Neetel Inside 文芸新都
表紙

黒兎物語
95 酒呑童子

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 色狂のフェデリコは部下たちを引き連れて街へと繰り出していた。
無論、慰安用の女を見繕うためである。サウスエルフ族のレイプ街道まっしぐらな悪逆な振る舞いは
どちらかというと、フェデリコとその不愉快な仲間たち御一行によるものが大半だった。
無論、シャロフスキーも悪逆ではあったが暗殺を恐れていたのと、行軍疲れで
あまり陣の外から出ようとせず、それが故にフェデリコへの監督不行届を助長させることになったのだが……

「あっはっはっはっはっ!!いいぞ!じゃんじゃん酒をもって参れ!!」

フェデリコたちは村一番の酒場をほぼ貸切状態にしてバカ騒ぎをしていた。
軍人は、極限状態の中で体力と寿命をすり減らし、怪我や病気をしようが
嘘をついて身体にムチを打つ職業だ。それ故か、どうも日々の人間としての
振る舞いはまるでチンカスをボロボロと撒き散らすかのように下卑たものになることが多い。
特に酒がそれを助長する。抑圧された精神が酒をきっかけに
まるで金玉袋に1年以上溜まったザーメンの土石流のごとく溢れる。
そこに他者への思いやりなど無い、ただ他者を押しのけ自己を主張しわがままを通すか…‥
それだけである。

フェデリコたちと不愉快な仲間たち御一行の周りには
村中から寄せ集められた獣人族の女たちが、彼らの接待を行っていた。
更にはその格好といえば、下着姿である。下着姿は、フェデリコたちの要求である。

「流石に我々にも慈悲はある。丸裸とは言わん。その代わり、下着姿で来い。」

流石にこれ以上、レイプロードを突き進んで増長しすぎると、伯父のシャロフスキーの怒りを買いかねないと
思ったのでフェデリコも突きつける要求のレベルを下げてはいたが、
それにしても獣人族の女たちからすれば溜まったものではない。かといって、
相手はあの悪名高いサウスエルフ軍である。彼らのバックにはミハイル4世が居る。
ミハイル4世は獣人族の人権など恥垢以下に考えているような女だ。
同じ女であろうと、獣人族を侮辱する話を聞けば股間を濡らして喜ぶだろう。
残念なことに、ダート・スタンの指揮下にある
ノースエルフ軍は今は北方戦線で兎人族のことで手一杯だし、イーストエルフ軍は今や西方戦線の最前線で
甲皇国軍と戦っていてその数を減らしている、ウエストエルフ軍はSHWへと亡命するフローリア難民の護衛の任務で
とても人員を割ける状態ではない。では、いざという時にこの村を誰が甲皇国軍から守るのか……
そう、手が余っているサウスエルフ軍以外に無い。サウスエルフ軍は当初、南方戦線の防衛を行おうとしていたが、
竜人族とその現地獣人族が断固としてエルフの手は借りぬと要求を突っぱねたため、手余りの状態だった。
そう、サウスエルフ軍がこの村に居るのは最早アルフヘイムの国情として止むを得ない事態なのである。
そういう状況である以上、サウスエルフ軍はれっきとした官軍なのである。
その機嫌を損ねては村一つ逆賊とみなして潰すことなど造作もないことだ。そう言いながら村長たちは泣きじゃくる彼女たちに
今回の接待の任を断腸の思いで託した。
布切れ一枚を胸と腰に纏っただけの屈辱的な格好で、獣人族の女たちはフェデリコたちに酒を運ぶのである。

「げははははは!!獣人族の女は乳がでかくてたまらんな!!」
「ケダモノの血をひいてるから、体がエロいな!!」

不愉快な仲間たちは、酒を喰らいながら構わず獣人族の女たちの胸を揉みしだく。
そして、彼女たちが座る場所に手を置き、その上に座らせるとお尻を鷲掴みにする。
まるでネズミに絡みつく蛇のように、女肉を求める仲間たちは下卑た笑いを酒場中に響かせ笑う。
むろん、女たちの顔に天国はない。顔は引き攣り、ただ屈辱のあまり溢れそうになる涙を必死に奥歯で噛み殺しながら
悟られぬように男たちの要求に応じていた。

「飽きた」

フェデリコは咄嗟に呟く。既にビールを10杯は飲み干したせいか、目は虚ろである。

「こんな獣臭い女どもを囲っても何の面白みもねーっつーの!!」

そう言いながら、机の上に用意されたつまみを床に叩き落とし、突如奇声をあげた。

「てめぇら、毛が痛ぇんだよ……このエルフ様の接待をしようってんなら
ムダ毛ぐらい剃ってこいっつーぅううの!!」
そう言うと、フェデリコは近くの机に置かれていたステーキを切り刻むようのナイフを
手にとると、傍にいた猫の獣人の女……キャロラインの髪の毛を引っ張り跪かせた。

「ぃっ……ぃたいぃたいいたい!!おやめください……っ!!」
突然のことでキャロラインも悲鳴をあげる。
が、それを黙らせようとぜんがごとくフェデリコが彼女の喉元に
ナイフを突きつける。

「うるせぇんだよ……猫女ァ~~ てめぇ……女のくせにヒゲなんか生やしやがってぇぇええ~~」
キャロラインは、猫の血を引いているため顔には数本のヒゲが生えている。
無論、それは女であろうと変わりはない。猫のヒゲについては諸説あるが、バランスを取り、猫特有の敏感さを司る役割をしているとされる。

「ぃや……っ」
フェデリコのナイフが彼女のヒゲを無情に切り落としていく。

「ぃやぁぁああ~~~~っっ……切らないでぇえええ!!!ヒゲいたいぃたい!!
ぃたいぃたいぃたあい!!いたいいたいいたい!!!
ぃやあああああぁぁあああああああああ~~~~~!!

キャロラインは足をばたつかせ、泣き叫んだ。
猫の血を引く彼女にとって、ヒゲを切られることは指を切られるに等しい拷問だった。

「何がいやだ……ったく……糞が~~~ 女のくせに髭を剃ンのがぃやだとぉ~~~~???
ムダ毛処理で人生の大半を浪費してる女の分際でぇぇ~~~……ヒゲだけは仲間外れにすンのかてめぇはよぉおおお~~~
腋毛もマン毛もスネ毛もおんなじ毛だろォがぁ~~~~……」

フェデリコは説教じみたような物言いで笑いながら、キャロラインのヒゲを切り落としてしまった。
酒は人間の本性を曝け出すというが、それはエルフにも言えることだったようだ。
酒が場を盛り上げるなどと妄言を抜かす者たちが見たら、絶句しそうな程、場は凍りついていた。

「ぁあぁ……っ……ぃだい……っ!!いだいよぉ……っ!!」
キャロラインは顔を抑え、泣きじゃくっていた。
接待どころではない、最早彼女にとって指を切り落とされたに等しい痛みが
彼女に襲いかかっていた。事実、猫のヒゲを切り落とすことは危険とされており、バランスを崩したりと怪我を招く原因にもなる。

キャロラインの哀れな姿に、流石に恐怖で感情を押し殺していた他の獣人族の女たちもキャロラインに駆け寄った。
無言で彼女を抱き抱え、フェデリコに対して憎悪の眼差しを送る。

「んだァァ~~~~???たかが裸同然の女ごときが、なんだその目はぁあああ~~~~~???」

酒が入るとフェデリコはまるで野蛮なケダモノのごとく、凶暴なエルフになる。
特に女性に対する仕打ちが酷いのは根っからのことだ。
酒が入ると、女に八つ当たりして殴る蹴るを浴びせ、そして犯す。
彼は将来を伯父のシャロフスキーに指図されて生きてきた。
子のいないシャロフスキーにとって妹の子であるフェデリコは放ってはおけない甥だった。それ故に、シャロフスキーは彼に過保護にしすぎた。だが、それはフェデリコにとって大きなコンプレックスを育てる結果となってしまった。
「実力でなく、七光りで出世したカス」「コネ野郎」と散々な陰口を叩かれ、出来が悪いなりに必死に努力したのに結果が伴わず、その挽回をする前に伯父が金とコネを使って挽回をする……その人生の繰り返しだった。
それが故に、彼は周囲が常に自分の陰口を叩いているという被害妄想に囚われた。正直、軍人という仕事が自分に向いている筈などない。それが分かっていながら自分は必死に努力しているというのに誰も認めてくれようとしない。
アルフヘイム軍法は丸暗記したし、服務小四法は読破した。そのお陰でテストで誰にも負けたことはない。
なのに、周りはクラウスとかいう農民上がりの無教養なガキを持ち上げる……
自分のように必死で努力してなどいないはずのあのガキをだ。
伯父のシャロフスキーはシャロフスキーで軍人としては尊敬しているが、いちいち自分の生き方を勝手に決めつけてくる……
そんなフェデリコの成す術も無い負の感情が哀れな性を酒という悪魔がケダモノへと変えてしまう。

だが、いくらフェデリコが哀れな性を背負っていようが
キャロラインを傷つけていいはずもない。彼女は何の罪もない乙女なのだ。
まだ男を知らぬというのにこんな屈辱的な格好をさせられたあげくに、
残虐な拷問を受けたことが許されていいはずなどない。獣人族の女たちは無言で怒った。ただ感情に任せて怒るわけにもいかず、怒りを噛み殺し、精一杯の怒りを眼差しに込めてフェデリコにつきつけた。今にも殺すと言わんばかりの憎悪の眼差しだ。涙を流す者もところどころにはいたが、それでも憎悪の顔だけは崩さなかった。 人生には、怒りを耐えてはならない時があるのだ。

「くそがぁ……これだから獣人族の女は嫌なんだよぉおー!」

そう言うと、フェデリコは酒場を出て行った。
バツが悪くなり、不愉快な仲間たちはいたたまれなくなり、
キャロラインたちに治療代として金を渡すとそそくさと逃げていった。

「大佐ぁ……さすがにあれはマズイっしょ!!」
「いくら、獣人族の女だからって せっかく招待してくれてンのに……」

どうやら、不愉快な仲間たちはあの場を楽しんでいたようで
フェデリコに対して少しばかり叱責に近い抗議をした。

「あー……あのキャロラインって娘、なかなかのボインちゃんだったのに
もったいねぇですぜぇ……ゴールドウィン大佐ァ……」
仲間の一人が言葉を続けようとした時だった。
フェデリコはその仲間の頬に平手打ちをお見舞いした。

「んだぁ~~……??大佐の俺に意見するのかァ~~???」
フェデリコは完全に酔っ払っていた。酔っぱらいの軍人というのは手に負えない。
ただでさえ、人格破綻の被害妄想の激しい人間だというのに酒を注いでまさに野獣同然だ。

「糞がぁ……げほぉ!!」
フェデリコは悪態をつこうとしたものの途中で吐瀉物に遮られ、
地面に嘔吐した。

「ぁあ~ もう……大佐ぁ……もうやめましょうぜ……今回のこと……
将軍に知れたらいくらなんでもただじゃあ済みそうにありませんぜ……」

「うるせぇ……あの糞ジジイなんざ糞喰らえだぁ~~
いっつも俺に指図ばっっっっっっっっっっっっっか しやがってぇぇ……
たかが伯父貴の分際で、俺に父親面しやがってぇ~~~~~……糞が……
なぁ~~~にが 
『エルフの女(マ〇コ)だけには手を出すな』だ……
糞がぁあ~~~~~~」

「大佐ぁ……落ち着いてくだせぇよぉ~~……」

「ダメだこりゃ……もう好きにさせとこうぜ」

「おいおい、このまま放置プレイしたら将軍に
金玉引っこ抜かれるの俺たちだぜ……」

不愉快な仲間たちも呆れてフェデリコを置き去りにしようとしたが、
後で将軍に責め立てられれば吊るし上げられるのは自分たちである。

「よぉ~~し エルフの女(おマンコ)探しにいくぞぉ~~」

酔っぱらいの軍人の夜は、無限のように長い……
エルフの物言いとは思えぬ下品な発言を夜の街へと響かせながら、
フェデリコと不愉快な仲間たちはエルフの女を探すのだった。

       

表紙

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Neetsha