Neetel Inside 文芸新都
表紙

黒兎物語
17 真友たちの背中

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 時間は半月前に戻る……
某年8月15日……

「気を付けェエイッッ!!!!」
 
人間タイプ、兎タイプ、コウモリタイプ……多種多様の姿をした
黒兎軍が聖地ブロスナンに集結し、女王ヴェスパーの療養する
ボンド神殿の大広場前に整列していた


その規模は60名規模の6個中隊 計360名と軍としては
大隊規模の小規模なものであった。
だが、黒い軍服に身を包む彼等の表情を見ていると本当に
360名なのかと疑問に思ってしまうほど大規模な軍隊に見えた……

軍人特有の体格の良さがだとか、士気が充実しているからだとか、
厳正な規律が維持されているからだとか、戦う為の信念があるからだとか……
そういった理由は幾らでも考えられるだろう…だが、彼等の芯にあるものはそういったものでは決して無い……
一言で言うのなら……「悲願の実現」だろう。

 そんな中、女王ヴェスパーが現れた……彼女は白いベールで顔を覆い、女王装束に身を包み、
大広場を見下ろせるボンド神殿最上階のバルコニーから
黒兎軍兵士たちを見下ろしながら 彼等に向け、優しく手を振った

「捧げェエエええええエエェえええええ~~~ッッ……
 銃ッッ!!!!!!!!!!!」

予令と動令には歓喜が満ち溢れていた……
それらに合わせて動く兵士たちの教練は、神への最大の敬礼の如く
誇りと自信に満ち溢れた動作となっていた

長年自分たちを兎人と認めてくれなかった白兎人族の女王ヴェスパーが
自分たちに向け、手を振ってくれたのだ……

一体、どれだけの
297年もの間……彼等の先祖が望み、実現できなかった渡る悲願が
今叶おうとしている……
その興奮を必死に抑え込んでいるからだろう……
ようやく彼等は反政府軍としてではなく、正規軍として、
兎人族軍として、アルフヘイム北方軍として、名誉ある軍隊として戦えるのだ……

女王陛下の退場後に、ディオゴ大尉が臨場した。

「大隊長に対し……!!!
 かぁ しぃ らァアああアアぁあああ~~~~~ッッ……
 中ァアッッ!!!」

6個中隊の長たちが一斉に挙手の敬礼を行い、
大隊長であるディオゴ大尉に向け、敬意を持って敬礼した。

 「諸君、俺たちは本日8月15日2230を以て……
 兎人軍兵士として、女王陛下の指揮下に入る!!!!
 これはすなわち……我々が兎人族軍として…アルフヘイム北方軍として……
 アルフヘイムを護ることを許されたのだ!!!
 ……かつて憎しみ合ってきた我々が同じ志のため……共に甲骨国軍を迎え撃つ……!!
 諸君……死力を尽くし、戦おう!!!共に愛する者達のために……!!」

ディエゴ大尉の右手の握り拳が聖地ブロスナンの夜空目掛けて掲げられた……
兵士達は最大限の歓喜を以て答えた



某年8月25日
アルフヘイム北方戦線
コネリー高原 トレイシーフォレスト……

敗走を続けていた白兎軍はとうとうトレイシーフォレストまで追い詰められていた……
女王陛下のためと、敗走を続けながらもよくぞこれ程まで激しく抵抗したものだ……
それは白兎軍も、敵である丙武も想っていた……

「ダンカン!!ラッシャー!!! そのまま追撃だぁアアああ!!」
前線に立っていた丙武大佐はマッシャーを乱射する中、
白兎軍をとうとうトレイシーフォレストまで追い詰めていた……

「あと一歩というところで聖地ブロスナンへと到達だ……!!
 クソッタレの下等亜人ども!! キサマらの女王陛下への
 忠誠心などそんなものッッ!!!!
 キサマらを踏み潰した後は、愛する女王陛下の頭蓋骨を
 女の髪の毛の如く 背骨から引き抜きィィ―――
 ワインの洋盃のようにして キサマらの生き血を啜ってやるぜェ―――ッッ!!」

丙武は、兎人族を次々と活け造りにして完全に有頂天になっていた……
彼の頭は脳内麻薬が全開で、全身を脳内麻薬が駆け巡っていた……

女王陛下のためと必死に踏みこたえてきた白兎軍もトレイシーフォレストを前にして
僅か20人近くの分隊にまで数を減らしていた……

「……クソ……もはや万事休すか……!!」

トレイシーフォレストを背にし、白兎軍は丙武軍団に包囲されてしまった……
抵抗されて軍団とは呼べぬ程、数を減らしたとは言え、
丙武軍団の数は連隊規模はある……その差は少なく見積もっても480……多く見積もって4000近く……
もはや白兎軍に勝ち目は無かった……

「……万事休すか……」

白兎軍兵士の誰もがそう思った……
だが、次の瞬間……彼らが背にするトレイシーフォレストから
台風の如き 弓矢が丙武軍団目掛けて 襲いかかった

「ぎゃぁあああああああああああ~~~~ッッ!!!」

丙武軍団のダンカン大尉とラッシャー中尉は降り注ぐ弓矢に
全身を剣山のように穴だらけにされ、血の海へと沈んだ

「クッ……クヲオオオオォォおおオオおオヲオオオオオォォぉぉオオッッ!!!」
突如として飛来した弓矢の嵐を 丙武は
機械化した両手で咄嗟に頭部と心臓部を護った……
防ぎきれなかった弓矢が肩や足、腹、肋骨へと命中し、彼は乗っていたバイクごと転倒した……

「うグふァあアッ!!」

命中した弓矢が転倒の衝撃で 肋骨を貫き、内部へと突き刺さった。
その激痛のあまり、転倒しながらも丙武は悶絶した。

「くそっ……!!」

通常ならば、弓矢による激痛だけでなく、転倒したことによる
擦過傷と打撲のあまり、立ち上がれない筈だった……
だが、流石は前線をくぐり抜けてきた丙武である……
口汚い悪態を尽きながら、彼は地に肘を付き頭を上げ、立ち上がった

「なんだ……!? いっ……一体何が……起こったんだ!?」

周囲を見渡すとそこは弓矢を受け、死亡したバイク兵の遺体と
炎上するバイクが転がっていた……

万事休すと運命を覚悟していた白兎軍の背後から続けざまに
彼等を援護するために、丙武軍団へ向けて追い討ちの矢が放たれる……
矢を拾い上げ、白兎軍兵士の一人が驚愕する

「……彼岸花の紋章……!! まさか……そんな筈は……!!」

有り得なかった……彼等を護った弓矢には……
かつて彼らが敵国と見下し、差別し、戦ってきた
黒兎軍の紋章が刻まれていた……

そして、同時に他の弓矢には彼等の愛する女王ヴェスパーの名が
刻まれた白兎軍のものがあった……

「……どういうことだ…?何故、黒兎軍の弓矢と……
 我らが兎人軍の弓矢が……同時に我らを護ったのだ……?」

その疑問は直ちに解消された……
彼等の横を白兎軍と黒兎軍兵士の騎馬隊が通り抜けていったのだ……

「……よくぞ踏みこたえてくれた!!!」

傷つき満身創痍の白兎軍兵士たちの目の前に現れたのは
彼らが尊敬して止まないセキーネ王子であった

「……ったく ズタボロじゃあねェか……」

それと同時に現れたのは
かつて彼らが敵として戦っていたあの黒兎軍を率いる
ディオゴ・J・コルレオーネ大尉だった

「セキーネ王子!!貴殿は負傷した兵士を連れ、一時退却せよ!!
ここは我らが押し返す!!!」

槍を振り回しながら、ディオゴ大尉はセキーネ王子へと
向き返り、決死の声で叫んだ

「大尉!!! 背中は任せた!!我らも直に戻る!!!
 真友(とも)よ!!! 十六夜の名に掛けて……ッッ!!
 必ず戻る!!!」

「分かったら直ぐに行けェエエええ―ッッ!!」

ディオゴ率いる白と黒の兎人族騎馬隊は、セキーネ率いる十六夜隊と負傷兵を残し、
深手を負った丙武軍団に向けて怒涛の突撃を開始した

「行くぞォオオおおおぉおオオ―――!!
 ここまで持ちこたえてくれた真友たちの血と涙を
 無駄にするなぁアアああああァアああ―――ッッ!!!」

白と黒など……もはや関係無かった
ディオゴ率いる兎人族軍は敵方へと向け怒涛の前進をしながら、
感謝と敬意を込めた背中で血塗れの負傷した真友(とも)達を
安全な場所へと送り出した……!!

「……まさか……そんな……!!何故です……!?
 何故 敵である筈の彼らが我々を……!?」

セキーネ王子率いる十六夜部隊はトレイシーフォレストの中を
Gスポッ……重力の渦を避け、駆け抜けていく……いくら機動性に優れた彼等とはいえ、
負傷兵を連れている身ではとても重力には逆らえそうにはない
幸い、彼等の行く道は上空の黒兎軍のコウモリ兵によって示されており、
上空から照らされる光を頼りに、セキーネ達は森を駆け抜けていった

「諸君に伝え遅れたこと心より詫びる……!!
諸君が血と涙を流してくれていた間、我らは黒兎軍と同盟を組んだのだ!!
互いの過ちを許し合い、共に護るべき者たちのため
戦うと誓ってくれたのだ!!! もはや、彼等は敵ではない!!同じ戦場を戦う真友だ!!!」

セキーネの歓喜と勇気に満ち溢れた心の底から血潮が沸き立つほどの温かい返答に
負傷兵たちは歓喜のあまり、嗚咽した……

「真友よ……!!ひとまず、彼等を本陣へと送り届ける!!
本陣の衛生部隊に引渡し次第、直ぐに我らも戻り……加勢しよう……!!
共に悪と…闘うために……!!!」

コネリー高原に大海原のように広がるトレイシーフォレストの坂道を
セキーネ達は駆け抜けていく彼等の姿はまるで
希望と勇気の道を駆け抜けるペガサスのように美しく輝いていた……


       

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Neetsha