Neetel Inside 文芸新都
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黒兎物語
31 ガイシ編 プロローグ

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甲皇国入植地ガイシ
甲皇国という名を冠するこの入植地は 名前とは裏腹にアルフヘイム、SHWの利権が絡み合う魔の都市である。あの丙武やメゼツといった好戦家の軍人を輩出した丙家が主導してはいるものの、このミシュガルド大陸においては各国の利害次第でどうにでもなることは多い。
おそらく70年にも及ぶ大戦によって疲弊し切った世の流れであろう。
もはや、己の意地や誇りで動く時代ではないのだ。
ガイシへと歩を進めながら、ダニィとマルネ・ポーロは話し続けていた。マルネもあの人職人人を求める
ダニィの行く末を心配していた。

「・・・人職人人は死者を蘇らせることが出来ると言われている。それも完全な状態で・・・あの愛したモニークにようやく会える」
ダニィは自分に言い聞かせるかのように呟いた。まるで隣で自分を説得しようとするマルネに、「頼むから放っておいてくれ」と言いた気だった。

「・・・だが、等価交換で奪われた代償はあまりにも重過ぎる・・・栄華を誇った大国カエサリウスが一夜にして滅んだ話や、手足と目を持っていかれ達磨にされた話や、更には母を蘇らせようとして生まれ変わりの娘を殺した話も聞いたことがあるだろ? それ程までに君は残酷な代償を背負うことになるんだぞ!」
マルネはダニィを何としてでも止めたかった。残酷な代償を背負わされたダニィのそんな姿を、モニークが喜ぶ筈など無いからだ。マルネはモニークと面識は無い、だがディオゴ&ツィツィ・コルレオーネ夫妻から尋ね聞いたモニークとの想い出から、モニークがダニィの決断を絶対に喜ばないという確かな確信があった。

「・・・マルネ。僕はモニークを失なったあの日から無意味に生きてきてしまったんだ。彼女を護ってやれなかったのに、自分だけのうのうと無駄に生きてきてしまったんだ。」
「もうやめてくれ ダニィ!
自分の人生を無意味とか無駄とか、そんな哀しいことどうして言えるんだよ・・・!」
マルネは目をおさえ、悲痛に叫んだ。
「・・・君は彼女の死をずっとずっと引きずり続けてきただろ! 彼女のことをずーっと想い続けてきたことも無意味で無駄なことなのかよ!」
マルネは肯定してやりたかった。
ダニィの哀れな人生を・・・・・・恋人モニークと触れ合うことも、キスをすることも、ベッドを共にすることも、子を成すことも、共に老いさらばえ死ぬことも永久に奪われたダニィ。彼はモニークを失なって以来、
頑なに恋をすることを拒んでいた。
モニークを忘れたくないから、裏切りたくないからと生涯独身と童貞を貫くと告げたダニィ・・・そんな彼の
一途な人生を心の底から崇めたかった・・・そんな彼の人生が無意味で無駄だと片付けられて許せる筈などなかった。たとえ、それがダニィ自身の言葉であっても許せる筈など無かったのだ。



「・・・マルネ 俺はただの理想家だった。モニークのことを想えば、この傷も癒されると・・・だが、それじゃあ何も解決しなかったんだ・・・
平和をいくら願い続けても、この世界から戦争がなくならない様に、いくら死者の安らぎを願っても、心の傷は決っして癒えることは無いんだ・・・死者を取り戻さない限り・・・・・・」

ダニィの滅びへと向かう目が
悲しい光を放ちながら、ガイシへの道を切実に悲しく照らしていた。
マルネはダニィの言葉に圧倒されながら、諦めることなく必死に説得し続ける・・・いつか必ず分かってくれるだろうと

       

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