Neetel Inside 文芸新都
表紙

黒兎物語
19 屈辱の咆哮

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 またも時は少し戻る…

ディオゴ率いる兎人族軍騎馬隊は、歩兵部隊の道を切り開くべくトレイシーフォレスト寸前まで迫っていた丙武の率いる連隊を押し返した。
「うぉああアアァああアア!!!!」
兎の血というより、むしろ獅子か虎の血が入ってるのかと勘違いしてしまうほどの巨大な雄叫びを挙げながら、ディオゴは斧を振り回した。振り回された斧の通り道には、敵兵の首が粉塵の如く舞い上がった……
「ぉぉおッッ!!すげェッ!!」
「ディオゴ大尉が道を開いたぞぉおおお―――ッッ!!」
 突っ込めェエエェエエえええええッッ!!!
白も黒も関係な く、兎人族は彼の切り開いた道を
敵を蹴散らしながら駆け抜けていく……
突撃戦よりも暗殺を得意とするディオゴであったが、
何度も戦いを経験してきた彼だ……騎馬戦で数十人ぐらいをなぎ払うことぐらいは容易い。
ディオゴ大尉による勇猛果敢な突撃で丙武軍団の連隊は蹴散らされ、ディオゴたちは徐々に巻き返していた……

「ちきしょうッ……!!舐めるなよ!!!
 この糞亜人どもがぁぁあああああああ!!!!!」
怒りのあまり激昂する丙武をマゾホン少佐、ガタルカナル大尉が抑え付ける
「大佐!ここは一時退却を!」
「離せぇェッ!離せぇェエえェエツ!!」
義手義足の丙武を抑えることは至難の技だ。
ビキニ拳法の使い手のマゾホン少佐、身体を機械化したガダルカナル大尉だからこそ、暴れる丙武を何とか取り押さえることが出来ている。
2人は大型トラック規模の大きさはあろうかという巨大バイクへと載せる。
「大佐!!ここは一時退却です!!」
「本陣に戻り、体制を立て直しましょう!!」
ソノマ・ンマー少 尉率いる狙撃隊が迫り来るディオゴたちの兵隊を抑え付ける。だが、数が多すぎて火力が足りない……退却するのならば今の内だ……
「黙れェエエェェッッ!!この俺の丙武軍団が……!!野蛮で下等な亜人どもに押し返される筈がねェんだぁああああああああ!!」
マッシャーを乱射しながら、なかば半狂乱の丙武は
煮えたぎる怒りで もはや激痛すら忘れていた。
こちらはマシンガンとガトリングガン、バイク、ジープ、トラック、ダンプ、ハンヴィーという近代兵器を持った文明の歴史がある軍隊の筈だ・・・
それが 弓矢と斧、ブレード、剣、馬、あっても48口径の大型拳銃と、ボトルアクション用のライフルぐらいしか持たぬ野蛮人どもの軍隊に押し返されている。
最も、その野蛮人達は近代兵器というハンデを補う
高い身体能力という武器があったわけだが、それを
差し引いても あれ程の人員が居て、これほどまで押し返されるのはおかしい話であった。
「大佐!!無礼をお許し下さい!!」
マゾホン少佐の手刀が、丙武の延髄にヒットした。
興奮状態であった丙武の脳は、一瞬で酸素欠乏状態となり
彼の意識は深淵へと沈んでいった……
「丙武大佐をここで死なせるわけにはいかん……!!
 大佐をお守りするんだぁあああああ!!!」
マ ゾホン隊とガタルカナル隊による必死の猛攻と、
ンマー隊の狙撃のトリオネーションのせいで、
ディオゴたちの部隊は逃げる丙武の巨大バイクに近づけずにいた……
「クソッ……あと一歩ってとこなんだぞッ!!」
あと一歩で丙武の首を取ることが出来るのに……
敵の猛攻を前にして、近づけずにいる……
丙武さえ倒せば、甲骨国軍の北方戦線は終わるというのに……!!
「タケシィィイイいい―――ッッ!!!!
 俺はここだぁあああああああ!!!」
アドレナリン全開のディオゴが悪魔のような咆哮を挙げながら
丙武のいる巨大バイクへと向けて躙り寄る……
 
「どけぇいいい!!!屑星どもがあぁあアァあッ!」
斧を振り回し、敵兵をなぎ払うディ オゴだったが……
ンマー隊の狙撃が彼のこめかみを掠めた……
「……大尉!!このまま深追いすれば味方を消耗するだけです……!!ここは一時退却し、トレイシーフォレストに籠城し機会を待ちましょう!!」
セキーネの代理を務める白兎軍の参謀がディオゴに進言した。
この状況では彼の判断は正しい……このトリオネーションを打破できるだけの火力は無い……
「‥…クソォ!!」
いずれにしろ、成果はあった。連隊を中隊規模にまで減らせた……
このまま突撃して無駄に兵を消耗しては、せっかくの成果を無駄にしてしまう。
「退却―ッッ!!総員トレイシーフォレストまで退却せよ!!」
悔しさのあまり、歯軋りをしながらディオゴ大尉は
悔しみの背中を向け、トレイシーフォレストへと向けて退却した
「……セキーネになんて言えばいい……!!」
ディオゴは自分に背中を任せてくれたセキーネに申し訳が立たなかった……
「ち……き…しょう……ディオゴ……
 俺は……偉大な……人間だ……
 人間が……畜生風情に……背を向けるなど……あって……たまるか……」
曖昧な意識の中、バイクに搭載された負傷者収容カプセルの蓋越しに天空を見つめながら 彼は悔し涙を流し、呟いた……

「あと一歩だったのに……」
ヴァンパイアの様に尖った犬歯を覗かせ、ディオゴ大尉は屈辱で唇を噛み締めた。


その屈辱は丙武も同じだ。 あと一歩というところで、ディオゴに邪魔をされたのだ。
「許さ・・・んぞ・・・野蛮人ども・・・偉大な人間に向かって・・・よくも・・・こんな屈辱を・・・!!」
天空を見ながら、丙武は屈辱のあまり、
肉が千切れるほど唇を噛み締めた。

両者は同じ悔しさを胸に抱きながら、屈辱の退却をしていった。

「ヲオオォオオオオオォオオ!」
屈辱の咆哮をあげ、逃亡する2人・・・
何がどうであれ2人は敵を背に向け逃げたのだ
男の戦場から背を向け、戦うことを放棄したのだ
あと一歩というところで、敵の首を取ることができたというのに、戦いを放棄したのだ
戦士として 男として 史上最大の屈辱であった。
だがそれも、己の無力さが原因である。
やり場の無い屈辱感を噛み締めながら、2人は
怒りの退却を開始するのだった……

       

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