Neetel Inside 文芸新都
表紙

黒兎物語
111 双翼の悪魔

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双翼の悪魔・・・ディオゴの目の前に居る黒兎人族の男を表現するに相応しい言葉はない。
ミルクを溶かし込んだチョコレートのような薄茶色の肌と麦畑のような黄金色の髪・・・健康というのを絵に描いたような色合いの身体の背後から、毒気を帯びた植物の花のような紫色の羽根が生えていた。 その背なの翼は、普段はダニィの体内に収納されている。肩甲骨の合間の溝から生えている翼は5本の指と指の間に水掻きのように皮膜が張られている。その皮膜はヨットの帆のように風を受け止め、受け流すことが出来る。広げればさながら、ヨットの帆のように巨大になる皮膜付きの翼は、収納するとなれば4本の指が親指の中へと収納されていき、皮膜は骨よりも先に親指の中へと格納されていく。やがて親指のみになった1本の指はマトリョーショカのように指骨、中手骨が手根骨の内部にまとめられ、肩甲骨の窪みへと沈んでいく。
沈んだ翼の骨はやがて胸骨の中へと格納される。
さながら、折り畳み傘のようなあるいは職人の作る機械仕掛けの骨董品のような精密な
天然の機械のような構造である。いわば、骨の中に骨が、さらにそのまた骨が入り込んでいる。
それ故にダニィのようなコウモリタイプの黒兎人族は 胸骨が分厚く、胸筋も発達している。
ディオゴやセキーネと違って脚力が弱く比較的温厚な者が多いコウモリタイプの黒兎人族は、
それに見合った代価を得たのだ。

「ずっと悩んでた・・・アンタを手にかけることを。だがもう迷いはない。」
ダニィは振り絞るように言う。

「はぁ……っ はぁっ……」

ディオゴにとって、ダニィが無防備に自分に話しかけている今が攻撃のチャンスにほかならない。
だが、ディオゴの身体は疲弊しきっており、呼吸すら整わず鉛のように沈みこもうとしていた。

(はぁっ……くそ……こ……こんな時に……息が……はぁ…っ はぁっ…)

持病の過呼吸の発作が出てしまい、ディオゴの顔から血の気が引いていく。
膝をついているのがやっとの状態だ。酸素を吸いすぎたせいでディオゴは一時的な中毒症状に陥っていた。
そのことを日頃からわかっていた彼は咄嗟に両手で口を覆い、二酸化炭素を吸うことでなるべく
呼吸を整えようとしていた。
ダニィにとって、ディオゴが疲弊しきっている今が攻撃のチャンスにほかならない。
だが、何故両者ともそうしないのか。
それは、魂の問題だからだろう。2人には戦いよりも大切な魂の語り合いが大切なのだ。

「大切なものを失うたび、俺は心に傷を刻んでいた……
俺の人生は心の傷と共にあった。それももう終わりだ……
かつて憧れ、追い求めた義兄の死を…俺の心に刻み込む最後の傷としよう・・・」

ダニィは胸に刻まれたケロイドの古傷を握り締め、告げる。

「はぁ……っ ふぅ~~ぅうっ……」

呼吸が整い、調子を取り戻して立ち上がったディオゴは
負けじと不敵な笑みを浮かべる。


ディオゴはすぐさまダニィのみぞおちを狙い、咄嗟に右足で蹴りを食らわせようとした。
それを察知してか、ダニィは蹴りが発動する前に左足でディオゴの右足の膝を踏みつけて
殺すように止めた。一時期、セキーネの従者であったネロの下で修行をしていたダニィは
ジークンドーを習得している。相手が何かを発動させる前に、攻撃を殺すのは基本である。

「!?」
蹴りを殺した筈のダニィは、予期せぬ攻撃を受けた。
無論、それは殺した筈のディオゴの右足によるものではない。
ディオゴは、ダニィが蹴りを殺すのを見越してすぐさま反対側の左脚で廻し蹴りを放った。
腰を入れず、股関節の動きだけで繰り出される蹴りは
ジークンドーのジャブやチョップには及ばずとも、神速と形容するに相応しい速度で打ち出される。
さらにディオゴ自身の兎人としての特性を生かした脚力により、
通常ならば相手の胸骨をナース姿の椎名林檎がガラスを叩き割るかのように
粉々に砕くことが出来るのだ。その凄まじい破壊力を誇る蹴りがダニィの古傷が
ある胸に容赦なく突き刺さる。だが、次の瞬間ダニィは左脚を両手で受け止めて肘で挟み込んだ。

「俺が虚仮威しで羽を広げたとでも思っているのかい?アニキ。
翼を出してる間の 俺の胸を砕けると思ったか?」

ダニィのその言葉がディオゴの鼓膜にへばりついた直後、
ディオゴは左脚の膝裏をまるで槍で串刺しにされたかのような衝撃を受けた。

「ごッ!!」

思わず目を見開き、ディオゴは悶絶した。
あまりの激痛で思わず、頭が真っ白になり無痛状態となる。
その無痛状態の中、ディオゴは理解した。
ダニィの胸骨を椎名林檎がガラスを叩き割るかのように砕こうとした
左脚は、確かにダニィの胸に届いた。だが、その凄まじい胸筋に阻まれ蹴りは失敗した。
更には引き抜く前に、ダニィは両肘によってディオゴの左脚をロックした。
こうなれば、ディオゴの左脚は完全に伸びきった状態となる。
完全に筋肉が伸びきった無防備な状態で、おまけに関節部である膝裏に蹴りを受けたのだ。
やがて、無痛状態の波は過ぎ去り、突如として嵐のような激痛がディオゴの左脚を
襲うのだった。

膝裏からの衝撃が靭帯や筋肉をぶちぶちと引きちぎり、半月板を叩き割った。

「か!!」

左脚の膝を折られ、ぐらついたディオゴは隙だらけになった。
その隙をダニィが逃すはずもない。
ダニィはすぐさまディオゴのへし折った左脚を解放すると、
そのままディオゴの右側に回り込んで、チョップやパンチを
叩き込んだ。

ダニィがこの状況で翼を広げたのは、単純に飛行するためではなかったことを
ディオゴは今更ながら思い知った。
ダニィが翼を広げたのは、それによって引き出される胸筋の力を利用した
防御力と瞬発力を得るためであった。

ダニィのようなコウモリタイプの黒兎人族は飛行中、
目にも止まらぬスピードで飛行する。それを可能としているのは、
胸筋に秘められた瞬発力である。その瞬発力は翼を広げている時に
最大限に発揮されるのだ。
かつて、ダニィはアーネストに襲われた時、その能力を使いこなせずにいた。
モニークが犯され、やがて無残な死を遂げてからダニィは
その胸筋を徹底的に引き出す修行を積んだのである。
もはや、元より秘められたポテンシャルに加えて
達人級に洗練されたチョップやパンチ……それらの醸し出す瞬発力は
ディオゴの神速に匹敵する速さを誇っていた。
当然、今のディオゴによけられるハズもない。


「キシャあァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

コウモリ人族が放つ口蓋音……人間でいうところの痰を吐こうとする時の
あの耳をつんざく甲高い不快な不協和音の雄叫びをあげながら、
ダニィはディオゴ目掛けて容赦ないパンチとチョップのシャワーを浴びせるのだった。


血しぶきをあげ、倒れこむディオゴの意識は現実と黄泉の世界の狭間へと
吸い込まれそうになっていた。
その意識の中、ディオゴは走馬灯のように実家へと残してきた
家族の姿を思い浮かべる。

(ツィツィ……モーニカ……ディアス……ヌメロ義兄さん……)

愛すべき家族のために死ぬわけにはいかないと魂は必死に
ディオゴを黄泉から引き戻そうとするが、彼の身体はそれとは反対に
地面へと吸い込まれ、叩きつけられたのだった。


続く

     


ダニィの無駄の無い連続パンチは、ディオゴに反撃の隙すら与えることもなかった。高速回転するチェーンソーの刃の前で、無傷でいられる者がいるはずもない。俗にチェーンソーパンチと呼ばれるその拳と拳の殴打の嵐は、
ディオゴの反射神経を凌駕し、彼の急所へと叩き込まれた。
ムエタイやカポエイラを混合させたマサカリという格闘術を主流とする
正統派の黒兎人族戦士であるディオゴは、蹴り技を得意としていた。
だが、勝負はそこにあった。徹底的に鍛え上げられた脛を相手の急所に蹴り込むマサカリの
得意技も、あくまでも相手が中距離に居てくれれば……つまりは、相手と自分との間に
足一つ分の距離があって初めて効果を発揮するものだ。
対してダニィは、ジークンドーや詠春拳をベースとした超接近戦型の格闘術だ。
相手と自分との間に足一つ分の距離など要らない。
懐に潜り込めば潜り込むほど、相手に攻撃の隙を与える間もなく
一方的に攻撃することが出来る。

「綺麗だねぇ……」

人職人人は人骨の指をツギ合わせて作られた骨のキセルをふかしながら、
勝者となったダニィに拍手を送った。

「……やれやれだ。スタンd…………ガーディアンに
取り憑かれた者の末路というわけか。」

悪魔のような禍々しい蝙蝠羽をばたつかせながら、ダニィはディオゴを
見下ろしていた。その目には禍々しい光が宿っていた。
スタン………幽波m……いや、うるさい黙れ。

…守護霊ガーディアンに取り憑かれた者は、心の闇を動力源として
強大な力を得るが、ジョジョに精神を蝕まれていく。
ハルドゥが今やシャルフリヒターに分類される危険度にまで進化を
遂げてしまった経緯がそこにある。

「あちゃちゃんごー……勃起ウサギやられてるじゃん……」

「フン……口だけは達者なトーシロめ。このざまとは情けない。」

獣神将のエルナティ、ロスマルトがそこにいた。


       

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Neetsha