Neetel Inside 文芸新都
表紙

黒兎物語
112 クワァンタム・オブ・ソラス ~アナザー・ウェイ・トゥ・ダイ~

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「クックックッ・・・ハハハハ」
ダニィの顔に闇が射し込んでいた。虚を見つめ、見開く目は宝石のように輝いている。不気味な光沢だった、美しく青いその輝きはまるで放射性物質が放つ間近で見た者を毒牙にかけるチェレンコフの光のように死のエナジーを帯びていた。
。ガーディアンによる精神の浸食度がジョジョに進行し始めていた。モニークを失い、絶望に支配されたダニィの心は愛した音楽との訣別のためにギターを破壊したこと、義兄ディオゴを手にかけたことにより更に深い闇の深遠へと堕ちていった。当初はギターに憑依していたダニィのガーディa・・・スタンドのクワァンタム・オブ・ソラス(略称Q・O・S)は、その苗床をダニィの精神へと変えた。

ん??・・・気のせいか。

当初はギターの演奏中でなければ具現化して出現できなかったスター・プラチ・・・Q・O・Sは、ダニィ単体でも具現化して出現出来るようになっていた。
(・・・Q・O・Sが身体に馴染んでいるのが分かる。まだ5秒ほどしか具現化させられないようだが・・・
少しずつ伸びていく成長の音色を感じる・・・
いずれは10秒 15秒 やがては1時間と具現化させられるようになるだろう。)
Q・O・Sはギターなしで具現化して出現できるようになったことにより、マシンガン状の音速弾を飛ばす能力を失なってしまった。だが、ダニィの身体を苗床としたことにより、上半身までしかなかったQ・O・Sは下半身が生え、人型のスタンド・・・あ、しまった。スタンド言ってもうた。
ごめん。訂正する、ガーディアンへと進化した。

「Q・O・Sの新たなフォームだ・・・Q・O・SーAnother way to dieー(クワァンタム・オブ・ソラス ~アナザー・ウェイ・トゥ・ダイ~)と名付けよう。 」
アナザー・ウェイ・トゥ・ダイを作者の英語力をもとに訳すとするなら、「死に場所を他に求めて」という意味である。


「気が済んだか サイコボーイ」
人職人人は骨のキセルから口を離し、鼻と口から煙を吹き出しながらダニィの傍に立っていた。右腕だけの隻腕の身体でいつの間にキセルの中に煙草の葉を詰め込み、火をつけたというのか。いずれにしても先ほどまで緑色の酒瓶を持っていたのが幻覚だったのかと思う程、キセルを持つ彼女の姿は様になっていた。いつの間にか近寄られていた不気味さと彼女の放った一言でダニィは一瞬我に返り、倒れ込む義兄ディオゴを見つめた。
既に虫の息のようだ。 チェーンソーパンチのラッシュを叩きこんだ時に確かな手応えを感じた。
心臓の鼓動がジョジョに弱まっていくのが聞こえる。確実なる最期のトドメを刺さないのはせめてもの情けだ。
「・・・青春との訣別だ、悔いはない。」
「・・・青春との訣別? おかしいな。ならば、どうして いつまでも恋人の死にしがみついている?」
キセルを咥え、人職人人はダニィの返事を待った。半開きの右目が下を向き、大きく見開いた左目の黄金の瞳がダニィを睨みつけるように見つめていた。まるで嘘をつくなと言いた気である。
「・・・・・・」


図星であった、正直ディオゴを殺したことでダニィは鳥肌を感じていた。後悔にも近いぞわぞわとした感情だが、今さらそう思ったところで何になるのだ。もうツィツィや、モーニカ、ディアス、そしてヌメロ義兄さんの許に戻ることなど出来ないというのに。 たとえ肉親の如き義兄を手にかけようとも、成し遂げねばならない目標があるのだ。本心を見透かされ、かなわないと感じたダニィはありのまま自らの胸中に秘めていた心を打ち明けた。

「これは罪滅ぼしだ・・・たとえ肉親の如き義兄を手にかけようとも俺には償わなければならない罪がある。」
ダニィは拳を握りしめ、答える。
心の底からダニィは自分を責め続けていた。
モニークを守れなかった自分を許すことができず、モニークの死に際に傍に居てやることすら出来なかった自分の無力さを呪っていたのだ。
「愛した人を失なったことが罪だと?」
キセルから口を離し、人職人人は睨むようにダニィを見つめる。まだ本心と信じ切っていないようだった。確かに自分の心を言葉にしたことなど歌を捨ててから忘れていた。久々にダニィは心にのしかかる蓋を優しく持ち上げるかのようにその心を打ち明けた。
「俺は無力だった・・・愛していたのに守れなかった・・・一度だけじゃなく二度までも・・・これ以上の罪が何処にあるんだ? 力無き者に 誰かを愛する資格などなかったというのに。」
眉間に皺を刻み、頬と目蓋で目を埋もれさせながらダニィは自責するかのように言った。
その心を本心と納得したのか人職人人は左目の黄金の瞳の半分を目蓋で覆うと、俯きながらキセルのヤニを落とすために、キセルを下に向けてコンコンとたたいた。
「守ると愛すは違うさ・・・誰かを愛することに
力も資格も要らない。大切なのは、愛する者のために何ができるかだ。アンタは愛のためにその身を捧げられるかい? ダニィ」
人職人人はキセルのヤニを全て落とすと、ダニィを黄金の左目で真っ直ぐに見据えた。採掘場で見つけた土と汗に塗れの黄金ではない、琥珀色の透き通った黄金の瞳から放たれる眼差し・・・その眼差しによる光を送る顔には笑みもなく、怒りも、侮蔑も、尊敬もない。純粋なる真心だけである。生と死の狭間の世界で生きる住民の放つ目は己の真心に偽りは無いかと問いかけていた。

「だったら何さら後には退けない。 我が真心に一片の曇りなし。」
ダニィは人職人人を見据え返した。モニークを必ず救う・・・その真心に偽りはない。


「人職人人・・・見つけたぞ」
野太い声のする方向にダニィと人職人人が目をやると そこにはディオゴと同じく獣神帝に仕えている獣神将ロスマルトとエルナティが居た。ロスマルトは馬の獣人、エルナティは鴉の獣人・・・いずれにしろ、ミシュガルドの原生動物だった獣人が神化した生物である。
「勃起ウサギ!? 」
エルナティはダニィ達の背後で倒れているディオゴを見つけると驚いた様子で彼に呼びかけるように叫んだ。
「ムゥ・・・人職人人のニオイを嗅ぎつけてきたら
この有り様・・・この状況は一体」
ロスマルトはどちらかというと頭の回転が早いわけではない。だから推理するのは苦手だ。
そんな事情を知ってかエルナティの目はこの有り様の元兇らしきダニィへと向けられた。
「あいつ・・・勃起ウサギに似てるけど違う・・・!
それより、あいつの傍にいるのは人職人人・・・もしかして、あいつ 勃起ウサギから人職人人を強奪した?」
「なるほど 俺は推理力はねぇが、多分それで間違いなさそうだ。」

エルナティはステッキを、ロスマルトは斧を
それぞれの武器を構え始める。

「そこの黒兎、いやコウモリ人・・・いずれにしろ となりにいる小娘を渡してもらおうか。」
やれやれ 予想はしていたが、人職人人を狙う他の輩に出くわしてしまったようだ。溜め息混じりにダニィは尋ねる。
「聞くだけ無駄だと思うが、念のために聞く。
断ったらどうする?」
「おまえが死ぬだけだ さあ、どうする?」
早いところこの世界に絶望していて良かったとダニィは思った。生き物はつくづく争い合うことから逃げられやしないのだと。平和などやはり力無き者の言い訳でしかない。モニークを蘇らせるために邪魔な連中は誰であろうと始末するだけだ。
「笑せるな・・・飛べない馬一匹とちっぽけな鴉一羽で何ができる? 死ぬのは貴様らだけだ。」
口元に笑みを浮かべ目を閉じて、エルナティとロスマルトを挑発すると、ダニィは双翼を広げた。
ケロイドで爛れた胸が再び隆起し、大蛇のような血管が皮フを突き破らん勢いで浮上する。
その背後からクワァンタム・オブ・ソラス ~アナザー・ウェイ・トゥ・ダイ~がダニィの中から姿を現す。右拳を前にし、左拳を後ろに引く構えは
宿主であるダニィが得意とするジークンドーと詠春拳の構えと同じものであった。

       

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