Neetel Inside 文芸新都
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「※5 Hundar av Schale knochen・・・・・・!! Kommer jag att skjuta din jävla skalle !」

ディオゴは俺の後頭部と首の凹みに銃口をねじ込みながら、続けざまに俺を怒鳴りつけた。とにかく、言葉は分からないが、罵られていることは分かった。次に奴に叫んだのはあのアナサスっていうエルフのガキだった。
「※6 Diogo!! Hvis du skyter ham ned,
 Vil jeg skyte deg !」
アナサスの一言で一瞬だけふと我に返ったのか、奴の銃が後頭部から離れたのが分かった。しかし、奴にとっちゃあ納得がいかねえ内容だったんだろう。かなり不服そうに奴は唸り声をあげていた。
「グゥァルルルルルル!」
背中越しに肉食獣みてぇな声が聞こえ、俺はぞくっとしたよ。あんな声、兎の声じゃねえ。犬っつった方がまだ通じる。おそらく、奴の中に眠ってたコウモリの血が騒いだのかもしれねぇな。それから駄目押しと言わんばかりに、ガザミの姉御が何やら語りかける。
「※7 Diogo , låt mig inte skjuta dig...!」
背中越しに奴が一旦突き付けた銃を俺から離すのが分かった。うつ伏せのまま、俺もガザミの姉御とアナサスの方を向いた。何と2人がディオゴにハサミと弓を突き付けていたんだ。

「※8 V・・・Varför du pekar på mig …?!」
アルフヘイム語の分からない俺でもディオゴが今の状況を何故なんだと問いかけているのが分かった。
味方である筈の2人に銃口を向けられていることが、奴には相当頭に来たんだろう。

「落ち着けよ、何もドラキュラみてぇなツラすんなって・・・」
俺もあまりに苛立ったのかボソッとつい漏らしちまったが,却ってディオゴの怒りを買うことになってしまった。

「※9 Håll käften!!Vad säger ni ?!
Tala Alfheim ! Jävla skalle !!」
ディオゴが俺の一言にブチ切れて怒鳴り散らしていることだけは分かった。
一旦、マシになった筈の状況はより最悪な方向へと逆戻りだ。心底、自分の軽口を呪ったよ。奴は銃をねじり込むように俺の後頭部に叩きつけるかのように押し付ける。あと少しで引き金が引かれ、俺は死ぬんだと思ったよ。

「※10 Sluta pekar mot varandra , 
Alla.Alla sätta dina vapen ner.」
聞き慣れない声のアルフヘイム語が俺の耳に聞こえて暫くして ディオゴが俺の頭に突き付けていた銃を身体から離すのが分かった。
その声は野太くはあったが、貴品と威厳を兼ね備えた・・・まさに紳士っつーか、漢の中の漢っていうのに相応しい声だった。
  
「甲皇国兵よ もう起きてもいいぞ」
その声の主が自分の母国語で話しかけてきたことに驚き、思わず声の方向へ俺は振り向いた。

そこに居たのは2m以上はある大男だった。いや、大男って表現するにはあまりにもデカすぎた。筋肉の節々がゴリラの頭部並に膨れ上がり、それらが寄せ集まって出来た筋肉の大山脈ってカンジだった。手綱を握る手はライオンの頭部ぐらいはあるだろうか、肩幅は巨大な熊ぐらいはある、足は数百年は生きてる大木のようにデカい。
(でッ・・・でけえぇえええええぇえーッ!!)
とにかくでかい、筋肉すげえとしか言えねえ巨人の男だった。
こいつがこの亜人兵とエルフ兵を束ねるボスかと思った。アルフヘイムって国のスケールの巨大さがこれかと俺はビビリを通り越して、亜然としちまったよ。
「我が名はゲオルク・フォン・フルンツべルクだ。」
「ゲオルクだって!? あの傭兵王か?」
「・・・如何にも、まさか私の名を知っているとはな。」
知らねぇ筈が無ぇよ、あのアルフヘイム義勇軍を率いる、あの傭兵王だぜ。義勇軍っつったら,西方じゃあクラウスがいるような連中だ。アルフヘイムに上陸したら、正規軍より義勇軍に注意しろって言われていたぐらいだからな。
「・・・何かお困りの様子だな。今の君にとっては私の素性話よりも、重要な話のようだが・・・」
ロ振りは大山脈みてぇな見た目に相応しい聡明な男だったってのが分かった。ハイランド訛りの甲皇国語だったが、逆にその訛りこそがこの男の聡明さを引き立てているように思えた。


「ああ、そうだ!!」
俺は今の状況を射精の如く洗いざらいぶちまけた。戦って敵うような面子じゃねえ!!とにかくこっちに敵意が無ぇことを分かってもらうしかなかった。戦場で何言ってんだって思うかもだけどよ。
ゲオルクは俺が言ったことを
ディオゴ達に通訳してくれた。
アルフヘイム語は全く分からねぇが、69号よりはかなり流暢だったってのは分かった。何せ傭兵業を業にしているハイランド王国の王だ。各世界に得意先が居るんだから、アルフヘイム語ぐらい話せて当然ってワケか。ハイランド王国の識字率と語学教育が世界一って理由が分かったような気がしたよ。ゲオルクとのやり取りで此方も大体の状況は理解できた。どうやら、ディオゴはモニークの実の兄らしく、そのモニークの亡骸をダニィがキャンプから持ち出したのを追ってきたらしい。
だが、ダニィがモニークの墓を掘ろうとしていたのはディオゴも知らなかったらしく、事情を知ると彼はダニィを抱きしめた。戦時中だ、遺体なんざ何処へ行ったってゴミの様に焼かれちまうのがオチだ。だが、ダニィは愛した妻モニークの遺体がそんな風に扱われるのが堪えられなかった・・・心の底から愛した女だったから・・・それだけは許せなかったんだ。
「Dannie・・・ DANNIE!!!」
もはや意識の無くなったダニィを
ディオゴはとてもとても愛おしそうに抱き締めた。兄として嬉しかったんだろうな。これ程まで妹を愛してくれた義弟の深き愛に、ディオゴは涙してたよ。

「Mio...mio fratello Dannie, 
Sono molto orgoglioso di te. 
Grazie per aver amato la mia sorellina Monique.
Ti amo in fondo del mio cuore...」
ゲオルクに聞いたよ。何て言ってるのか・・・ ゲオルクも涙を堪えながら訳してくれた。
「偉大なる我が弟ダニィよ・・・お前の兄でいられたことを誇りに思うぞ・・・モニークを・・・俺の妹を・・・愛してくれて本当に有り難う・・・!! お前を心の底から愛している・・・!!」
ガザミもアナサスも泣いていたよ、
俺も思わず泣いちまったよ。言葉が違ったって、国が違ったって、愛は偉大なんだって俺は知ったよ。

ディオゴはダニィをガザミに託すと、ゲオルクの腕を引っ張って彼と共に俺の正面に立つと、両手で俺の右手を握り締めた。
「Jag tycker verkligen synd om min upprörande björntjänst till två av er, kommer jag att vara mycket tacksam för två av dig i hela mitt liv.」
俺の右手を自分の額につけ、ディオゴは涙ながらに何かを訴えていた。
「何て言ってるんだ? 傭兵王。」
「先程のあなた方に対する無礼を心の底から恥じている・・・あなた方の御恩は決っして忘れぬと言ってる。」 先程の暴君振りなど、そこには微塵もなかった。
「何言ってんだよ・・・気にすんなって。」
事情が事情だ、勘違いされても仕方無かったろうし、とてもディオゴを責める気になどなれなかった。だけど、ディオゴにとっちゃ一生の恥だったんだろうな。よく仕事で会う時には毎回謝られるし、何かと良くしてくれるんだ。付き合い長ぇのにずっと敬語で話しかけてくるんだから、背筋が痒くて仕方が無ぇよ。
で、その後なんだが傭兵王ゲオルクが馬に積んでいた棺を下ろしてきてくれたんだよ。モニークの棺だっつってなぁ。その棺の中に、意識取り戻した69号も加わって皆でありったけの花を摘んで敷き詰めてやってな・・・言葉の壁とか種族の壁とかあったけど、皆が皆一つになってモニークを弔ってやったんだ。

ツィツィさんに懐抱してもらってたダニィが目を覚ましてな・・・皆してモニークの墓見せてやったんだ。
ダニィは・・・笑っていたよ。
言葉なんて要らなかった、表情だけで充分だったよ。きっと、嬉しくて嬉しくて仕方が無かったんだろうな。あんな美しい笑顔見たことがねぇ。惚れちまいそうだったよ。モニークがダニィを・・・愛した理由がようやく分かったよ。アンタ(マルネ)があいつを愛した理由もな。

その後、俺達は手をとりあって別れたよ。互いがとっていたのは敬礼のポーズだったよ。次、会う時が戦場にならないことを俺達は祈ったよ。
俺も69号もモニークを共に弔ってくれたことで情報も吐かされずに解放されたよ、俺達もディオゴ達のことは何一つ話さなかったよ。
あの事件以来だったかな。俺達の心のどこかでこの戦争は間違っているという気持ちが芽生えたのはな、69号は戦争が終わるまで堪え切れなかったんだろうか・・・その後、軍団長に逆らって懲罰兵にされちまった。69号ってのはそん時の呼び名だ。

こんなとこだ、やっぱり過去を打ち明けるってのは悪くねえな。
あくまでも個人的な意見だが・・・
人は過去無しじゃあ生きられねぇもんだ、どんなに辛い過去だろうが、楽しい過去だろうが、無かったことになんて出来ねぇんだ。だからよ、たまには過去を振り返ってやれ。
今の自分があるのは過去のお陰なんだからよ。過去の自分を責めるかもしれねぇ、だけど許してやれ。過去の自分を。
自分の現在も、未来もきっとそこから始まるんだから。

ーアルフヘイム語の訳文をここに記すー
※1 ダニィから離れろ!!
※2貴様ァ~ッ!!
※3よくも俺の弟を・・・! 許さねぇ!
※4 銃を下ろせディオゴ!! そいつらは捕虜にする・・・撃つんじゃねぇ!
※5 甲皇国の犬共め!
おまえらだけは確実に殺す!
※6 ディオゴ、そいつを撃ったらアンタを射つ!!
※7 ディオゴ・・・止めろ。アンタを撃ちたくはない。
※8 誰に銃を向けてやがる・・・!!
※9 黙れ!!何言ってやがンだ!!アルフヘイム語で喋りやがれ!!ガイコツ野郎!!
※10 そこまでだ、全員銃を下ろせ

       

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