「おまえらと同じ血が流れてると思うとゾッとする!! 俺にとっての過去は拭い去りたいものにすぎない!
だが いつまでも おまえが俺にしがみついてくる!! 削っても削っても生えてくるこの牙と同じだ!!」

ネロはブレードを振りかざしながら、ひたすら叫んだ。見た目こそ
白兎人族そのものなのに、叫んで開くロからは黒兎人族特有の鋭く尖った牙がその姿をさらけ出していた。
その姿は怒り狂ったディオゴを見つめている時と同じ、ただの黒兎人そのものだった。
だが、どんなに過去を拒絶しても 彼の身体に刻まれた過去がそうさせてくれないのだ。

「……ネロ」

「ウシャぁぁあああああああああああああ―――ッッ!!」
怒りのあまり、ネロは黒兎人特有の口蓋音の叫びをあげた。
コウモリの血を引く黒兎人族だからこそ出せる耳を突き刺すかのような
その叫びがヌメロの心には嘆きの叫びに思えてならなかった。

「今を生きたいと願っても 過去に縛られる俺の気持ちが分かるのか!!」

ネロが空中で魔文字を描くと、その魔文字から巨大な煙幕が噴き出していく。
その煙幕を拭ってネロは突如としてブレードを突き立てようとするが、
それを遮るかのようにヌメロはその刃を鉤爪で防ぐ

「ネロ……!!俺にそんな小細工は通用しない!!
君と俺が同じ師匠の元で修行したことを忘れたのか!!」

「フ……俺が考えることはおまえも考えてるとでも言いたげだな……
だが、忘れるな。生き方だけはおまえとは違う……
過去に恵まれたおまえとはな……!!」


ネロがヌメロの鉤爪をなぎ払うかのように振り払う。ヌメロの鉤爪からは火花が砂のように飛び散っていった。
ネロのブレードとヌメロの鈎爪が散らす火花がまるでネロの嘆きの涙のように思えた。

「おまえたちがフローリアの地を踏むことは無い!!
あの方のためにもおまえたちにはここで死んでもらう!! 」
「あの方・・・?」

感情が昂ぶり、思わず口にしてしまった言葉にふとネロは我に返った。

「……お喋りが過ぎたようだな。だが、もう遅い。準備は整った。」

そう言うと、ネロは空中で魔文字を書くとその中心を指で突いた。
突いた瞬間に、黒兎人族や白兎人族が居た陣地の方で大爆発が起こる。

「……な……!!」

爆発があった方向を一瞬で察知してしまったためか、ディオゴの身体から身をよじるほどの痛みが引いていく。

「あははははははは!!
目障り極まりない黒兎共も、それに協力する裏切り者共も同時に始末出来た……
次はおまえだ!」

笑うネロの背中に、突如としてディオゴの拳が飛び込んでくる。
ディオゴの怒りのあまりか、果てはネロの優越感からの慢心ゆえか
本来ならネロとて人間面のディオゴの攻撃などかわせる筈だった。

「ぐっ!!!」

牛の背中のコブのように膨れ上がったディオゴの腕から繰り出される攻撃を受け、
ネロの右腕がバキバキと音を立てて捻じ曲がる。
同時に砕け散ったブレードの破片がその場に桜吹雪のように舞い散った。
元より、兎人族は素早さこそ他の獣人族の中でも追従を許さないが、防御に至っては人間に毛が生えた程度しかない。
よって、喰らった攻撃がそのまま致命傷となる可能性だってある。
ダニィやザキーネのような戦闘員タイプではない兎人族ですらも、脱ぐとかなり筋肉質な身体をしているのは
少しでも喰らった攻撃に耐えられるように 頑丈な身体を作ろうとした進化のためである。
だが、筋肉で耐えられる攻撃などたかが知れているし、不意をつかれればひとたまりもない。
ましてや、怒り狂ったディオゴの拳なのだからネロの身体でも大事に至ることは誰の目に見ても明らかだった。
ネロもとっさにディオゴの攻撃を防いだが、受けた方の右腕からは骨が飛び出し、骨を突き刺した肉塊となっていた。
続いて襲いかかろうとするディオゴに向けてネロは残った左腕で魔文字を描く。
魔文字からネットが飛び出し、ディオゴの身体がネットで包まれる。

「ぐわがあッ!!」

ネットで包んだとはいえ、飛びかかるディオゴの身体の推進力を止められる筈もなく、
ネロの右腕に身体が大きくかする。

「ぐおおおッ!!!」

肉塊と化した右腕にディオゴの身体があたり、ネロはその場にうずくまり悶え苦しむ……


「おぉおおおぉぉおおおのれぇぇぇぇえええええぇぇぇえええええええぇええええ!!!!」

コウモリというより、むしろ野良犬のように牙をむき出しにしたディオゴが
ネットを噛みちぎってネロの喉笛に飛びかからん勢いで暴れ回るが、
暴れれば暴れるほどネットはディオゴの身体にまとわりついて解けない。

ネロは砕けた右腕を魔文字で治癒しながら、無気力に突っ立っているヌメロを見つめる。

「ネロ……」
自分の名を呼ぶ自分を悲しげに見つめるヌメロの眼差しに負い目を感じてか、
ネロは押し負けたように俯く。

「いたぞぉおおおお――――ッッ!!」
駆けつけた白兎人族の兵士たちが現れるのを確認すると、ネロは韋駄天の如き神速で夜の闇へと消えていった。


「待て!!ネロ!!」
追跡しようとするヌメロだったが、咄嗟に白兎人族におさえつけられてしまう。

「裏切り者め…よくもノースハウザー曹長を……!!」
どうやらまだネロの言葉を間に受けてヌメロとディオゴを裏切り者と思い込んでいるようだった。

「このッ……暴れやがって!!この野郎!!」
ディオゴもネットに全身をまとわりつかれながらも必死に立ち上がる。

「どけぇぇえええぇぇえええええ!!きさまらぁぁあああああああああ!!!」

取り押さえようとする白兎人族の兵士たちをなぎ倒そうとするが、
麻酔針を身体に数十本受けると、次第に動きは鈍くなり、
そのまま地面に引っ張られるかのように倒れていった。

「離せ!! 俺たちは裏切り者じゃない!!」
必死に振りほどこうとするヌメロの頭に床尾板打撃が与えられ、ヌメロは昏倒した。

「……がッ」

意識を失っていくヌメロだったが、それでも出た言葉はただ一つだった。

「……ネロ」

もう見えなくなったネロの背中へと手を伸ばし、ヌメロは意識の奈落へと落ちていったのだった。