Neetel Inside 文芸新都
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黒兎物語
45 フローリア、滅びの序章

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 セキーネとマリーはフローリア王国へと逃げ延びた……
フローリア王国は、アルフヘイムの衛星国家であり、甲皇国と対立していない中立国家である。
この世界ニーテリアにおいて、中立国家に逃げ込んだ難民への攻撃はボールボンヘイム条約で禁止されている。

「……ここまで来れば……甲皇国も手を出せないだろう」

フローリア王国も幸い、アルフヘイムからの難民を受け入れていた。
農地開墾に協力する労働力が不足していたフローリア王国では、不足した労働力を難民で補う
試みが検討されていたのだ。

「ようこそ フローリアへ……セキーネ殿下」
眼鏡をかけ、腰まで伸びた艶やかな銀髪を靡かせ、紫のマントを華麗に身につけた
姫騎士ジィータ・リブロースが、セキーネとマリーを暖かく出迎えてくれた。

「我々の亡命を暖かく出迎えていただき、感謝の念を拭えません。リブロース閣下。」

「お気になさらず、お2人にはこれからは我が国の発展のために
しっかりと働いていただくのですから」

ジィータ・リブロースにとって、精霊樹とリンクすることの出来る巫女マリーは
かなり貴重な存在であった。フローリアの地下においても、精霊樹の根が張り巡らされている。
農業大国と言われるフローリア王国は、精霊樹のエネルギーをアルフヘイムほど生かしきれてはいなかった。
アルフヘイムにおける精霊樹のエネルギーを生かしたインフラ技術、農業技術、発電技術はこの世界ニーテリアにおいて世界一と言われていた。
その技術を生かす鍵となるのが、精霊樹とリンクすることが出来る巫女たちの存在だ。
アルフヘイムの各族長たちは、年頃の娘を 精霊樹とリンク出来る素質を持ったエルフと結婚させ娘を産ませる。
いわばハーフエルフとなったその娘は、巫女と呼ばれ 各部族の領土に根付く精霊樹とリンクして
領土内の精霊樹のエネルギーを生かす発電機のような存在となるのだ。

農業大国フローリアは、そのエネルギーを生かすことなく農業魔法と、アルフヘイムから流れる水だけで 
世界2位の実績を誇る農業大国となった。もしも、精霊樹エネルギーを農業に生かすことが出来れば
鬼に金棒である。

精霊樹とリンク出来る素質を持ったエルフの血を引くマリーと、セキーネの子供が
ゆくゆくはこのフローリアの農業を世界一にまで押し上げてくれると考えれば、リブロースにとっても
セキーネたちの亡命は渡りに舟だったのだ。暖かく出迎えて当然であろう。

だが、そのリブロースの夢は叶わぬ夢となるのであった。
甲皇国皇帝クノッヘンは、フローリアに帰化したアルフヘイム人が
アルフヘイムに駐在する甲皇国軍を襲撃していることを
ステルシュガルド会議で非難した。

「このステルシュガルド会議に出席してくださった皆様!!
ボールボンヘイム条約の名の下に、難民を隠れ蓑にしてテロ行為を働く
愚かなテロリスト共を許していいものでしょうか!!!断じて許されてはなりません!!」

他国を侵略しておきながら、かなり滅茶苦茶な言い分ではあったが
クノッヘンのネームブランドの恩恵に預かっている政治家たちは ボールボンヘイム条約の破棄を余儀なくされた。
こうして、フローリア王国は甲皇国軍によってテロリストを匿っている非協力的国家として
侵攻を受けることになってしまった。しかもよりによって、セキーネを匿っていたのがまずかった。
あのアルフヘイム北方戦線を指揮していた白兎軍の指揮官の首となれば、
フローリアが侵攻を受ける理由として これ以上の理由は無い。

「テロリストを匿ってる国はどんな国でも皆殺しにしちゃうぞー♪」
丙武は生き生きとしていた。
なにせ、あの美しい農業大国を燃やして血と骨と灰しか残らぬ真っ黒な大地に出来るのだから……
美しく綺麗な自然が、焼き尽くされ見る影もなく蹂躙されていく光景をオカズに
丙武は達磨にした女エルフをレイプしまくった。

「う~~ん♪ やっぱり美しい自然が死の大地になっていくのを
想像しながらのレイプは格別だね♪」

そう言いながら次のダルマになった女エルフをレイプするため、
歩いていく……

(……きっと俺たちにとって、自然など不愉快なものでしかないんだろうな)
メゼツは思った。工業大国として知られる甲皇国の人間が、自然豊かな大地を一度でも
見たことがあるだろうか、答えは否である。
甲皇国が思い浮かべる故郷の風景とは
産業排水に汚染され紫や水色に染まった川、くすんだ砂のように曇った大空、
アスファルトとコンクリートで黒く塗り固められた道が続く
ニーテリア基準で見れば死の大地そのものと呼ばれる場所の光景である。
そんな甲皇国の人間にとって、生命の讃歌に満ち溢れたアルフヘイムの大地こそが
むしろ死の大地に映って見えるのだろう。

ましてや、貧民階級出の孤児である丙武にとって生命の侮辱に満ち溢れた甲皇国の大地は身近な光景すぎた。
メゼツのようにある程度の自然に置かれた環境に育っていない丙武によって、
自然溢れるアルフヘイムの大地は異端でしかないのだ。

       

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