Neetel Inside 文芸新都
表紙

黒兎物語
81 堕天使の愛

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セントヴェリアの情勢が変化し始めたのは
ミハイル4世がアルフヘイム北方戦線への遠征を終え、帰還してからであった。
いや、きっかけはそれより前だったのかもしれない。

ミハイル4世はアルフヘイム北方戦線へと遠征に向かうために、
腹心であるニッツェシーア・ラギュリをセントヴェリアに残し、
ソフィア・スビリミタス団長と行動を共にしていた。
ソフィアの率いるスビリミタス兵団は、アルフヘイム北方戦線を占領した
甲皇国軍をなぎ払うために絶対不可欠であった。
案の定、丙武軍団もメゼツ兵団も、カール中佐率いる魔導兵団も……
スビリミタス兵団の前には手も足も出なかった。
そう、どれだけ攻めに攻めても全くイッテくれぬマグロ状態の女のように手強い兵団だったのだ。

結果的に、スビリミタス兵団は兎人族の精霊樹スカイフォールを占領することに成功した。
そう、アルフヘイム政府軍の名の下に。
ピアース、セキーネ、ディオゴ、ネロ、ヌメロ、ノースハウザー、オーベルハウザー……人格的に問題がある人物が3人ほど混じってはいるものの、
この7人は兎人族の軍人としては有能な人物であった。その彼らが居なくとも
それでもなお、スカイフォールを守るために戦っていた白兎人族兵士の生き残り達は
丙武・メゼツ・カールという3人の猛者が率いる甲皇国軍と戦うため、
スビリミタス兵団に協力した。彼らを同じアルフヘイムという一つの祖国のため、
共に戦ってくれる援軍と信じて……
だが、3人の猛者たち亡き後、情勢は一変した。
ミハイルとソフィアは、生き残りたちを一夜の内に皆殺しにし、あっという間にスカイフォールを兎人族の手から
奪い去ったのだ。(ただし、エンジェルエルフ族のタカ派の学者の間ではスカイフォールを奪い去ったのではなく、
取り返した、奪還したという主張が今も根強く残っている。)

あとは、スカイフォールの最深部への鍵となる白兎人族の巫女マリー・ピーターシルヴァンニアンを捕獲するだけだ。
セキーネはSHWのエージェント達にマリーを引渡し、ディオゴと合流すべくゲオルク軍の駐留するフローリアへと向かった。
そのタイミングをミハイル4世は見逃しはしなかった。
そう、絶世の美女が着物を脱ぐタイミングを虎視眈々と狙うかのごとく。

SHWのエージェントたちがセキーネと合流し、マリーをSHWのヤン・ウィリー社長たちの元へと
送り届ける前に、ミハイル4世は部下の一人であるフレイア・ジラソーレを差し向け、
SHWのエージェントたちを抹殺したのだった。護衛がいなくなり、裸に剥かれたマリーの身柄を確保するなど
無抵抗の少女を大の大人が襲うかのように簡単過ぎる所業であった。
彼女フレイアはミハイルの腹心の暗殺者ニッツェシーア・ラギュリの弟子であり、ニッツェに次ぐ暗殺者の一人である。
ただ、極度の人見知りのためハムスターさんを連れ歩いているというかなりお茶目な一面も持つ。
長い金色の髪をマフラーのように首元に巻きつけ、ハムスターさんをその中に保護して
ディオゴがポッポさんを愛するかのように可愛がっている。
いずれにせよ、マリーを確保したジラソーレはミハイル4世とソフィアのいる
スカイフォールへと向かっていた。

「フッハッハッハッハッ!! これで、スカイフォールの陥落も日の目を見るだけじゃな。」

アルフヘイム全土の精霊樹は元はと言えばエルフ族のもの。断じて獣人族のものではない。
何処ぞのエルフたちは自分たちの血の混じった獣人族を巫女とか名づけ、精霊樹の管理役とした。
そんな愚かなことが認められてたまるものか。亡き父ミハイル3世はそう訴えたがばかりに
ダート・スタンに投獄され、無念の獄死を遂げた。

「陛下、これで先代の皇帝もお喜びでしょう。謹んで祝福させていただきます。」
スブリミタス兵団を仕切るソフィアは、頭を垂れミハイルを祝福する。
ミハイルは彼女のスカートの中に手をまさぐり、彼女の股より迸る蜜を手に取る。

「ぁぐっ……」

ソフィアが顔を赤らめるのを他所に、ミハイルはソフィアの股より抽出した蜜を舐め、
歓喜の笑みを浮かべた。そう、これはミハイルによる尊敬の現れである。

「実に……実に褒めてつかわすぞ……ソフィア。
お主の働きのお陰で儂の悲願を達成することが出来そうじゃ。
だが、これはあくまでも始まりに過ぎん……エルフ族の手に取り戻さねばならぬ精霊樹は
アルフヘイム全土に数知れず存在する……お主にはそれらの奪還のため、まだまだ働いてもらうぞ。」

手にこびりついたソフィアの蜜を一滴も残らないように舐め回し、
ミハイルはソフィアを賞賛するのだった。

「ぁっ……はっ!! もっ……勿体無き御言葉にございまする……っ!!」
ミハイルに己が蜜を堪能され、ソフィアは腰が砕けそうになりながらも足を震わせ歓喜に浸っていた。
このまま、今すぐに膣に指を突っ込んで中を掻き回し、果ててしまいたかった……
だが、そんな我慢汁を撒き散らすような真似は出来なかった。

なにせ、そのような真似は彼女が苦手なニッツェシーアと酷似した振る舞いだと思っていたからだ。
もし、ここに居たのがニッツェであれば、歓喜のあまり きっと先に述べたような行為をしていただろう。
なにせ、あのエルカイダのリーダーである黒騎士をオカズに一人で性処理をしているような女だ。
よりによって亜人である獣人に加担しているあの黒騎士を……よくもまあ、恥知らずにオカズに出来るものだ。
ニッツェが黒騎士をオカズに自慰をしている時に運悪くソフィアが出くわし、嫌悪のあまりニッツェを激しく罵倒したことがあった。
それでもニッツェはそんなソフィアを見つめて不気味に微笑んでいた。
先程まで部屋中に響き渡るほどの歓喜の妖艶な喘ぎを挙げていたこのニッツェという女は……
自慰を終え、後処理をしながら……そのことに何ら一切恥じることなく、ただただソフィアを見つめ微笑んでいた。
その微笑みに負けじと激しく問い詰めるソフィアに、ニッツェはこう反論した。

「ウフフフ……あなたは愛というものを知らないのね……ソフィア。
愛という感情の前には種族の垣根なんてちっぽけだと言うのに……可哀想に。
そんなちっぽけなものに いつまでも囚われて……本当に哀れね。」

先ほどまで黒騎士を想い、己の膣内を掻き回した真っ白な指でニッツェはソフィアの頬を包み込みながら語りかけた。

「ぃっ……ひぃいっ……」
ニッツェの乾ききっていない愛液が自身の頬を湿らせるのを感じ取り、ソフィアは背筋を串刺しにされたかのように怯えた。
とにかく、同じ女としてニッツェがただ穢らわしくて穢らわしくてたまらず、
ソフィアは魔法を使うのも忘れニッツェの前から逃げ出したい想いで一杯だった。
だが、ニッツェの指一本一本がソフィアの頬を大蛇のように締め上げて離しはしなかった。

「……種族、人種、身分、立場……挙句の果てには肌の色といった身体的特徴までもを
理由にして私たちは自分と他人との間に垣根や境界線を作ってきた。
でも、その試みは幾度も失敗したわ。何万年、何億年経とうと滅びない愛という感情……
愛は自分と他人を隔てる垣根や境界線を 一瞬で蹂躙してきたわ……
今まで何万も何億も繰り返されてきた歴史だと言うのにね……ウフフフフ……どうして気付かないのかしらね。
愛の前では何もかも無力だってことに…………だからね。私が黒騎士様を愛する気持ちはね……
誰にも止めることなんて出来ないの……ミハイル様も……貴方も……そして……私自身もね。」

はっきり言ってまともに戦えばニッツェはソフィアの敵ではない。
このことをミハイル4世に告げ口すれば、いくら腹心といえどニッツェはエルフ侮辱罪で
斬首刑は間違い無しだっただろう。でも、そうさせなかったのは
あのニッツェに魅入られたあの日の出来事が原因だった。
あれ以来、ソフィアにとってニッツェは克服し難い最大のトラウマとなった。
とどのつまり、亜人をオカズに自慰に耽っていた卑しい痴女の筈のニッツェを
ソフィアはミハイル4世に告発することが出来なかった。そして、未だにソフィアはニッツェが最後に放った言葉が
耳から離れない。

「……私たちエンジェルエルフ族の始祖はエルフと天使の混血だった。
ウフフフ……実に滑稽ね。自らを史上の存在と信じて止まず、他人を拒絶してきた
エンジェルエルフ族の存在そのものが自らの主張を否定しているというのにね……ウフフフフ……」

あの時の恍惚なまでに勝ち誇ったニッツェの微笑みが今でもソフィアの目の奥に焼き付いている。
たとえ、目を抉り取ろうともあの女の微笑みは一生ぬぐいさる事など出来はしないだろう。

だからこそ、ミハイル4世がニッツェシーアにセントヴェリアを任せたのを聞いた時、
ソフィアは心の何処かでエンジェルエルフ族の崩壊の音色を感じ取ったのだ。
あのどす黒い感情を内に秘め、自分たちを見送るニッツェの瞳が、どこか別の世界を見つめていたかのようだったからだ。


ニッツェシーア・ラギュリがミハイル4世から離反したのはそれから間も無くのことだった。
ニッツェはアルフヘイム北方戦線崩壊の真実をある組織に売り、亡命を図ったのだ。
ある組織とは言わずもがな、彼女が自慰の対象にするほど溺愛し、敬愛していた
黒騎士が属するエルカイダである。
エンジェルエルフ族のクローブ・プリムラとのパイプ役を欲していたエルカイダにとって、
クローブと敵対するミハイル4世を裏切ったニッツェはまさに喉から手が出るほどの逸材だった。

そう、まさに思春期の少年たちの前で全裸で踊る絶世の美女のように
ニッツェは輝いて見えた存在だった。決して、ニッツェがナイスバディだからという理由だけでは決して無い。

ただ、他の者の目がある以上ニッツェも何らかのものを手土産にする必要があった。
ミハイル4世が亜人、すなわち獣人族を差し置いてアルフヘイムを支配しようとしている企み……
この情報は手土産には十分過ぎるほどのものだった。エルカイダはかなりの高待遇でニッツェを歓迎した。
今や彼女はエルカイダの幹部である。

そう、全ては愛する黒騎士のために。

       

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Neetsha