Neetel Inside 文芸新都
表紙

黒兎物語
16 コネリー高原の攻防

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 和平交渉記念式典が始まってから3日後、丙武軍団はコネリ一高原へと侵攻してきた セキーネとディオゴは指揮官として、出陣せざるを得なかった。和平交渉記念式典の主役的存在の2人の不在の中、式典は行なわれた。

コネリー高原は標高1230mの山が東西を塞ぐ形で寝そべっており、その周辺は樹海があった。
高原を攻略するに当たり、高原周辺の樹海トレイシーフォレストを突破せねばならない。 ただその樹海というのが、かなり厄介で道中 木々が全く無くなる場所がところどころ点在するのだ。 まるで陰毛を刈り取られた女の陰部のように不自然かつ綺麗にそこだけ木々が無いのだ。それらの場所は決っして兎人族が伐採して形成されたものではない。古代より存在する場所である。 その周辺では、重力がかなり強くなっていて、まるで地に入っぱられるかのように兵士達をねじ伏せる・・・行軍で疲労困憊の甲骨国軍兵士達の身体はその大地へと沈んでいった・・・
甲骨国軍の間でそれらはGスポット(Gravity Spot)と呼ばれ、恐れられた。

ただ兎人族はGスポットの重力に捕らわれる前に、すぐさまスポットを脱出できるだけの機動性に長けていた。そのため、方位磁石を狂わされた甲骨国軍兵士達がGスポットへと誘い込まれ、身動きがとれなくなったところを突如現れた兎人族に刺殺されるというケースが起こった。
甲骨国軍の中でも、進撃力の高い筈の丙武軍団がコネリー高原を落とせずにいたのは、それが理由であった。

     

砲撃隊長アレッポは当時甲骨国軍の両武軍団に居た。レーゼンビ一城を陥落させ,北方戦線もあとはコネリ一高原を攻略するのみである。甲骨国軍のホロヴィズ将軍はアレッポによる砲撃隊の援護は過剰殺戮と考えていた。今はクラウス将軍率いるアルフヘイム西方軍攻略のために、戦況が有利に働いているこの北方戦線からアレッポを異動させるべきだという考えだ。

だが,現状を目の当たりにしていた丙武はボロヴィズのこの判断が愚かなものであると言わざるを得なかった。

いくらレーゼンビ一城を陥落させたとは言え,コネリー高原までの間を甲骨国軍が無傷でくぐり抜けてきたわけではない。それどころか,コネリー高原までの進撃は予想に消耗を強いられた。白兎軍も不落のレーゼンビ一城を落とされ,衝撃を受けてはいたが,戦意を喪失していた訳ではなかった。退却しながらも,白兎軍は丙武軍団の追撃を抑え込んでいた。聖地ブロスナンへの想いが希望を失いかけていた彼等の最後に残された糸だった。白兎軍の抵抗ぶりは聖地への信仰というよりは,まるで愛する女を護るかのように壮絶であった。
「女王陛下万歳~!!」
また散り逝く白兎軍兵士の断末魔を
聞いて大方 丙武は予想がついていた
「奴らはピーターシルヴァニアン王家の為でも,ピアースの為でも,聖地ブロスナンの為でもない,女王の為に戦っているのだ」

かつて白兎人族を治めていた女王がいた。彼女の名前はヴェスパーと言い,国民を愛し,長年黒兎人族との和解を長年の悲願としていた程の慈悲深い女王だった。彼女は末期の肝臓癌と診断され,余命幾許もなかった
彼女は最期の地として白兎を代々見守ってきてくれた神々がいる聖地ブロスナンで、刻一刻と忍びつつあった死を迎え入れることを誓ったのだ。敗走状態の白兎軍が激しい抵抗ぶりを見せていたのは女王ヴェスパーのためであった。
その状況下で,彼等はこのトレイシーフォレスト攻略という難題に出くわしたのだ。Gスポットの正確な場所は上空からでも確認はできた
だが,このGスポットは常に移動し続けていた。そのため,上空からの偵察資料など数時間もすればただの紙切れと化した。故にGスポットは神出鬼没であるが故、回避は困難をきわめ、出くわしたら最後、あとは白兎軍兵士に嬲り殺しにされるだけだ。極めて士気抜群で,地の利と,獣の利がある彼等に白兵戦でかなう筈がなかった。丙武はアレッポにトレイシーフォレストの爆撃を命ぜざるを得なかった。

「どうやらホロヴィズ将軍閣下には誤った現状が報告されているようだ」

北方戦線攻略まであと一歩というところなのだ
ここでアレッポを引きぬかれるわけにはいかないのだ。

     

甲骨国軍参謀幕僚スズカ・バーンブリッツは激怒した
「バッカじゃあないの!?あんな大海原みたいなトレイシーフォレストを全焼させる砲弾を用意しろぉ!?出来ること考えて物喋れっつーの!このダルマ職人野郎!」

いくらアレッポの砲撃が森の攻略に
必要だといえ、 効率の悪過ぎるやり方だった。砲撃1つで焼やせる範囲など限られているし、爆撃した箇所が斑になってしまうのは明らかだった。おまけに爆撃した跡をGスポットが通過してしまえば元の木阿弥、爆撃した跡など微塵も残らない。
湧き出るアリの大群を針1本で一匹ずつ殺していくようなものだ。
砲撃にかかる莫大な費用の割に得られる見返りがあまりにも少な過ぎる。砲撃1つで西方戦線のクラウス軍の兵士を何人殺せるか想像せずとも良い。金は命より重い。故に金がかかるならそれだけ多くの敵兵の命を貰わなければ等価交換足り得ないのだ。
「あのクソバカ女がアあアァあ~~~~ッ!!!!」

あまりの怒りに丙武は受話器 を叩きつけた。

「前線に出て来ねえ癖に口だきゃァ
達者になりやがってぇ~~! !あのマンカスがァ!! 女は黙って肉便器の仕事を忠実にこなしてりゃぁいいものを~~~!!」
怒りのあまり男尊女卑向き出しの危険発言を発っした丙武を 軍団兵は少しドン引きしながら見つめた。いくら軍隊という組織が女卑的な風潮を避けられない組織と言えど、この発言は人格性を疑われる発言だった。

だが丙武の怒りも理解できないわけではない。効率は 悪かろうとも爆撃は森の攻略にはなくてはならない。
Gスポットが発生するのは木々が存在する場所だけだ。 なら、森を焼き払う以外にない。Gスポットだけでなく森に潜伏する厄介な兎人族も焼き払える。
だが、森が焼き払えない以上、Gスポットと厄介な兎人族に警戒しながら森を進むしかないのだ。だが今やその判断は最早不可能に近い絵空事となりつつあった。
今や兎人族の勢力は黒兎軍が加わったことにより、以前よりも強大になっていた。ただでさえ 機動性の高い白兎軍と制圧性の高いGスポットの
コンビネーションに苦戦を強いられていたのに、今度は闇夜の戦い
を得意とする黒兎軍だ。潜伏して白兎軍の目をかいくぐったとしても、黒兎軍の耳が待っている。
クリック音を放ちながらのエコロケーションで居場所を探られ、ワイヤーによる絞殺刑とブレードによる刺殺が待っている。
かといって強行突破しようものなら、たちまちGスポットに磔にされ、
兎人族軍に嬲り殺しにされる。
「どうあがいても敗北です、本当におつかれさまでしたア”アッ!」
負傷した今でこそ本部で指揮を執っている丙武だが、前線に出て現状を知っているだけに余計にブチ切れた
生き延びた兵士達は精神をやられ、もう戦える状態ではない。
黒兎人の放つクリック音におびえ、いつ首を掻かれるか分からぬ夜を過ごしたのだ。加えて神出鬼没のGスポットに怯え、クリック音の鳴り響く中を息を殺し、気絶と目覚めを何度も繰り返し生還したのだ。
「やめろぉ~~!舌打ちをやめてくれ~!!」

舌打ちの音が黒兎人族のクリック音に酷似していたため、生還した兵士の大半は舌打ちを聞くと極度に怯え、震えが止まらなくなっていた

「おォオ~のォォオ~れェェ~~~
あのビチグソのクリッカーどもォおおぉ~~~!」
丙武軍団の間では、黒兎人族の兵士は「クリッカー」と呼ばれるようになっていた。
「クリッカ一どもを率いているのはディオゴ・J・コルレオーネ大尉という男の様です」
「あの6つ耳野郎がぁァあ~!」
激痛を抑えるための麻薬で
ハイになっていた丙武は怒りのあまり持っていた48口径の大型拳銃を
握り潰してしまった。
目は血走り、何度も歯軋りをした囗からは血が何筋も流れていた。その
怒り狂った表情からは、以前 兎人族を活け作りにした時のような
ブッ飛んだ余裕に満ち溢れた姿は微塵も感じられなかった。
 クソ亜人をあと一歩というところまで追い詰めたと言うのに肝心の王手が打てない。それどころか、無駄に兵を消耗するばかり。
「大佐、拷問した黒兎軍兵士を吐かせました。」
情報を聞き出すため、丙武は何とか捕獲した黒兎軍兵士2名を拷問していた。まず、見せしめとして1人の
両手足を切断して達磨にし、本人ともう1人の目の前で両手足を焼いて食らっていた。これにより、もう1人がこの恐怖から逃れるために自白したがるという算段だ。
案の定、もう1人は自白した。
「人間タイプの黒兎人は、4つ耳の兎タイプとコウモリタイプと違って、プラス耳が2つある。基本、夜間の潜伏兵の索敵はこの人間タイプが行ってる・・・大尉はこちらを率いている。兎タイプは、人間タイプより脚力が優れていて機動性が高い。敵をGスポットまで誘導し、追いつめて始末する。コウモリタイプは、背中の翼を使って空中から索敵、加えて移動するGスポットの出現地点を 随時報告している」

「・・・そうか」
「なぁ 見逃してくれ 何もかも知ってることは話した!たの」 
頼むと言い切るのを待たず、黒兎軍兵士はマッシャーで顔面を破裂させられ即死した
「んなこと今更知ってどうなるって言うんだ このボケが!!!!」

丙武の言う通り、敵のプロフィールを知ったところでこの最悪な状況は変わらない。

「お困りかな?兄貴?」

怒り狂う丙武の前に現れたのは
ホロヴィズ将軍の息子メゼツ少尉であった。
甲骨国の丙家出身の2人は遠縁の親戚である、
丙家の中でも末端の一族出身の丙武に対し、
名家であるホロヴィズ一族出身のメゼツは
上官の筈の丙武を兄貴と呼ぶことを許されていた。
丙武はそんなメゼツを可愛がってはいたが、
メゼツは末端の分際でと内心バカにしていた。
いつもの余裕綽々な丙武の怒り狂う姿が滑稽に見えたのか、メゼツは微笑みかけるのであった。

       

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