Neetel Inside 文芸新都
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 「うぅ……」
ディオゴとヌメロが目覚めた時……彼らは爆発した陣地の近くに運び出されていた。
また、あの深い奈落から少しずつ浮かび上がってくるような
あの嫌な気分だなとディオゴは思った。

「ディオゴ……」
そう言って目覚めたディオゴを覗き見るのはガザミであった。

「姉御……」
ディオゴは起き上がろうとするが、腰に違和感を覚え、驚いて思わず
元の位置に倒れ込んだ。

「無茶すんな……コルセットで固定してるんだ。」

「あぁ……クソ……」

裏切り者のネロに強烈な後ろ蹴りを食らっていたことを思い出すと、
あの捻れるような痛みがフラッシュバックしてくる。
フラッシュバックと同時に咄嗟にディオゴは金玉を触った。
あの腹痛が金玉を蹴られたことによるものでないことを無意識の内に再確認していた。
繁殖力と性欲の強い黒兎人族にとって、金玉を潰されることは死よりも辛い拷問である。

「……ふぅ」
安堵したのかディオゴは思わずため息をついた。

「……ヌメロは……? ノースハウザー曹長は?」

「ヌメロはただの脳震盪だ……包帯巻いてる。ノースハウザーは
撃たれちゃあいるが、急所は外れた。今はモルヒネで眠っている。」

「……そうか」

「ノースハウザー曹長はアンタたちが裏切り者じゃないことを話してから
気絶したよ……全く最後まで部下想いのおっさんだよ」

ノースハウザー曹長の好意にディオゴは少し微笑んだ。
彼は白兎人族ではあるが、ディオゴにとっては人として信頼できる人物だ。
やはり、彼までも裏切り者でなくて本当に良かったとディオゴは胸をなで下ろした。
現状をまだ掌握しきれていないディオゴがガザミから事情を掌握しようとしていると、
そこに何やら兎人族の怒鳴り声が聞こえてきた。

「どけぇい!!」
その声と一緒にディオゴの額に銃を突きつけ、やってきたのはオーベルハウザー将軍であった。
彼は、ノースハウザー曹長の上官にあたる。フローリアに亡命した白兎人の将軍で、
フローリアが脅かされると知り、同じく逃げ延びていたノースハウザー曹長の部隊を
ディオゴたち黒兎人族の部隊に合流させた。

「……この裏切り者め!!よくもノースハウザーを……!!」

どうやら現場に着いて間もないのだろう。
状況を掌握しきれていない将軍に周りにはヌメロたち率いる黒兎人族の兵士数名と、
ノースハウザー曹長の部下たちが群がり、将軍を制止しようとしていた。

「……状況をお分かりでないようですな……将軍閣下。
今回の失態は……私に責任が無いとは言い切れませんが
裏切り者という言葉には我慢がなりませんな……私は裏切られこそしたが、誰かを裏切ったことはない……!!」

ディオゴはオーベルハウザー将軍の突きつける拳銃を今にも噛み砕かんばかりの
眼光で激しく睨みつけた。

「そもそも、裏切り者のネロこと、コンラッド・ブルーアーは、貴方の部隊に既に潜り込んでいた……
あなたが兎人族の里を棄て、フローリアへと逃げ落ちる途中で
入隊希望者を募った時が2~3度あったことは曹長から聞いている……
ブルーアーはその時のいずれかに潜り込んだ……!
奴は裏切り者のザキーネの息が掛かった者だ……そのことを見抜けずに貴方は
まんまと懐に侵入を許した……!! その結果がこれだ……!!
貴方の部下だけでなく 私の部下も死んだんだ!!!!!」

ディオゴは怒りのあまり、痛みを忘れて起き上がっていた。
将軍に殴りかからんばかりの勢いで噛み付こうとしたディオゴを思わず
ガザミとヌメロが取り押さえる。

「貴様……ぁ……上官に対してなんという口をきくのだ…!!」
「貴方の指揮下に入った覚えはない!! 
そちらが一方的に私のことを咎めるなら、私にもそちらを咎める権利がある!!!!」

部下を殺され、激怒するディオゴに将軍は思わず苦虫を噛み潰したような顔で去っていった。

「ディオゴ様……将軍閣下にあんな口を聞いては……」

「……フン!敵が祖国に攻め入った時に真っ先に
逃げ出したあんな腰抜けに責められる筋合いなどない……!」

ディオゴの怒りは、ヌメロや他の白兎人族兵士も理解していた。
だからこそ、兵士たちはディオゴの反抗に内心エールを送っていた。

「……ネロのヤツめ 何を企んでこんなことを……
奴はあの方のためと言っていた……しかもフローリアの地を踏むことはないと……
奴が俺たちをフローリアに立ち入らせたくない理由はなんだ?」

「ディオゴ!」

ガザミが制止する。

「……あんまり深く考えるな。もうすでにレドフィンたち竜人族は出発した。
ゲオルクたちも直にここに来る。来たら直ぐに出発だぞ。」

「ちょっと待て……俺が寝ている間にもうそんなところまで
戦況が悪化してるのか!?」

「……不甲斐ないって言いてェのか?
んなに自分を責めるな、その分お前さんたちは
メゼツ兵団を止めてくれたじゃあねぇか……正直奴らがフローリアに踏み込んできたら危うかった……」
それだけでも十分だ。」

ディオゴはガザミの言動に不審感を抱いていた。
この女は何か隠していると……

「……ガザミ」

「ん?」


「ヌメロと2人きりにさせてくれねぇか?
今回の裏切り者のネロのことについて話がある。」

「……ああ」

何か探られたのかとやや冷や汗をかいていたガザミの表情から
ガザミもどうやら自分たちをフローリアに行かせたくないのだろうという
目星はついた。後は、そこから導かれる答えを探すだけだ。

「ヌメロ……ここからは黒兎語で話す。」

「分かりました。」

黒兎語は、アルフヘイム語とは独立した言語であり
アルフヘイム人はもちろん、白兎人族でも聞き取ることは出来ない。

(ネロが何故俺たちの足止めをした理由は何故だ……?)

(……おそらくはザキーネでしょう。奴のために人肌脱いだか……?)

(ザキーネの線で見るのが自然だろうが……ただそれならどうして
兎人族の陣地だけ狙った? 甲皇国軍として見るなら、ガザミたちの部隊まで狙うのが当然だろう?)

(何故なのでしょう……?)

(いずれにせよ、俺たちは今回の戦いで護るべき筈のフローリアへの立ち入りを禁止させられている節があった。
ガザミは監視役だろう……俺たちがフローリアの話題を出そうとした途端に
別の話題に移ったりと不自然なことが多かった。何故だ?
おかしくないか……? 相手は丙武軍団だぞ……奴等の手の内を知り尽くしている筈の俺たちが
フローリアに配置されない理由はなんだ?)

(……話がややこしくなってきましたね。ガザミさんが裏切り者なのでしょうか?)

(いや……姉御だけでじゃあねぇな。そもそも、今回の人員の配置を決めたのは
ゲオルクのオッサンだ……奴もこの件には絡んでいる。)

(ゲオルク氏……ガザミ氏……そして、ネロ……敵味方ともに我々がフローリアへと
踏み入ることを拒む理由はどこに……?)

(……ネロ……待てよ。そもそも奴はフローリアに逃げ延びる前に何をしていた?)

(王族警護兵をしていました。ピーターシルヴァンニアン王朝の……セキーネ王子の親衛隊長です。)

(セキーネだと……?)
久々に聞くその名に思わずディオゴの目つきが変わる。

(セキーネからゲオルク……そしてガザミ……セキーネから……ネロ……これらを繋げる要素はなんだ?)

(……ふと思ったのですが……ゲオルク氏のそもそもの活動資金は何処から出ているんでしょう?
ゲオルク氏に活動資金を与えるエルフはダート=スタンのみ……彼の保有資産からは想像も出来ないほどの
援軍がここ最近届いています。 それに、ノースハウザー曹長までも我々に援軍として差し伸べられるほどの人物……)

(……そういうことか!!クソッタレ!!あのジジイ……!!まんまと俺をハメやがった!
奴が傭兵だってことを忘れていた……奴の雇い主はセキーネだ……!
きっと奴はセキーネから俺たちを退けるように依頼されたんだ!)

(……ネロもグルだと?)

(ああ そうだ!!クソッタレ!!ネロは元セキーネの親衛隊長だった……!!
今もそのツナガリが死んでるとは限らん!! クソ……!!)

(……どうします?)

(……やるべきことは一つだ)

暫く話し終えるとディオゴとヌメロは部下たちを連れ、部屋から競歩で出て行く。
そう……全てはガザミの元へと向かうために

「おいおい、まだ怪我人だろ?おとなしく……」

「ガザミを拘束しろ……」

ヌメロたち黒兎人族兵がガザミの腕を縛り上げていく……
その縛り上げられたロープに、ヌメロが何やら魔文字を描くと
ロープが鋼鉄の手錠へと変化していく。

「おい!ちょっと待て!!なんの真似だ!これは!!」

「それはこっちの台詞だ……姉御……信じていたのに……!
よくも……」

「何の話だよ?」

「誤魔化すな!!」
ディオゴは思わず、ガザミの頬を拳で殴る。
女だとはいえ、相手は蟹人族だ。平手打ちでは到底堪えないと判断したのもある。
だが、今のディオゴからすればたとえ女でもガザミを拳で殴りたい気分だった。

「セキーネに雇われて俺をフローリアから遠ざけるつもりだったんだろ!!
ネロはそのために忍び込ませたスパイだろう!!」

ガザミの顔が真っ青になっていく。図星といった表情だ。

「……っ……違う」

「とも言い切れない顔だな。しらばっくれても無駄だ……
俺をフローリアから遠ざけるために、俺の部下までも殺し……
ノースハウザー曹長までも巻き添えにしたか……!!」

「違う!!誤解だ!!ディオゴ!!」

「……こいつを尋問しろ。俺たちはフローリアへ向け前進する。」

ヌメロはベングリオンナイフをガザミの首筋に添える。
そのナイフを握るヌメロの手の甲には「カミナリ」と書かれた魔文字が描かれていた。

「ぐわがッ……!!」

ナイフを突きつけられ、その場にうずくまるガザミ。
甲皇国によくある小型携帯型のスタンガンをヌメロ流に行っただけのことだ。
ただでさえ、水属性のガザミだ。電撃を喰らえば僅かでも深刻なダメージを受ける。

「……女だろうと容赦するな。そいつが何もかも真実を吐きたくなるまで
痛めつけろ。」

泡を吹き、うずくまるガザミを見下ろすディオゴの顔は鬼のようにシワが刻まれていた。
同じ獣人族同士で馬が合っていた筈のガザミに欺かれていたことが何よりも許せず
ディオゴはガザミを鋭く睨みつけていた。

「……ディ……ォ……ゴ……待って……」

泡を吹きながらもガザミを振り向くことなく立ち去るディオゴ。
その傍でヌメロは再び手の甲に「カミナリ」と魔文字を描くと、
ベングリオンナイフを首筋に添える。

ガザミの意識はそこで途絶えたのだった……

       

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Neetsha