Neetel Inside 文芸新都
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黒兎物語
76 望まぬ我が子

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蘇生したディオゴとヌメロ、そしてネロは
ゲオルク軍によって捕獲された。セキーネを巡って起こった壮絶かつ大規模な内乱の収拾のためである。ディオゴ率いる黒兎軍は身柄を拘束された。味方である筈のガザミを拷問し、挙げ句に彼女に対する陵辱を黙って見過ごしたのだから。
ディオゴ、ヌメロはネロとは別々に捕らえられ尋問を受けていた。

「・・・ディオゴよ。貴様は自分のしたことが分かっているのか? 貴様には黒兎軍を率い、メゼツ兵団の殲滅後、ガザミ率いる魚人軍と合流。事後、我が軍と合流するまで待機を命じた筈だ。 西方戦線に向け前進するための再編成の為にな・・・!」
ゲオルクは殺気に溢れた怒りを必死で抑えつけるようにディオゴを問いつめていた。冷静さを保たねばゲオルクは今にもディオゴを八つ裂きにしてしまいそうだった。戦友であるガザミを直接的ではないとは言え、レイプさせたディオゴを許すことはできなかった。
「復讐仇を追うために持ち場を離れ、我が軍と魚人軍の兵士を拘束し、拷問した・・・! 軍紀違反だぞ。」
怒りに震えるゲオルクに対して ディオゴは激しい憎悪の眼差しを向けていた。
「・・・アンタの言い分はそれかい?傭兵王。
なら、こっちも言い分を言おう。
元はと言えば、アンタが先に俺を欺いたのが火種だ。 俺の復讐仇は アンタの※起こりでもある。
アンタはセキーネに頼まれてフローリアからの脱出とSHWへの亡命を手助けした・・・軍資金の提供を交換条件にしてな。それにあたって俺の存在が邪魔だった・・・だから、アンタは俺をフローリアから遠ざけ、レドフィンの交渉役に向かわせた。ガザミという監視を付けてな・・・その間にセキーネはまんまとフローリアから退散ってわけだ。」
ゲオルクは何も言い返すことは出来なかった。
もし、セキーネのことを知ればディオゴは
いの一番にフローリアへと向かっていた筈だ。
セキーネが死ねば、ゲオルク軍の資金提供者はなくなる。アルフヘイム政府からの資金援助が期待できない状況下で必死にやりくりをしていた困窮の日々の中、ようやく差し伸べられた救いの手なのだ。アルフヘイムでの活動は断念せざるを得なくなる。よしんば アルフヘイムから撤退したとしよう。待ち受けているのはSHWからの莫大な違約金の請求だ。その金額たるや、一国が一夜で消し飛ぶほどの大金だ。ハイランドなどひとたまりもない。民を飢えさせるわけにはいかなかった。
「 ・・・俺を欺いたことも反吐が出そうだが
許せねぇのは俺を足止めするために・・・セキーネの部下だったネロを使ったことだ。」
「・・・誤解だ、ディオゴ。我々はネロと一切の関係はない。全てネロの一存でやったことだ。」
「ヘッ、先に騙しといて言い訳がそれか・・・舐めやがってこのクソが・・・ 仮に事実だったとして どうして信じろと? 」
「信じてもらうしかない・・・それより貴様の監督不行き届きでガザミが辱めを受けたことを どう釈明するつもりだ。」
「騙された故のやむを得ない正当防衛と言ってもらおうか・・・ 」

ゲオルクとディオゴは断固として謝罪をしなかった。ディオゴは先に騙したゲオルクが謝罪すべきとして決っして譲らなかった。そもそも、正直に打ち明けてくれていれば事情を鑑みていたかも
ゲオルクもディオゴを騙したことには非があるものの、それでも謝罪しなかったのはガザミのことがあったからだ。無抵抗の女を拷問し、レイプした畜生の如きオーベルハウザーの所業を黙って見過ごしたディオゴもオーベルハウザーと同罪である。 ガザミはレイプされた挙げ句・・・妊娠してしまった。望まぬ妊娠をさせられ、彼女は苦しみながら出産した。 ガザミが生み落とした卵は4つあり、それらはムザファールによって川へと流された。憎い仇の血を引く子供達が眠る卵をガザミは叩き潰すことが出来なかった。潰せば一生子殺しの母としての罪を背負うことになることへの恐れからか、こんな者のせいで一生トラウマを引き摺って生きたくないという決意からか・・・ガザミはせめて目の届かない場所で叩き潰してくれとムザファールに懇願した。だが、ムザファールも ガザミの血を引く子供達を殺したくはなかった。やむを得ず彼は子供達が眠る卵を川へと流したのである。 そんな2人を目の当たりにしてゲオルクはディオゴに到底頭を下げる気にはなれなかったのである。

       

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