Neetel Inside 文芸新都
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黒兎物語
11 和平の裏側で

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 憎しみを糧に生きてきたディオゴが和睦の使者という大役を引き受けた背景には数多くの葛藤が有ったことは否定できない。この和平交渉で白兎人族に協力する見返りとして、黒兎人族の地位向上、差別されてきた黒兎人族への謝罪、ラディアータ教徒の聖地ブロスナン巡礼承認・・・といった同胞達の明るい未来を築く成果が期待出来たからだ。
(俺がすべきことは、過去の憎しみにとらわれることではない。俺の個人的な復讐のために、同胞達の未来を潰しちゃいけない)
父ヴィトーの死が彼の心を平和への道へと向かわせた。だが、その反面
彼ディオゴの心に拭い切れぬものもある。
(・・・モニーク あいつらを許していいのかい?)
暴行され性玩具のように扱われた血だらけの妺の寝顔を涙を流しながら見つめたあの日、誓ったことを思い出していた。
必ず・・・いつか必ず・・・白兎人族を根絶やしにすると。モニークから幸せを奪った白兎人族を殲滅すると。
和平に応じるということは、妹をレイプされた憎しみを耐えて生きていかなければならないことを意味していた。
しかしながら、それはあくまでも
俺個人の問題だ。そのせいで、他の同胞達の足を引っ張るわけにはいかない。

こうして考えている間も、セキーネとの和平交渉はたんたんと進んでいた。和睦の使者として、白兎人族と共に甲骨軍と戦う見返りを得なければならない。結果として黒兎人族の地位向上、ラディアータ教徒の聖地ブロスナン巡礼承認の2つを得ることが出来た。
「上出来だ」
この戦いが終われば、黒兎人族はやり直せる・・・もう憎しみを耐えて生きなければならないかもしれないが、
それと引き換えに得られる平和は大きい。
一兵士でしかなかったディオゴ大尉に政治的指導者としての素質が芽生えつつあった。

なお、今から記すことは
あくまでも噂であるため信じるか否かは
貴方に任せる。

この和平交渉の最中、メラルダ警備隊長が一人の
女暗殺者を捕獲した。しかしながら、その暗殺者は
捕獲後に遠隔魔法が作動して爆死したとのこと。

ある匿名の警備隊員の証言によると、その暗殺者は
ラナタという傭兵に瓜二つだったとのこと。
しかしながら、この説は薄いと思われる。
今、これを記している私の傍にラナタという女性が
居るのだから


マルネ・ポーロ




       

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