Neetel Inside 文芸新都
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黒兎物語
9 メラルダの腹の内

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 ダート・スタンはエルフ族代表として亜人族間の争を仲裁する立場としてだけでなく、
親友ヴィトーの悲願を叶えてやりたい願望のため、
ここにいた。

仲介者として、両者にとって有利にも不利にもならぬ場所を選ぶ必要がある。白兎人族の息のかかった土地であれば、黒兎人族が暗殺される可能性は充分にある。その逆もまた然りだ。ダート・スタンはエルフ族の集会所を和平の場として選んだ。ここなら、白兎人族も黒兎人族が罠を仕掛ける余地は無い。エルフ族のの警備兵だらけのこの場所で亜人が彷徨いていては、不審がられるからだ。
だが、これはこれで問題があった。
その両者の罠でなくとも、ミハイル4世が何か仕掛けている可能性があった。ミハイル4世はエンジェルエルフ族族長として、ここに自由に出入りできる。奴の手の内の者や、奴に買収された者が居ても何ら不思議ではない。両者のいずれかの和平反対派の仕業に見せかけた罠を仕掛けられる余地は充分にあるのだ。
ラギルゥ族を動かして穏健派族長たちを脅迫するような穢い女だ。その可能性は限りなく高い。
「エンジェルエルフというよりデビルエルフと呼んだ方がお似合いの女じゃのう」
同じエルフ族ながら呆れるダート・スタン。長寿という特性上、勘違いされがちだが、エルフと言えど人格者でも聖人ではない。他の亜人たちからはなかなか理解してもらえないが、ノースエルフ族の彼にはそんなことは呆れるぐらい分かり切ったことだった。
「生き過ぎたババアはこれだから嫌いじゃ やっぱり、女は若いのがいいのぉ~」
そう言って、ダート・スタンは護衛の僧兵長メラルダを一瞥する。いやらしい視線を感じ、悪寒でブルッと震えるメラルダが振り返り、呆れた顔でダート・スタンを一瞥した。それを見た彼はメラルダにニヤけながらも、手を振った。
(エロジジイめ)
軽蔑の眼差しを送りながら、メラルダは前を向いた。

こんな具合で、ダートとは内心上手く行っているとは言い難いが、彼女は、少なくともこちら側だ。
ミハイル4世のやり方を好ましく思っていない。むしろ、憎悪していた。脅迫された穏健派達の中には、メラルダの親戚もいたのだ。
複雑な利害が絡みあうエルフ族間である以上、ことを荒立てて仇討ちをするとまでは言わないが、ミハイル4世の邪魔が出来るのなら、その件へのやり返しはできるだろう。
(・・・ミハイルめ 来るなら来い)
メラルダは内心ミハイルにやり返し出来る機会が出来ることを待ち望んでいた。
敵の攻撃を待ち望んでいるというのも警備隊長として不適切な発言なのかもしれないが、ロに出さない以上はどんな思想でも許されるのが世の中というものだ。

向こうも表沙汰に出来ない以上、
これでやり返しをしても何ら問題は無い。要人警護のためのやむを得ない防衛手段で事は片付くのだから。
(感情でこそ人は動く 感情を味方に付けた儂に勝てると思うなよ ミハイル・・・)
利害で人を動かしてきたミハイル4世に一泡ふかせてやるためにも今回の和平交渉の邪魔はさせられない。
ニヤけるダート・スタンを余所に白兎人族と黒兎人族の和睦の使者達は
刻一刻と近付きつつあった

       

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