はなんていうんだ?」
フェデリコは尋ねる、アンジェの名を。

「名乗るほどの者ではありませんが、アンジェと言います……
兵隊さんのお仕事がんばってください」
そう言うと、アンジェは去っていった。

「アンジェか……かわいかったなぁ……」
荒みきっていたフェデリコの心にぬくもりが訪れる。


「やっぱり、エルフの女はいいよなぁ~……」
いつかあの子を見つけて、セックスしたいなぁと思うフェデリコであった。

       

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