Neetel Inside 文芸新都
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崩壊したフローリア城下町は地獄のようであった。レドフィンと竜騎士部隊による砲撃の惨状を訴えかけるが如く 炎と砂煙が舞い、鼻を刺激する粉塵の嵐・・・粉塵の一粒一粒が黄金色の夕日に照らされ、足元には瓦礫と入り混じって焼け焦げた亡骸と骸骨化した亡骸が絨毯のように敷き詰められていた。その様はベクシンスキーの絵のような破滅的終末感に溢れている。最早この景色の何処に花の都の面影があるというのだろう。ディオゴとヌメロはその町を歩いていく・・・そう全てはセキーネを追うために。
「た・・・すけて」
ディオゴとヌメロは息も絶え絶えのゲオルク軍の兵士を発見した。その兵士は腹から下を瓦礫に挟まれ、身動きがとれずにいた。口からは蟹の泡のように泡立った血が噴き出ている。
「哀れな・・・」
ヌメロは思わず漏らす、武僧とはいえ、彼も僧侶の端くれである。慈悲深さもあった。巫女医者とは違って魔文字では助けることは出来ない。
「せめて苦痛だけでも」
そう言ってヌメロは男の手に魔文字で「安楽」と書こうとした時だった。ディオゴはヌメロを遮るように兵士の胸倉を絞め上げるかのように掴んでいた。
「セキーネ王子は何処だ? 」
「ぐ・・・ぐがぁ」
ディオゴの目は完全に血走っていた。同盟を一方的に破棄し、事もあろうか自分達を謀反を企てている輩と見做したセキーネを殺す・・・ただそれだけに蝕まれた鬼であった。
セキーネがディオゴが謀反を企てていると疑ったこと自体は愚かではない。元々、ディオゴは白兎軍と長年対立関係にあった敵であったことは事実だったのだし、結果としてそれがミハイル(ニッツェ)に唆されたピアースによる誤報だっただけのことだ。過ちではあったが、セキーネは政治家として判断を下しただけのことだ。だが結果的にそれが軍人としては愚かな判断であった。
白兎軍を失なった黒兎軍だけでは丙武軍団・メゼツ兵団を抑えつける事は出来ず、アルフヘイム北方戦線は崩壊した。そのどさくさに白兎軍の一部の敗残兵が自分達の里を襲撃し、モニークは死んだ。ダニィはホモ共にレイプされ、胸に二度と消えない大火傷の傷跡を負わされたのだ。そして故郷に残してきた妻のツィツィはディオゴとの子どもをお腹に宿し、毎日敵の襲撃に怯えながら暮らしていた。そう考えるだけでセキーネへの憎しみは到底拭い切れなかった。
「セキーネ王子は此処に居たんだろ?
答えろ!!」
「ディオゴ様!」
詰め寄るディオゴをヌメロが止める。
兵士は今にも事切れそうになっていた。
「うぐぅぐ」
苦しみ、目をパチパチと瞬く兵士の顔を見てやれず、ヌメロはディオゴの背中と手を掴み制止する。
「ディオゴ様・・・っ!」
「・・・は・・な・す・・・から・・・たすけて」
ヌメロに制止させられたことで隙が出来たのか兵士は懇願する。きっと苦しいのだろう、目からは涙が溢れていた。
「セ・・・キーネ・・・王子は・・・イーストウッドの港・・・フローリア・・・の避難民に・・・紛れ込んで・・・逃げるつもり・・・」
「どうも」
そう言うとディオゴは兵士の喉に48口径の大型拳銃を突きつけると引き金を引いた。
「ふ」
喉元から血が噴き出るその様子はまるでトマトを潰した瞬間のようで 兵士は無表情のまま俯くとそのまま動かなくなった。
次の瞬間 ヌメロは無言のままディオゴの胸倉を掴みかかっていた。目は血走り、今にも噛みつかんばかりの勢いで牙を剥き出しにしている。
「・・・何やってんだよ・・・クソが!」
ヌメロも部下である前に人である、ディオゴよりも何年も年上だし、時折ディオゴの行動に怒ることも多々ある。
「八つ当たりしてんじゃねぇぞ・・・てめェ!!」
せめてもの介錯という情けがあれば、いくらでもこの兵士は楽に死ねただろう。 先ほどの行動は用済みだったから殺しただけで情けの欠片すら無い。セキーネへの怒りを死にかけの兵士にぶつけただけの最低な行動だ。
「どけろ・・・」
ディオゴはヌメロの手をふりほどこうと静かにそして憤怒を抑えつけながら掴んだ。
「どけろ!!オラァ!!」
怒りのあまり、ヌメロに噛みつかん勢いで睨み返すディオゴ。暫し両者は睨み合う。
「・・・・・・」

無言のままヌメロはなぎ払うかのように手を放した。そのまま2人は無言のまま歩いていく。
ベクシンスキーの絵の如きこの破滅の世界を・・・

       

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