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黒兎物語
4 亜国大戦編 前編 アルフヘイムの深淵

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精霊国家アルフヘイムは
エルフ族をまとめ役とし、魚、兎、犬、猫、獅子、竜、山羊などといった亜人族の
各々の族長同士で合議を行う共和国制度をとっている。
姿形も違う人種・民族が共存している素晴らしきユートピアであることを
謳い文句に周辺諸国から移民たちが集まってできた国家だ。

だが、実情はユートピアなどとは程遠いものであった。

この混血政策により、新しく誕生した種族は沢山いる。
アルフヘイムは彼等を多民族国家実現への第一歩だとはやし立て、祭り上げたが、
やがて人々も訪れる現実を目の前にして、ただの夢幻であったことを思い知らされた。
黒兎人族はまさにこの混血政策が生み出した史上最低・最悪の悲劇である。

性欲の強い白兎人族は、アルフヘイムの混血政策を推進する政治家共にとって
互いの利害を一致させる良い駒だった。その強すぎる性欲のあまり、
異種族であろうと見境なく交尾する白兎人族の前には、
魚・犬・猫・コウモリといった多種類の亜人族たちが差し出された。
案の定、白兎人の血を引く子供たちが生み出されはした。
だが、その殆どが奇形児であったり、生まれながらにして生命維持機能を持たない
子供達であったため、廃棄された。当然の結果だ。
いくら、「人間の血を引いている」という共通項を以外は異なる動物同士だ。
実際には 異なる遺伝子が上手く融合する確率など奇跡に近かった。
今でこそ、キメラ技術の進歩もあり以前よりも成功率は上がってはきている。
まるで最初から最後まで成功率が高かったかのような言い方をされているが、この事実はもっと粉飾されて語られている。

アルフヘイム・SHW・甲皇国に存在する数多の文献にも
まるで異種族間の交配が始めから終わりまで無事に成功したかのように粉飾され、語り継がれているが、
その裏では何千・何万もの失敗が踏み台にされてきたのだ。
いや、今もその失敗は踏み台にされ、失敗の種は今も熟成し続けている。特にこのアルフヘイムという底知れぬ深淵の中では……


その中でも、遺伝子的に成功したのは白兎人とコウモリとの血を引く亜人ぐらいだった。
度重なる交配実験の結果、ようやく同種族同士でも子を成せる種族として認められるに至った。
後に彼等は黒兎人族と呼ばれることとなる。

だが、遺伝子的に生物として生き残った彼等に訪れたのは白兎人族による差別であった。
白兎人族族長であるピアース3世は、黒兎人族を悪魔・魔女として迫害する政策を打ち出したのだ。

その元凶はエンジェルエルフ族族長ミハイル4世であった。
エルフ族の中でも、超過激派のエルフ族至上主義者である彼女にとって
今のアルフヘイムの共和体制は大変許されないものだった
エルフの足元にいるべき存在の亜人たちがエルフたちと同じアルフヘイム国民として立っていることが
有り得ないことだった。
中でもアルフヘイムの亜人族の中でもエルフに次いで多い種族である
兎人族は、彼女にとって目の上のタンコブでしかなかった。

そこで、彼女はこの混血政策に目をつけ、ピアース3世を唆す形で
兎人族同士を仲違いさせ、相討ちさせることを思いついたのだ。

エルフ族から正式に兎人族として認定するのは白兎人族のみとし、
黒兎人族は断じて認めなかった。このあからさまな差別ともとれる政策には
他のエルフ族からも批難はあったものの、ミハイル4世はこれらを
汚いやり方で黙らせた。それでも、ノース・エルフ族族長のダート・スタンなどを
筆頭とする穏健派のエルフ族は断固としてこの政策を受け入れはしなかった。
一時期はダート・スタンもエルフ議長権限を発動して、エンジェルエルフ族の追放を考えたが
ミハイル4世は事前のこのことを察知してか、穏健派の族長たちとパイプを持つラギルゥ一族と手を組み、
脅迫等の手段を用いて、穏健派を抑え付けた。ダート・スタンはたとえ、家族を殺されようと屈しないつもりではいたが
その他の族長たちはそういう訳にはいかなかった。
しかも、時代が悪かった。
戦時中ということもあり、エルフ族は一丸となって甲骨国と戦うべきであるというスローガンを掲げている以上、
こんなところで穏健派と過激派が衝突するなどという分裂を招く事態は何としても回避せねばならなかった。
よって、ダート・スタンはミハイル4世率いる過激派たちの横暴を「我々は決して協力はしない」という
悪あがきで対抗するしかなかったのである。


ミハイル4世は黒兎人族の身体的特徴を徹底的に紛糾した。
吸血鬼の使い魔であるコウモリの血を引き、黒い肌、肉食動物のような牙、
そして4つの兎の長耳と、2つの人間の耳を持つ6つ耳という異形振りであると。
そして、彼女はピアース3世に対し、「彼等は悪魔の化身だ」「兎の名を借りた悪魔だ」と熱弁した。

唆されたピアースはまんまと黒兎人族への差別と弾圧を強め、
やがて戦時中に黒兎人族への大虐殺を引き起こすこととなった。
戦後、その復讐のように
ミシュガルド大陸において、獣神帝の威を借りたディオゴ率いる黒兎軍による
白兎狩りが行われる復讐の連鎖が繰り返された


……そう 
アルフヘイムの掲げた多民族主義によるユートピアの実現は
むしろ新たな惨劇と悲劇の種を生み出したに過ぎなかったのである

       

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