Neetel Inside 文芸新都
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黒兎物語
64 裏切り者ネロと2人の仲間たち

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レドフィン暗殺を企んでいたメゼツと彼の率いる強化人間の兵団との
激しい戦闘を終えた黒兎人族の兵士たち。
彼等が潜伏していることを何故メゼツが察知したのか…
ディオゴ、ヌメロは疑問に思っていた。
2人の率いていた黒兎人族の分隊は、
白兎人族を率いるノースハウザーと合流し、
共同で兵団の残党狩りを行っている。

メゼツが落ちたとされる場所からは、数十匹の魚人族、ワニ人族の
死体が見つかったものの、メゼツのものとされるあの大剣が
粉々に砕けて水中の底に散乱していた。
また、彼の服らしきものも数切れほど破れており、
メゼツと魚人族たちが激しく抵抗した形跡が見て取れた。

「激しく殺りあった末に、バラバラの死骸になっていれば
いいのですが…」

「……だといいがな。」

あの超人的なパワーを誇っていたあの男が安安と殺されたとも思えない、
だが内心はあの男が肉片となって魚人族の腹の中にいることを祈っていた。

メゼツの遺体の捜索と同時並行して、
黒兎人族の中ではそのメゼツに情報を売ったとされる裏切り者の炙り出しが行われていた。

「恥ずかしながら、我が白兎人族にはザキーネ・パヤーオという裏切り者がおります。
この男…元は宮廷画家だったのですが、そのあまりにも残虐すぎる作風から追放されまして
配下の白兎人族兵と共に甲皇国に亡命し、その後 ブラックシープと呼ばれる甲皇国軍直属の亜人軍団のリーダーとして、
アルフヘイム軍にスパイを送りこむなどして、情報を甲皇国軍に流していたものとみられます……
きっと、ヤツの手の内の者が内部に居ると見て間違いはないでしょう……」

身内の恥を語るノースハウザーは、申し訳なさそうにディオゴとヌメロに向かって詫びた。

「ノースハウザー殿」
ヌメロが気まずそうにしているノースハウザーの名を呼んだ。

「よくぞ勇気を出して打ち明けてくれた、あなたの誠意は確かに受け取りました。
あなたの顔に泥を塗った裏切り者は必ず始末してみせます。」

「どうか申し訳ない。」

ヌメロは、ディオゴの元上司であるノースハウザーを高く尊敬していた。
故に深々と詫びるノースハウザーをとても責める気になどなれなかった。

「ひとまず新参者の身元をお教えください、ノースハウザー殿」

ヌメロはまず、ここ最近ノースハウザーの軍に合流した兵士たちのリストを
挙げることにした。リストを調べれば必然と、その裏切り者に相応しい身元の人物が
出てくるだろうと思ったからだ。ノースハウザーより渡されたリストを
調べていく内に、ヌメロはそこに見知った顔を見つけるのだった。

「……ネロ?」

ヌメロはそこにかつての幼馴染ネロの姿を見たのであった。
この兎面で誰が見ても白兎人族と思う外見をしたネロというこの兵士は
黒兎人族である。

生まれた時は真っ黒だったものの、成長を続けていく内に真っ白となっていき、
白兎人族と何ら変わり無い姿になってしまった。
かつて自分に親身にしてくれた黒兎人族の人々はネロが白くなっていくにつれ、
彼を差別し、敬遠するようになり、迫害をするようになっていた。
親にも兄弟にも親友にも外見を理由で裏切られたネロは完全に心を閉ざしてしまった。
そんな幼馴染の姿をヌメロはひどく心配していた。

たとえ身体の色が白くなっていこうとも、ヌメロはネロを敬遠することは
なかったが、完全に心を閉ざしたネロはヌメロを激しく拒絶し、ある日を境に一方的に絶交を言い渡してしまう。
彼は、自分が黒兎人族であるという一切の証拠を消し、白兎軍に入隊。
そして、入隊先の教育隊において当時黒兎人族を激しく憎悪するアーネストと出会うこととなった。
そして、このアーネストはザキーネとも友人関係にあり、ネロもこの2人とは同じ入隊の同期であった。
やがて、
アーネストは白兎軍人として、ザキーネはシルヴァンニアン王朝の宮廷画家として、ネロはシルヴァンニアン王朝の
王族警護兵としての道を歩むこととなる。

ザキーネ……裏切り者……ネロ……アーネスト…そして、ザキーネ。
全ての糸が繋がることになった……

ザキーネとネロとをつなぐこのアーネストという男について説明をしよう。

アーネストはかつてディオゴの妹モニークをレイプし、生涯に渡って拭いきれぬ傷を負わせた男である。
不幸中の幸いか、アーネストはモニークを血祭りにあげた後にディオゴによる血の報復を受け殺害された。
アーネストが殺害された後、ダート=スタンによる調査によって後に彼が甲皇国と繋がりがあったことが判明している。

アーネストはアルフヘイム軍人であったが、黒兎人族を根絶やしにするためなら
たとえ、どんな勢力の殺し屋やテロリストを雇うことも厭わない人物であった。
彼はアルフヘイムの軍人というよりも、白兎人族の軍人として忠実だったと言えるのかもしれない。

ザキーネは、ピーターシルヴァンニアン王朝のたかだが一介の宮廷画家だった。
そんなザキーネが後にアルフヘイムを裏切り、甲皇国に亡命した際に
配下の白兎人族兵をどのように調達したのかも説明がつく。
おそらく、ザキーネはアーネストを通じて死刑囚やゴロツキ、戦場でPTSDを患ったモノた
など白兎人社会で爪弾きにされた者たちを寄せ集め、それを手土産に甲皇国に亡命したのだろう。アーネストとしては
白兎人社会の膿を吐き出す意味で、ザキーネは大いに役立ったし、ザキーネも同族の部下たちを大量に仕入れる意味で
アーネストは大いに役立った。

そして、肝心のネロはと言うと
自らを迫害した黒兎人族への復讐を果たすためにそのザキーネを通じてネロはメゼツにディオゴたちの潜伏先の情報を売った。
それにより、彼は王族警護兵として仕えるセキーネとマリーの2人を黒兎人族から引き離すため
大きな貢献を果たしたのだ。

ネロにとって、ヌメロは頭痛の種であった。
なにせ自分の出生の秘密を知るヌメロがことをバラせば、それまで彼が白兎人社会で
築き上げてきた信頼は全て失われるのだから。
自らの手は汚さず、メゼツを使い、邪魔者のヌメロを始末する。
これこそがネロの描いたシナリオに違いなかった。

だが、そうだと思い描けたとしてもヌメロはネロを信じたかった。
かつて共に遊んだ幼馴染みのネロが そんな恐ろしいシナリオを描いている筈などないと。

       

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