Neetel Inside 文芸新都
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ネロは近くに落ちていたワインの瓶を叩き割るとディオゴに突きつけるかのように構える。
「リァァアァア!!」
割れた瓶で腹を刺そうとしたのだろう、だが
ディオゴはズボンのベルトを引き抜くと鞭のようにネロの手を叩き落とし、ワイン瓶を破壊した。
だが、次の瞬間 振り下ろされたベルトの間を縫ってウィスキィのコップがディオゴの顔面目掛けて飛び込んできた。
「ぐあッ!!」
咄嗟に目を閉じたディオゴ目掛けてネロがタックルをかまし、ディオゴはそのまま倒れ込んだ。 だが、その先にあったのは・・・
「うおああっ!!」
ディオゴが倒れ込んだのは列車の外であった。
知らず知らずの内に、列車の外に追い出されるように誘導されていたのだ。
「てめッ・・・!!」
普通ならそのまま地面に投げ出され、地面を転がっていただろう。だが、ディオゴは無我夢中で伸ばした右手でドアの縁を捕み、鯉幟の鯉のように列車にしがみついた。
「ォおォオオウウォオッ!!」
激しい突風が体中を袋叩きの如く叩き回し、ディオゴは今にも振り落とされそうであった。
「ッ!?」
左足に違和感を感じ、ディオゴは足元を見る。
彼の左足首をネロが掴んでいたのだ。
「離せッ!!このッ!!」
右足でネロの頭を蹴ろうとするが、左足を掴まれている激痛で思った以上に上手く蹴れない。
「が・・・ッ あがッ・・・!!」
飛び上がる程の激痛にディオゴは歯を食いしばり、悶絶していた。というのも、彼は左足首に古傷があったためである。モニークがレイプされたあの日、ディオゴは左足首を折ってしまっていた。
妹を案ずるがあまり慌てて馬から飛び降り、左足首を捻ったのが悪化し、モニークを家まで運んだ時には折れてしまっていたのだ。
「ぐぎィぎィィ・・・」
その古傷をぶり返され激痛でディオゴは気が狂いそうになった。そして何よりこの激痛が血達磨の肉人形にされたモニークの姿を思い出させる。
「やめろやめろやめろやめろやめろやめろ」
今はネロを蹴り落とさねばならないというのに
モニークの凄惨な姿が脳裏から離れない。
古傷をえぐりおこされる激痛と
過去のトラウマと そして目の前にある危機・・・
同時に 襲い掛かる災いに ディオゴは完全にパニックに陥っていた。
「はなせ!! はなせぇえぇえええ~~ッ!!」
何発かディオゴの右足で頭部を蹴られ、ネロの頭部から血が流れ出たが、それでもネロは手放そうとはしなかった。
ディオゴと共に心中するか、引きちぎるとまではいかぬまでも左足をへし折ってやるか・・・
いずれにしてもこのまま おめおめと流されるつもりもなかった。だが、ネロには先に挙げた3つの選択肢とは別の選択をした。ネロは突然 手を離すと、そのまま後方へと流されて行った。
「ッ!?」
有り得ない・・・この状況で手を離すのは死を意味するというのに・・・突然の不可解な行動をディオゴが察したのはこれより2秒後のことであった。ふと、ドアの縁にしがみつく自分の前方に気配を感じ、ハッと前を見た時だった。目前には木製の柱があった。
近年アルフヘイム大陸の東西を横断する
このェスティヴェスト鉄道はラギルゥ一族がSHWと共同で建設したものである。アルフヘイムの大地に根を張り巡らせる精霊樹の力を利用し、各ポイントに左右対称に配置された2つの柱があり、その柱から幹のように線路へと手を延ばす「木線」が列車に動力を伝えている。故に列車の左右には常に「木線」と「木柱」があり、場所によっては列車が木柱のほぼスレスレを通過している状況もあった。不幸なことにディオゴが列車のドアの縁にしがみついていた時、列車は木柱のほぼスレスレを通過していた。
「ご」
ディオゴはそのまま木柱に激突し、列車から引き剥がされた。そうまるで強姦される女が逃げようとドアや壁にしがみつこうとするが、無理やり男どもに引き剥がされ、そのままベッドに叩きつけられるかのように ディオゴの身体は地面へと叩きつけられ砂埃を巻き上げ、転がったのである。
ネロがディオゴの左足にしがみついていたのは
道連れにしようとしていたわけではない。初っ端からディオゴを木柱に激突死させるためだった。

       

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