Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

セキーネは目を閉じ、引導を受け入れる覚悟を決めた。ディオゴは言った。逃亡劇は終わりだと。
(・・・そうだ、私は何もかもから逃げ続けていたのだ・・・)
「・・・友よ。 君の言葉で目が覚めた。
君から妹を奪ったのは私だ・・・・友よ。
許されるのなら・・・償いは私の命で・・・」

セキーネはネクタイをほどき、着ていたカッターシャツの胸元を左右に引きちぎる。ボタンが弾け飛び、セキーネの筋肉質な胸元が露わになる。
ストリップショーの女性がやってくれたのなら煽情的動作となっていたが、戦場においてこれは心臓を差し出す、つまりは降伏、介錯を意味する。エドマチでいうところの切腹に似ている。
ディオゴは右手を握り締め、ありったけの力と憎悪の念を込める。妹のモニークを死に追いやり、共に戦った戦友や部下達を※見殺しにした相手だ。 全身全霊を込めて抹殺しなければならない。きっとモニーク達はあの世でもっと生きたかったと嘆いているだろう、彼女等の無念を晴らすためにもここで手を抜くことは出来ない。

※セキーネ氏の名誉のために注釈を入れさせてもらうが、あくまでもディオゴ大尉個人の見方である。

「さらばだ 友よ」

ふと、セキーネはディオゴの声を聞いたような気がして目を開けた。ディオゴは涙を流していた。
セキーネはディオゴの顔を見て微笑みながら再び目を閉じた。最期の最期でセキーネはディオゴに赦してもらえたと感じて介錯を待った。
だが、いつまで待とうともその介錯の願いが果たされることはなかった。

「かッ あか・・・ッ」
瞼の向こうに聞こえるディオゴの声にセキーネは驚いた。ディオゴは喉をかきむしるかのように爪を突き立てていた。かっと目を見開き、喉に張り付いた何かを剥がそうとしているかのようだった。 長年の戦闘経験でセキーネは理解した。
何者かがディオゴを背後から急襲し、絞殺用のワイヤーで首を絞め殺そうとしているのだと。
「ネロ・・・?」
主人であるセキーネを守ろうと従者であったネロが駆けつけてきたのだ。
「ぐぁがぅ・・・!!」
ディオゴは首から血を滲ませながら必死にワイヤーを解こうとしたが、既にワイヤーは肉に食らいついており指を引っ掛ける余地すらなかった。
ディオゴはワイヤーを解くことを諦め、右手でガラ空きになったネロの金玉を掴んだ。
「ぐッおッ!!」
ネロは目をギョッとさせ、最大級の悶絶の声をあげた。てっきりディオゴが目潰しに来るかと思い、いつでもネロは指を噛み千切る準備をしていた。それ故に 金玉を握り潰しにかかられたのは全くの予想外であった。
ネロの金玉はディオゴの指と指の間を上手くすり抜けたが、すり抜けた際の摩擦は想像するのも
おぞましい激痛をネロに与えた。
「げは アァッ!!」
形を変えながら玉袋の内壁へと叩きつけられた
金玉が激しくネロの内臓を何発も打ち抜く。
あまりの激痛でネロはワイヤーを収納している絞殺具のグリップを手放してしまった。
「ォオラッ!!」
ディオゴはそのままネロごと仰向けに倒れ込もうとしたが、とっさにネロはワイヤーを手放すと金玉を掴んでいるディオゴの右手の手首を暗器で刺した。
「ぐォッ!!」
間髪入れずにネロはディオゴの背中を蹴り飛ばし、金玉潰しを回避する。ディオゴも握り潰すことが優先ではなかったので刺された瞬間に右手を全玉から放していた。背中を蹴り飛ばしにかかることもある程度予想は付いていたため、蹴られた勢い前のめりになるのも分かっていた。ディオゴは右足を前に突き出して踏みとどまると
その勢いを利用して左足で首を狩ろうとした。
だが そこにネロの首は無かった。
ネロは身を屈めると 右手の掌底でガラ空きになったディオゴの金玉を打ち抜いた。
「ごふッ!!」
ぞっとする程の空白が頭を突き抜けた後、ディオゴの腹部が内側から鐘を打ち抜けたように共鳴し、痛みが激しく暴れ回った。
「オ・・・ごぁッ・・・!!」
目とロから涙と涎を撒き散らし、ディオゴは悶絶する。いくら訓練されようと男・・・雄であれば絶対に避けることなど出来ない痛みだ。
だがそんな状態にディオゴが置かれようともネロは追い討ちはしなかった。しっかりと潰したという感覚が得られなかったためだ。潰れていなくとも激しい痛みはあるし、これほど悶絶しているのも理解は出来るが、演技の可能性は否めなかったからだ。

       

表紙
Tweet

Neetsha