Neetel Inside 文芸新都
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「ぐうッ・・・うッ」
金玉をぶつけた痛みが引かず、中腰でジャンプを繰り返すセキーネに向かってディオゴはタックルをかます。
「うおォらァッ!!」
態勢を立て直すのが間に合わず、セキーネはタックルをもろに喰らい、そのまま壁をブチ破って仰向けに倒れ込む。
倒れ込んだ先は外であり、前方の車両との連結部と側方からは流れていく景色を眺めることが出来るベランダのようなスペースがあった。
「うぐッ!!」
起きあがろうとするセキーネに覆い被さるかのようにディオゴは右手でセキーネの両頬を鷲掴みにし、手すりの間から流れゆく地面に後頭部を擦り付けようと押さえつけてくる。
「ぐうううッ!!」
セキーネの後頭部の僅か数cmを走る地面が掠めていく。掠れば皮膚どころか骨まで削り取られ、脳みそをぶちまける無惨な死に様になるだろう。今そこにある死に悪寒を感じつつもセキーネは必死にもがく。セキーネは必死に顔を動かし、ディオゴの親指と人差し指とをつなぐ母指内転筋に尖った前歯を突き立て、噛みついた。

「ぐゎあがアアァアアァッ!!」
痛みで思わず両頬を掴んでいた右手を離しそうになったが、ディオゴは歯を食いしばりセキーネの頭を地面へ押しつけようとするが、噛まれた瞬間に咄嗟に力を弱めたのが災いして、セキーネの
頭突きをまともに喰らってしまった。
「ぐォッ!」
グチッという鈍い音を立て、鼻から血を噴き出しながら勢いあまって仰向けに倒れていくディオゴに間髪入れず、セキーネはディオゴの右の兎耳目掛けて噛みついた。
「ぎやあアァアアァアアアアッ!!」
勢い良くセキーネはディオゴの兎耳を噛み千切ると床に破片を吐き棄てる。耳から血を噴き出しながらも、ディオゴはセキーネを右足で蹴り飛ばそうとするが、かわされて右手でのアッパーカットを喰らってしまい倒れ込む。
倒れ込んだディオゴの顔面を踏みつぶそうとセキーネが飛びかかったが、ディオゴは肘を突き立て地面に掌をつくとそのまま セキーネの胸を踏み台にして後方へと宙返りした。
「ごうッ」
胸骨にまともに蹴りを喰らい、胸を抑えてセキーネは近くに積み上げられた箱をなぎ倒し、仰向けに倒れ込む。 立ち上がりながらローブを脱ぎ捨てると へしゃげた板が滑り落ちる。万がーのために付けていた防刃帯だったが、少しはディオゴの蹴りの衝撃を和げられたようだ。
それがどうしたと言わんばかりにディオゴは近くに落ちていた鉄パイプを拾い上げると、セキーネを睨み付けながら頭部へと振り下ろす。 戦場で斧を振り回していたディオゴが鉄パイプを振り回すとそれは鈍器ではなく、一種の刃物のような殺気を帯びる。 しかも ディオゴはセキーネの頭部を正確に撃ち抜こうとしていた。ほんの1~2秒前まで頭部があった場所が鉄パイプで撃ち抜かれ、死の嵐を巻き起こす。
紙一重にかわしつつも、セキーネは背骨を串刺しにされたかのような悪寒を覚えていた。
(このままでは殺られる・・・!!)
そう思った瞬間 だった。
突如ディオゴは血の唾をセキーネの顔面目掛けて霧状に噴きかけてきた。鼻血を口の中に溜めこんでいたのだ。
(しまっ!!!)
その1秒と経たぬ内にセキーネの頭部に鉄パイプが振り下ろされたのは言うまでもない。
「・・・がッ!!」
咄嗟に頭上で腕を交差し、直接的な打撃をまともに喰らうことは避けられたが、それでも腕ごしに喰らった衝撃は頭部へと伝わり、セキーネの脳を大きく揺らした。
「・・・ごあッ」
そのせいで防御が遅れ、セキーネは鳩尾にディオゴの脛蹴りをまともに喰らってしまった。
「げはあッ!!」
吐瀉物を撒き散らし、セキーネは2両先の食堂車両に吹き飛ばされてしまった。
「きゃあぁアアッ!!」
悲鳴轟く中、朦朧とする意識の中でセキーネは死を悟っていた。
「・・・おまえの逃亡劇も終わりだ・・・セキーネ」
「・・・ディオゴ」
目の前には血まみれになったディオゴが居た。
「・・・おまえは男の戦場から逃げた・・・俺を置き去りにし、部下までも見捨てた挙げ句・・・俺の妺を死なせた・・・おまえを・・・・・・許すことは出来ない」
復讐心にとらわれたディオゴの表情は鬼のようであった。顔面を切り刻まれたのかと疑う程の深い皺がディオゴの顔面を苦しそうにのたうち回るかのように刻まれていた。それと同時にディオゴの両目からは涙が流れていた。その涙で濡れた目は復讐の相手に向けられたにしては とてもとても悲しげでまるで裏切った友への嘆きのように見えた。どうして裏切ったんだと訴えかけるように見えた。
「・・・すまなかった 友よ」
セキーネは一言呟いた。それ以外に言葉が見つからなかった。誤解はあったし弁解したいことは沢山あった。自分の本意ではないんだと訴えたかった。だが、最後の最後で友よりも母を選び・・・自分を信じてくれた友のディオゴよりも自分を騙そうとしていた叔父のピアースを信じてしまったことは事実だ。 そしてそれにあらがうことが出来なかった不甲斐ない自分がセキーネは許せなかった。
(私は何もかもから逃げていたのかもしれないな・・・)
セキーネはディオゴの引導を受け取るべく目を閉じたのだった。それが罪滅ぼしになると信じて・・・


       

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