Neetel Inside 文芸新都
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黒兎物語
59 役不足な女

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ガザミがディオゴの交渉に随行したのは表向きはレドフィンとの交渉のサポートの為だった。獣人同士ならば、ゲオルク率いる義勇軍の第一印象も良くなり交渉がスムーズに行くだろうというのが表向きの弁だった。だが、実際の任務はディオゴの監視にあった。
(無茶言ってくれるぜ あのオッサン)

ガザミは内心 冷や冷やしていた。
ディオゴがフローリアにセキーネやマリーが居ることを知れば我を忘れて彼等の暗殺を計るだろう。ディオゴにとって、セキーネは裏切り者であり妹モニークを死においやった宿敵なのだ。 だが、ゲオルクとしてはセキーネを暗殺されるわけにはいかなかった。セキーネは雇い主であり、マリーの身の安全を護る依頼をゲオルクにしている。依頼を引き受けた以上、遂行しなければならない。傭兵業は顧客からの期待に結果で報いることで成り立っている、失敗など許されないのだ。
フローリアにセキーネとマリーが居ることを知っているのは、ゲオルクとリブロースとガザミだけである。ゲオルクとしてはディオゴをフローリアに遠ざけるように配置しなければならなかった。 ゲオルク、クルトガがリブロースの治めるフローリアから民を避難させ、罠を張り巡らす役目、ディオゴとガザミがレドフィンと共に全滅寸前のゲオルク達を救出後、残った丙武・メゼツ軍団を叩くという役目を担う。つまり、ゲオルク達はセキーネとマリーを避難民の中に紛れさせて脱出させ、彼らとディオゴを引き離すのが狙いだった。ディオゴとガザミの部隊はフローリアの西方の森林に待機し、レドフィン率いる竜人兵達を隠蔽していた。いわば必然的にディオゴは待機要員となるわけだ。ディオゴを少しでも足止めし、セキーネとマリーを脱出させる。その為にも、ガザミという監視役が必要不可欠だったのだ。

闇夜に紛れ、フローリアの町を見つめるディオゴを横目にガザミは子宮いや、卵巣が冷えっ放しだった。
(オチオチ寝てもいられねェぜ、ったくとんだ貧乏くじだぜ。)
「姉御ォ」
突如の呼びかけにガザミは子宮と卵巣を串刺しにされたかのようにビビりあがった。
「なんだよ!? 急に!」
「姉御ォ、俺達が出るのはいつだ?」
「花壇がドンパチ賑やかになってからだよ・・・」
「・・・そうか」
ディオゴはそう言うと沈黙の闇へと沈んでいった。
(・・・ディオゴの奴 まさか俺の狙いを知ってンじゃあねえのか?)
思わず疑いたくなるような口振りに、ガザミは背中の甲羅が引き剥がれるかと思った。
ディオゴとガザミは知り合ってから間もないが、同じ獣人のよしみということもあってか、かなり馬が合った。今では良い飲み友達で酒をおごり合う仲だ。ディオゴがツィツィ・キィキィという恋人が出来た時も真っ先にガザミに報告した程だ。
だからこそ互いの秘め事も大体予想が付く。
(ちきしょおおぉ~~ あのクソヒゲジジイめぇ~~役不足の俺にこんな大役振りやがって~~帰ったらヒゲどころかチン毛切り取ってパイパンにしてやるからなぁ~~~~!!)そう思いながらチョキチョキとハサミを鳴らすガザミに ディオゴは思わず驚いた。
「おいおい いきなり何 殺気立ってンだよ・・・? 姉御ォ 早くフローリアに行きたくて、我慢汁でアソコがぐちょぐちょなのか? 我慢しろって言ったの姉御だろォ?」
ディオゴの日頃の下品な言い回しに思わずガザミもハッと我に返る。
「焦んなよ 闇雲に必死こいてしごきまくって ブチ撒けたところで本当の快楽は得られねェ イキそうになるのを必死にこらえて我慢して我慢してありったけをブチ撒ける・・・その先にエクスタシィがあるのさ。」
そう言いながら、ガザミに優しく微笑みかけるディオゴを見て彼女も思わず微笑んだ。
品など微塵の欠片も無いのに何故こうも清々しいんだろうか・・・
(・・・そうだ、何考えてンだ。ディオゴはこういう男だ。喋らなけりゃあ一流の美男子と思っちまう程の超が付く程の下品なのに、何故か聞かずにはいられねぇんだ・・・女は肉便器以外の仕事はしなくていいと言い放つ程の最低な男の筈なのに 妺のことが大好きで、恋人のツィツィを愛している根は家族想いの良いヤツだ。いつもと変わらねェディオゴそのものだ。)
ガザミは完全に安堵し、いつもの様にその下品な口振りを注意したのだった。

       

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