Neetel Inside 文芸新都
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ダニィは右手の剣を振りかぶり、頭部を一刀両断せんとばかりに斬りつける……
だが、軌道に僅かばかりの曲がりを感じ取り、ディオゴは右手のナイフを目の前にかざす。
ナイフに当たった剣は突如として、ディオゴの視界から見て左へとうねる。

ディオゴの視界外へと消えたダニィの剣は
蛇の牙のようにディオゴの喉笛を捉えようとディオゴの左から襲いかかる。

ダニィは振り下ろした軌道を着地点に、そこから蛇のようにうねり、
横から死神の鎌のように首を掻き切ろうとしたが、それもディオゴには読まれていた。
即座にディオゴは剣を止めると、右に払った勢いでダニィの剣を薙ぎ払う。
だが、それに負けじとダニィはそのなぎ払った勢いを、まるで溜めに利用するかのように
直ぐにナイフを反対方向へと薙ぎ払う。

その瞬間にガラ空きとなったダニィの腹を踏みつけるように
右足でキックを繰り出す。

「ぐッ!」

腸に軋む蹴りをまともに喰らい、ダニィの額から血管が
蛇のように浮き上がり、脂汗が滲み出す。だが、ダニィはそれに負けじと
左手で足を掴むと、足を斬り落とそうと右手の剣を振りかぶる。

(くっ…!!)

ディオゴは右足を掴まれたまま、そのまま身体をよじらせ、
左に廻し蹴りを繰り出す要領で回転しながら飛び上がる。

「ぐあッ!」

「がッ!!」

ディオゴもダニィもそのまま回転しながら地面に叩きつけられ、
前者はうつ伏せに、後者は仰向けに倒れこむ。
仰向けに倒れ込んだことで、ダニィは後頭部から背骨をまともに叩きつけられ、思わず 
怯んだ。その隙に、ディオゴはダニィの腕から脚を引き抜こうとした。
そう、女の……もうやめよう。

だが、それでもダニィはディオゴの右脚を離そうとしなかった。
ダニィの左手はディオゴの右脚をこのまま締め付けて潰そうとせん
ばかりに握り締め、抱えていた。 
まるで女のマン…………申し訳ない。

「ぐ……アあァアッ!!」

ディオゴの右足に電撃が走る。ダニィはディオゴの脚が弓状に湾曲するように
締め上げていた。つまり、ふくらはぎは上を向いている状態だ。
そのため、ふくらはぎは上下に引き千切れそうになっている。

「このまま脚を切り刻まれるか、それとも ふくらはぎがブチ切れるか……
どちらが先が楽しみだな。」

ダニィは自分に背を向け、這いつくばっているディオゴを
地平線上に見通しながら、嘲笑うかのように微笑んだ。

「クソがァあッ…!」

ディオゴは上体をねじる勢いを利用し、ダニィごと一度回転した。
脇腹に張り付いている腹斜筋と腹横筋が発達しているが故の技だ。
これで前者は仰向けに、後者はうつ伏せに地面に肘をつく形になった。
ディオゴはダニィの顔面を左脚で蹴って、引き剥がそうとしたが
ダニィは左手でディオゴの右足を抱え込んだまま、
左脚の蹴りを最低限の動きでかわし、右手に持っていた剣で
再び脚を切り落としにかかる。

「くッぉあッ!」

ディオゴは自由である左脚でダニィの右手の斬撃を捌きながら、
上体を起こし、両手の力だけで身体を後方へ押し出していく。
まるで腕立て伏せの仰向けバージョンのような要領で、
もはや手の力だけで上体どころか全身が浮いていた。
両手を押し出して後方へと飛び退くのと同時に、ダニィの左腕が絡みついた右足を
蹴り出し、振りほどこうとする。

ディオゴが飛び退く度に、ダニィの身体も浮き上がり
ダニィはうつ伏せのせいで、胸や腹を打ち付ける。
古傷のある付近は、骨が折れやすくなっていたせいか、
ダニィは思わず顔を歪める。

その痛みに気を取られた一瞬、ダニィは顔面にディオゴの左脚の蹴りを喰らった。

「がはッ!」

思わず、掴んでいたディオゴの右脚を離してしまった。
両足が自由になったディオゴは、両手で身体を起こすと低空の
ドロップキックをダニィに食らわせる。

「がァ!」

流石にダニィも両手で蹴りを防ぎ、その蹴りの勢いを利用して上体を
ダニィ視点で右側に逸らすと、まるでブレイクダンスのように、下半身を滑らせ、
ディオゴの脇腹目掛けて蹴りを食らわせる。


「がはっ!!」

ダニィの蹴りをまともに喰らい、ディオゴは悶絶しながらも体制を立て直そうと
そのままカポエイラの動きのように、弧を描いた蹴りを繰り出した勢いで立ち上がる。
ダニィもそのまま、ブレイクダンスの要領で起き上がる。

「はぁ……っ はぁ……っ」

「はァ…ッ……はぁ…ッ!!」

上着を脱ぎ、ディオゴはベスト姿になった……
気品ある紳士姿のベストはところどころ盛り上がり、
強靭な肉体が内に秘められていることを示していた。

かたやパーカーを脱ぎ捨て、ダニィは上半身裸になった……
露になったダニィの肉体はかつてのディオゴの肉体のように
ところどころ筋肉が盛り上がり、無数の切り傷や銃創などの古傷が刻まれていた。
厳ついその肉体は 浮き上がる汗で小麦色の肌が輝きを放ちながら、
妖艶な色気を醸し出していた。

「どうした? 息が上がってるぜ。義兄貴。老いぼれたか?」

「そういう自分はスタミナ不足のようだな。
裸にならなきゃ熱くてたまらねぇってか?
生憎 こちらはまだ汗もかいちゃいねぇぜ。」

両者、頭に血が昇り、義兄弟ということを忘れ煽り合っていた。

(何やってんだ……俺は)

ディオゴは熱くなった自分を叱責するかのように、
頭に昇った血を下ろした。ダニィと戦うために、ここまで来たのではない。

「イイ線行ってるが、ここまでだ。蹴りもキレがなくなってるのがいい証拠だ。
もう諦めろ。」

ディオゴは右手のナイフを捨てると、右手を差し伸べた。

「あっはっはっはっはっはっはっ!!
やれやれ……アンタは本当に見る目がない。
今の今まで俺が優しく接していたのがまるで分かっていない。」

ダニィの胸が……肩がコブのように盛り上がっていく。
背中からは蝙蝠の羽が姿を現していく。

「忘れたかい? 義兄貴。俺がコウモリ寄りの黒兎人族だってことを。」

剣を構え、ダニィは翼を広げる。
その姿はまるで四翼の悪魔のようにディオゴの瞳に禍々しく映るのだった。

       

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