Neetel Inside 文芸新都
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黒兎物語
66 落日のフローリア

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フローリアは既に落日を迎えていた・・・
フローリアに攻め入り、ゲオルク達と死闘を繰り広げた丙武軍団は出動したレドフィンとルイーズの竜騎士部隊によって壊滅させられていた。
「・・・お の れ」
死にかけの丙武は血まみれになりながらも僅かに残った部下に腕を担がれ生き延びていた。レドフィン達の空中からの大砲火を受けて、火傷を負い、破片や残骸で身体を切り刻まれてはいたが機械化された身体の影響か あるいは亜人ごときに出し抜かれた屈辱からか 悲鳴をあげている身体を奮い立たせ歩いていた。

「大佐 ここは退却といきましょう」
生き残った兵士が進言する、彼等の目は絶望に染まり切っていた。あと一息というところでゲオルク達を殲滅し、勝利を勝ち取れた筈だった。それがどうだ、ゲオルク達はレドフィン達の背に乗ってまんまと逃げ、おまけにそのレドフィン達に完膚なきまでに叩きのめされた。 確かにフローリアは手に入れられたかもしれん。だが その代償はあまりにも大きすぎた。
しかも、フローリアからはもう国民も逃げ、君主も逃げ、セキーネもマリーもとっくに逃げてしまい、支配すべき者もいない。領土もレドフィン達のお陰で焦土と化している。

「ありったけの金を注いで糞を買った気分だ・・・クソが!!」

丙武は千切れかけの義手をブチブチともぎ取ると
そのまま床に投げつける。投げつけられた義手の先には見覚えのある人参色の軍靴が見える。
「っ!!」
思わず丙武はその軍靴の根源を辿る・・・
そこには見知った男の顔があった。男は頭部から千切れた1つの長い兎耳をぶら下げ、口からは2本の牙が顔を覗かせている。肌を染める浅黒い褐色が、引き締まった筋肉質の肉体を美しい土色に輝かせる。
「てめェは・・・!!」
ディオゴ・J・コルレオーネである。
かつてアルフヘイム北方戦線で死闘を繰り広げた宿敵がそこに居た。
「・・・・・・」
ディオゴは丙武をただ無言のまま見つめていた。
丙武の部下達は突如として現れた最悪の敵の出現に絶句し、何人かは丙武を置き去りにして逃亡した。残った部下達はまるで蛇に睨まれたネズミかカエルのように硬直していた。
「ケッ、とうとう俺も年貢の納め時ってわけか・・・
さァ殺るなら殺れよ」
丙武が潔く降伏の姿勢をとろうとその場に跪いたその時だった、ディオゴは口を開く。
「・・・聞きたいことがある。白兎人族の王族の王子をさがしている。名前はセキーネ。奴は何処だ。」
「・・・知るかよ どうせ逃げたんじゃねぇのか
俺が来た時にはあの髭野郎しか残っちゃいなか9った。」
「・・・そうか」
ディオゴは部下の武僧ヌメロを連れ、その場を後にしようとした。丙武の降伏など全く意に介していない
「・・・オイ てめぇ 何シカトぶっこいてんだゴラァ」
丙武がディオゴに向かって吠えかかり、胸倉をつかみかかろうと残った手で近付こうとした時だった。
「邪魔だどけ」
ディオゴはその手を払いのけると 丙武には目もくれず、立ち去ろうとする。
「おい!」
ディオゴの背中へ向かい思わず丙武は叫ぶと
無表情のままディオゴは言い放つ。
「もうどうでもいいから 何処へでも行け。」
吐き棄てるかのように言うと
ディオゴ達の姿はどこかへと消えていく。

「あははははは!あいつフル無視じゃねぇか!!
あはははは! 故郷まで奪って・・・部下も知り合いも何千人と殺してやったってのにあの態度・・・あははははは!」

丙武は怒りと屈辱のあまり大爆笑しプルプルと震えていた。ディオゴの目が路肩の小石を見つめるよりも無関心な眼差しで自分を見つめていたことがショックでならなかった。 これをきっかけに丙武は
精神に異常をきたし、戦線を退くのだった。

       

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